- 2026/11/05 06:10 掲載
なぜ優秀だった上司ほど「会議とハンコ」を増やす?元伊藤忠人事が語る“意外な原因”(2/3)
なぜ「優秀だった上司」ほど会議とハンコを増やすのか
──プレーヤーとして高く評価された人が、管理職になると何が変わるのでしょうか。渡邉氏:プレーヤーだった頃は、自分で徹底的に準備して、自分で判断して、ミスを減らせばよかった。でも、役員は人を通じて成果を出す立場です。
私が見たケースでは、昇進した後に「とにかく会議をしよう」と言い始める人がいました。お客さんに会うことより、社内で確認することを優先してしまう。すると、社員の時間や労力がどんどん社内に向かってしまうんです。
たとえば、部下が自分で決めようとすると、「自分ならそうは決めない」と上司が介入する。新しいことを試すより、他社で実績のある方法を選ぼうとする。自分の権限で押せるハンコなのに、さらに上司に確認しておこうとする。
どれも、マネジメント上の不安を減らして安心したいという行動なのだと思います。しかし、それを繰り返すと、部下は自分で物事を決められなくなります。
プレーヤーとマネージャーは別のゲームです。自分で仕事をしていた頃は、準備を徹底することでミスを減らせました。でも、管理職があらゆる仕事を確認しようとすれば、部下の判断する機会がなくなってしまいます。
私は、その背景に、自分の不安をうまくマネジメントできていないことがあるのではないかと考えています。だからといって、ストレス耐性が低い人を昇進させるべきではないと言いたいわけではありません。
勅使川原氏:私も、「不安」を個人の人格の問題にしてしまわないことが大事だと思います。「本人が不安を抱えているから悪い管理職だ」と決めつけるのではなく、その不安を組織としてどう支え、行動を変えられるようにするのか。そこまで考える必要があるのでしょう。
そもそも、管理職があらゆることを確認しなければ安心できない環境では、部下が自分で考えて行動することも難しくなります。組織として、上司と部下がどのような関係を築けるのかが重要だと思います。
データから導き出した、社員が仕事に没頭できる「4条件」
クリックをすると購入ページに移動します
渡邉氏:私は新規事業を担当していた頃、社員から新しい提案がなかなか出てこないことに悩んでいました。そこで、積極的に顧客へヒアリングに行き、新しい仮説を考える人は、どのような状態で仕事をしているのかを調べたのです。
その際に注目したのが「没頭感」でした。仕事に夢中になれるのは、どのような条件がそろったときなのか。ワークエンゲージメントやフローに関する先行研究も参考にしながら、データを見ていきました。
そこで私が重視するようになった条件は、大きく4つあります。私はこれを「FANSモデル」として整理しました。
まず、Fは「Feeling of contribution(貢献実感)」。自分の仕事が顧客や周囲の人の役に立っているという手応えです。言われた作業をこなすだけでなく、自分の仕事が誰に、どのような価値をもたらしているのかが分かることが重要です。
次に、Aは「Authority(自己決定感)」。仕事の進め方について、自分で決められているという感覚です。何をするにも上司の指示や許可が必要な状態では、自分の仕事だという実感を持ちにくくなります。
Nは「New(新規性・創造性)」。新しいアイデアや工夫が受け入れられることです。今までと違うやり方を考えたり、試行錯誤したりできる環境が必要です。
そして、Sは「Speed(仕事のスピード感)」。決めたことが滞りなく前に進むことです。何かをやろうとしても、社内の承認を何度も待たなければならない状態では、仕事の勢いが失われてしまいます。
この4つが、社員が仕事に没頭できる環境を考えるうえで重要だと思っています。特に、私の分析では、社内で必要なハンコの数が少ないことと、没頭感が高いことに関係が見られました。
単に承認の手間が省ければ気分が良くなる、という話ではありません。顧客のために何をすべきかを考えても、社内の許可を待つ時間が長ければ、すぐに行動へ移せない。自分で決めているという感覚も薄れてしまいます。
逆に、その場で試せることが増えると、顧客の反応を見て、次の仮説を考えられる。貢献実感も得やすくなります。つまり、FANSの4つの条件は、互いに関係しているんです。
勅使川原氏:私も組織開発の現場で、イノベーションを起こしたいという相談を受けると、社員の時間の使い方を変える提案をすることがあります。なので、今のお話はよく分かりますね。社員にもっと頑張れと言うのではなく、本人が仕事に向き合える時間や、自分で決められる選択肢を確保する。そのために組織が何を変えられるかを考えることが大切なのだと思います。
FANSモデルの4つの条件も、社員個人に「もっと主体的になれ」と求めるものではありません。むしろ、社員が主体的に動ける環境を会社がどう作るか、という問題なのだと思います。 【次ページ】「自由にやれ」では不十分…部下が動き出す権限の渡し方
人材管理・育成・HRMのおすすめコンテンツ
人材管理・育成・HRMの関連コンテンツ
PR
PR
PR