- 2026/08/20 07:00 掲載
ASI「人間の1万倍」は本当か…孫正義・アルトマンが語らない、AI進化“締切2030年”(3/3)
科学者が2026年のいま納得できる「AGI」の本質的定義
「AGIとは、外側からの前提(枠)を必要とせず、自己言及によって自律的に枠を再設計し、無限定環境に適応し続ける知能」
──現在のAIが「与えられた枠(データやルール)の中でいかに賢く振る舞うか」を競っているのに対し、真のAGIは「その枠自体を自分で疑い、壊し、作り直すことができる生命的なシステム」を指します(注6)。
この定義から逆算すると、現在のAIの進化の「限界」も見えてきます。AIの成長を支えてきた「スケーリング則」──学習データを増やすほど性能が上がる、AGI/ASI宣言の拠り所です。ところが、地球上のデータをAIはほぼ学習し終え、「データ枯渇」に直面しています。そこで使われ始めた合成データ(AIが作るデータ)も、正解の基準が外にあるものしか作れず、宇宙の観測データのような未知は合成できません。研究機関Epoch AIは、学習データが2028年前後に尽き、2030年ごろに性能限界を迎えると定量的に示しています(注6-2)。この予測の背後にあるのも、「自己言及」の壁という構造的な限界です。
つまり「外からテストを課してAGIを定義しようとする行為そのものが、構造的な盲点(自己言及の欠如)によってすでに行き詰まっている」というのが筆者の考えです。
目が見えているのに見えなくなる
一定期間ののち、空間認識のテストによって、恐ろしい事実がわかりました。自分で歩いた猫は、距離を正しくつかみ、障害物をよけられました。ところがゴンドラ猫は、目は開いているにもかかわらず、距離感をつかめず、障害物に気付くこともできなかったのです。自ら動き、その結果を感じ取る自己言及の経験のないゴンドラ猫は、目の前の景色を「感じる」ことすらできなかったのです。
今後、LLMがどれだけ進化しても、その正体は、外からデータを与えられた、自己言及のできないゴンドラ猫と本質的に同じです。恐ろしいことに、これはAIを使う私たちにも当てはまります。AIの出力を鵜呑みにし、言われるがまま意思決定する人は、やがてゴンドラ猫のように、目の前で起きていることに「気付く」ことすらできなくなるでしょう。
一方、AIを情報収集と分析の道具として手足のように使いこなし、自ら責任を持って判断する人は、これまで以上に能力を高めていきます。両者を分けるものは、ただ1つ。「自己言及」を手放していないか、それだけです。
裏を返せば、私たちには「自己言及」という確かな拠り所がある。ここに気づくと、AI開発競争で後塵を拝しているはずの日本の、意外な武器が見えてきます。半世紀前、西田幾多郎から清水博、野中郁次郎へと受け継がれた日本の知が、この問いに、すでに答えを出していたのです。次回、私たちが文化として潜在的に持つ日本の知を紹介します。
| (注1) | 孫正義「SoftBank World 2024」特別講演(2024年10月) |
| (注2) | I. J. Good「Speculations Concerning the First Ultraintelligent Machine」(1965)/V. Vinge「The Coming Technological Singularity」(1993)/R. Kurzweil『The Singularity Is Near』(2005)・『The Singularity Is Nearer』(2024)/N. Bostrom『Superintelligence』(2014) |
| (注3) | D. Hendrycks et al.「A Definition of AGI」arXiv:2510.18212(2025)=GPT-4=27%・GPT-5=57%、長期記憶の保存は両モデル0% |
| (注4) | (表1)[4a] A. M. Turing「Computing Machinery and Intelligence」Mind(1950)/[4b] S. Legg & M. Hutter「Universal Intelligence」Minds and Machines 17(4)(2007)/[4c] M. R. Morris et al.「Levels of AGI」(2023, Google DeepMind) |
| (注5) | F. Chollet「On the Measure of Intelligence」(2019)/ARC Prize Foundation「ARC-AGI-3」(2026) |
| (注6) | 松田雄馬『人工知能の哲学』(2017)/松田雄馬『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』(2018) |
| (注6-2) | Epoch AI「Can AI Scaling Continue Through 2030?」(2024) |
| (注7) | J. Huang et al.「Large Language Models Cannot Self-Correct Reasoning Yet」ICLR 2024=外部フィードバックなしにLLMは推論を自己修正できない |
| (注8) | R. Held & A. Hein, J. Comparative and Physiological Psychology 56(5)(1963)=ゴンドラ猫実験 |
| (注9 ) | Y. LeCun「A Path Towards Autonomous Machine Intelligence」(2022, OpenReview)=世界モデル(JEPA) |
| (注10 ) | 自己言及・無限定環境:矢野雅文(東北大学)/清水博『生命知としての場の論理』(1996)/西田幾多郎『場所的論理と宗教的世界観』(1945)/松田雄馬『人工知能の哲学』(2017)・『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』(2018)。 |
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