- 2026/11/05 06:10 掲載
なぜ優秀だった上司ほど「会議とハンコ」を増やす?元伊藤忠人事が語る“意外な原因”(3/3)
「自由にやれ」では不十分…部下が動き出す権限の渡し方
──FANSモデルの4つの条件を踏まえると、管理職は具体的に何を変えればいいのでしょうか。渡邉氏:たとえば、金曜日の一定の時間を、部下が自由に使っていいことにする方法があります。普段は商品の売買や決められた業務をしている社員に、スノーボードを楽しんでいる人や、素材メーカーの話を聞きに行ってみようと伝えるんです。顧客が何に困っているのか、どこに新しい仕事の種があるのかを探してもらう。それだけでも、仕事の見え方は変わってきます。
大切なのは、時間の使い方だけでなく、決める権限も任せることです。自分で行き先を決め、自分しか気づけなかった課題を見つける。そうすると、「こうすればお客さんが喜ぶかもしれない」と考えるようになります。
誰かの役に立っているという貢献実感が生まれ、自分で決めているという感覚も得られる。FANSでいうF(貢献実感)とA(自己決定感)につながりますし、新しいアイデアを考えるN(新規性・創造性)の要素も出てきます。
ただ、何でも自由にしていいわけではありません。何を自分で決めてよいのか、最初に握っておくことが重要です。たとえば、10ある工程のうち、特定の工程の調達先は担当者が決めてよいとする。その代わり、周囲に迷惑がかからないようにし、費用対効果も考えてもらう。そうすると本人は、関係者の意見を聞きながら、自分の責任で判断しようとします。何でも自由にするのではなく、決められる範囲を明確にしたうえで任せる。そこが大事だと思います。
勅使川原氏:「任せる」と言いながら、ただ放任するわけではないのですね。自分で決められる範囲を明確にすれば、周囲との関係も保てます。本人のやりたいことと、組織として果たすべき仕事も切り離されません。自律性を尊重しながら、周囲と協力できる環境を整えることが大切ですね。
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──部下に権限を渡すことが怖い管理職は、どう変わればいいのでしょうか。
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渡邉氏:まず、自分の不安をマネジメントすることから始めるとよいと思います。私は、社員が没頭できる条件を整えることに加えて、マネージャーや経営層が自分の不安と向き合うことが重要だと考えています。
たとえば、役員になった後にコーチングを受けたり、社外の人と議論したりする。会議がどれくらい増えているのか、部下がどの程度自分で判断できているのかを、データで確かめることも考えられます。
勅使川原氏:その考え方には強く賛成です。ハラスメントの問題でも、ハラッサーと呼ばれる人はたいがい、不安で疑心暗鬼な人が、強く出すぎた結果が多い。と言うと、「ハラスメント加害者の心の問題を~」などとなりがちですが、それも違う。問題を起こした人の性格だけを変えようとするのではなく、そうした行動が生まれる仕組みを変えられないかと考えています。
不安を抱えている管理職に対しても、個人で何とかしろと言うのではなく、組織として支える方が、行動を変えやすいのではないでしょうか。
──とはいえ、会社全体の働き方を変えるのは簡単ではありません。どこから手を付ければいいのでしょうか。
渡邉氏:私は、いきなり全社で改革するのではなく「特区」を作ることを勧めています。たとえば100人の組織なら、まず手を挙げた5人に、一定の時間と権限、達成すべき目標を渡してみるのです。その5人から新しい提案や成果が生まれれば、周囲も「あの人たちは面白そうなことをしている」と感じるようになります。まず着火できるところから始めて、少しずつ広げていく方が現実的だと思います。
ただ、そこも簡単ではありません。特区の人たちが楽しそうに働いているほど、周囲から「遊んでいる」と見られてしまうことがあります。だからこそ、経営トップが、なぜこの取り組みをするのか、何を変えたいのかを明確に示す必要があります。成果を動画や記事などで社内に共有することも大切です。
トップが「任せよう」と言っていても、その下の幹部が不安になって、何でも確認させようとすれば、改革は止まってしまいます。
勅使川原氏:社員にもっと前向きになれ、主体的に動けと求めるだけでは、職場は変わらないということですね。管理職の不安を組織として支え、社員が使える時間や、自分で決められる範囲を変える。働く人の能力や性格を一方的に評価する前に、組織の仕組みを見直すことが必要なのだと思います。
渡邉氏:そうですね。ただ、社員が仕事に没頭できれば、必ず事業が成功するわけではありません。最後に買うかどうかを決めるのは、お客さんです。大切なのは、顧客を起点にして、そのうえで社員が仕事に没頭できる環境を整えることです。
会社にどれほど意欲的な社員がいても、自分で決められず、新しいことも試せず、承認待ちばかりでは、その力を十分に発揮できません。FANSの4つの条件を整えることは、単なる社員の満足度向上ではなく、顧客への価値提供につながる組織を作るための出発点だと考えています。
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