- 2026/10/30 06:40 掲載
【単独】AIを使って早く帰る社員は“ズルい”のか?日本企業を蝕む「最悪の努力主義」
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社)他著書多数。近著に『職場の違和感』(ダイヤモンド社)、『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)、『ハラスメント最終報告』(晶文社)、『人生は逆算できるのか』(ちくまプリマー)などがある。2026年12月に『「努力は必ず報われる」は本当か』(SBクリエイティブ)が刊行予定
VITAL DESIGN代表。Langara College(カナダ)、上智大学を経て豊田通商、伊藤忠商事にて合計13年にわたり人事・組織開発および新規事業開発を担当。米国公認会計士。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会研究員。累計3万人規模の人事データを解析し、社員の潜在的ニーズを発掘、風土改革をリードするなど、企業の組織変革に実績を持つ。新規事業開発プロジェクトにおいては、豊田通商、伊藤忠商事の両社で全社横断型のリーダーとして100件以上の新規案件を審査・伴走。事業化を実現しつつ、人事データサイエンスの知見と経営的視点を掛け合わせ、組織風土改革をけん引。ReHacQ・PIVOT・TBS CROSS DIGなど各種メディアでの出演回は計72万回再生を突破。著書に『部下のやる気は仕組み化できる データサイエンスでわかった熱狂するチームのつくり方』(SBクリエイティブ)
AIを使って早く帰る社員は「頑張っていない」のか
生成AIを使えば、下調べや資料のたたき台を短時間で作れるようになった。かつて長時間かかっていた作業を効率化できる一方、“浮いた時間”に何をするかは社員によって違う。そこで表面化するのが「努力の見え方」という問題だ。たとえば、同じ仕事を終えた2人の社員がいたとする。1人はAIを活用して早く帰り、もう1人は夜遅くまで手作業を続けた。出来上がったものが同じでも、後者の方が「頑張っていた」「一生懸命だった」と好意的に見る人もいるかもしれない。反対に、AIを使った前者には「楽をした」という印象を抱く人もいるだろう。こうした見方が評価に影響すれば、効率よく働いた社員が不利になる可能性もある。
豊田通商と伊藤忠商事で人事や新規事業開発に携わった経験を持つ渡邉 貴志氏は、AIで時間を短縮した社員は努力が見えにくいために、周囲から「頑張っていない」と判断され、評価や信頼関係に影響する可能性を指摘する。
一方、組織開発コンサルタントの勅使川原 真衣氏は、これはAIの登場によって生まれた問題ではないと考える。仕事の目的が曖昧なまま、長く働くことや「頑張っているように見えること」を褒める、日本企業の悪しき価値観の表れにすぎないという。
「努力すれば報われる」は、本当に正しいのか。勅使川原氏は、私たちが当たり前だと考えてきたこの前提に疑問を投げかける。なぜ、社員の頑張りを評価するはずの仕組みが、かえって効率よく働く人を不利にしかねないのか。渡邉氏の伊藤忠での経験も交え、「最悪の努力主義」をもたらす背景に迫る。
「努力すれば報われる」は、そもそも本当だったのか
──AI時代になっても「努力すれば報われる」という考え方は通用するのでしょうか。勅使川原氏:その問い自体に少し違和感があります。AI時代になったから努力が報われなくなるというより、そもそも今までは努力をすれば報われていたのでしょうか。私は、努力が報われるかどうかは今も昔も分からない、ということが重要だと思っています。何を成果と捉えるかによって、何が努力と見なされるかも変わります。だから、まず成果の定義を考える必要があるのです。
「能力主義」と「努力主義」は、強く結びついています。お金でも土地でも、人が使える資源には限りがあります。そうした限られたものをどう配分するかという問題に対して、能力に応じて配るという考え方が生まれました。
一方、努力主義には、頑張った人が報われると信じてもらい、頑張り続けてもらうという側面があります。資源を巡る競争が厳しくなるほど、努力の方向性を考えないと、ただ全身全霊でやっていれば報われるという話ではなくなります。
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社)他著書多数。近著に『職場の違和感』(ダイヤモンド社)、『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)、『ハラスメント最終報告』(晶文社)、『人生は逆算できるのか』(ちくまプリマー)などがある。2026年12月に『「努力は必ず報われる」は本当か』(SBクリエイティブ)が刊行予定
渡邉氏:私は人事と新規事業開発を経験して、その曖昧さはずっと感じてきました。たとえば、新規事業を立ち上げるために夜まで顧客にヒアリングして、資料を山ほど作る。でも、お客さんがまったく買ってくれなかったとき、その人をどう評価すればいいのでしょうか。本人はものすごく努力している。だからといって、それが事業の成果になったとは言えません。努力、能力、成果を、本人の納得感も含めて人事制度にどう組み込むのかは、本当に難しい問題です。
豊田通商、伊藤忠商事にて合計13年にわたり人事・組織開発および新規事業開発を担当。累計3万人規模の人事データを解析し、社員の潜在的ニーズを発掘、風土改革をリードするなど、企業の組織変革に実績を持つ。新規事業開発プロジェクトでは、豊田通商、伊藤忠商事の両社で全社横断型のリーダーとして100件以上の新規案件を審査・伴走。事業化を実現しつつ、人事データサイエンスの知見と経営的視点を掛け合わせ、組織風土改革をけん引。著書に『部下のやる気は仕組み化できる データサイエンスでわかった熱狂するチームのつくり方』(SBクリエイティブ)
勅使川原氏:私は努力そのものを否定したいわけではありません。大事なのは、「何のための努力なのか」です。成果の定義がないまま、頑張っている姿だけを褒めれば、どこまでやれば十分なのか分からなくなります。本人のためにも、会社のためにも、その状態を放置してはいけません。 【次ページ】「頑張る姿」を褒める会社は、なぜ“危うい”のか
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