- 2026/08/13 12:50 掲載
統合失調症の遺伝子網をAIで解析…従来見落としの641遺伝子を特定
従来のトランスクリプトームワイド関連解析(TWAS)は、主に対象となる遺伝子から前後100万塩基対以内にある「cis-eQTL」と呼ばれる遺伝的変異を使い、遺伝子の発現量を推定してきた。ただ、遺伝子の働きは近くにある変異だけで決まるわけではない。研究チームは、離れた場所から働く「trans」の制御を捉える「INGENE」と「MODULE」という2つの予測手法を開発。脳の6領域から得た死後組織のRNAシーケンスデータなどを使ってモデルを構築した。
さらに、従来のcis型モデルと新たなtrans型モデルを組み合わせ、精神医学ゲノミクスコンソーシアム「PGC3」の欧州系10万2613人、62コホートの遺伝情報を解析した。その結果、統合失調症との有意な関連が示された766個の遺伝子を特定。このうち641個、83.7%は過去のトランスクリプトームワイド解析で報告されていなかった。608個は、従来のゲノムワイド関連解析(GWAS)で有意とされた領域の外側に位置していた。
解析では、前頭前野で神経細胞の情報伝達に関係するAMPA受容体の集積や輸送に関わる経路が浮上したほか、複数の脳領域で抗原処理やMHCに関連する経路との関連も示された。リーバー脳発達研究所によると、研究を主導したジュリオ・ペルゴラ氏は「統合失調症のリスクは、個々の遺伝子が単独で働くことだけではなく、遺伝子のネットワークがどう連携するかに関わる」と説明している。
一方、今回の結果は統合失調症を引き起こす「原因遺伝子」を766個確定したという意味ではない。論文は、解析で示されたのは遺伝的に予測された遺伝子発現との関連であり、因果関係は確立していないと明記した。また、死後脳の組織をまとめて解析しているため細胞種ごとの影響を十分に捉えられないほか、性差を考慮しておらず、解析対象が欧州系に限定されていることも研究上の制約としている。
世界保健機関(WHO)によると、統合失調症は世界で約2300万人に影響している。今回の研究は診断や治療に直結する段階ではないものの、従来は捉えにくかった遺伝子ネットワークを解析することで、病態の仕組みを調べる対象を広げた形だ。今後、実験による検証が進めば、治療標的となり得る遺伝子やネットワークを絞り込む手掛かりになる可能性がある。
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