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  • 2010/04/16 掲載

営業キャッシュ・フローとは何か?キャッシュマネジメントの最重要項目を読み解く:CIOへのステップアップ財務・戦略講座(8)

キヤノンのキャッシュ・フロー計算書を例に分析

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先日、筆者はある会社のCIOとお会いする機会があり、「最近になって特にキャッシュマネジメントが重要になってきている」というお話をうかがいました。景況感が引き続き厳しい現在においては、キャッシュ管理の重要性は言うまでもありませんが、財務担当に限らず、CIOやビジネスマネージャにまで、「キャッシュ・フロー」を意識せよ、との号令が出ている企業もあると聞きます。前回は「キャッシュ・フロー経営」の要点についてお話しましたが、今回はさらに一歩踏み込んで、「営業キャッシュフロー」とは何かについて、キヤノンを例にご説明しましょう。

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

2005年東京大学大学院情報理工学研究科修了。博士(情報理工学)。英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所訪問研究員を経て、2006年日興シティグループ証券にてITサービス・ソフトウェア担当の証券アナリストとして従事したのち、2009年3月にフューチャーブリッジパートナーズ(株)を設立。経営コンサルタントとして、経営の視点から、企業分析、情報システム評価、IR支援等に携わる。アプリックスIPホールディングス(株) 取締役 チーフエコノミスト。共著に『使って学ぶIPv6』(アスキー02年4月初版)、著書に『これならわかるネットワーク』(講談社ブルーバックス、08年5月)、『ネット企業の新技術と戦略がよーくわかる本』(秀和システム、11年9月)。『ビックデータ戦略』(秀和システム、12年3月)、『図解:スマートフォンビジネスモデル』(秀和システム、12年11月)。
ホームページ: http://www.futurebridge.jp

営業キャッシュ・フローと営業損益は一致しない


 まず、営業キャッシュ・フローとは、企業が日々商品やサービスを提供することで得たキャッシュ(現金)の増減を示すもの、と定義できます。 このように言うと、損益計算書(P/L)の売上高から売上原価・販管費を差し引いた「営業利益」と「営業キャッシュ・フロー」はどう違うのか、わからなくなる方もいるかもしれません。

 概念としては似ていますが、営業利益は必ずしも現金によるやりとりが伴わない損益が含まれているのに対して、営業キャッシュ・フローは“現金のやりとり”(キャッシュ・フロー)に注目している点に違いがあります。

 企業は個人と違って現金払いが中心ではありません。通常は支払う期日を約束し、先に商品を納品する掛け取引、いわゆる“ツケ払い”が中心です。ツケ払い(あるいは受け取り)の場合、実際のキャッシュに動きはありません。あくまで期日までに支払う約束をするだけです。そのため、ツケ払いの増減によって、営業キャッシュ・フローと営業利益は異なることになります。

 キャッシュ・フローを改善する方法として、しばしばコンサルタントが用いるのが「支払い条件の変更」です。たとえば、売上債権をできるだけ早く現金化するように売上債権の回収期間を短くすれば(つまりツケ払いを早く回収すれば)、同じ売上水準であっても営業キャッシュ・フローは改善することになります。

 この「ツケ払い」の処理のほか、現金でやり取りを行わず、損益が増減する項目に、減価償却費などがあります。次で詳しく見ていきましょう。

営業キャッシュ・フローの求め方


 では、どのように営業キャッシュ・フローは求められるのでしょうか?

 その計算方法は、直接法と間接法の2種類に分けられます。直接法は、すべての現金収支を記録し、それをまとめる方法です。間接法は、損益計算書の最終利益である当期純利益から現金収支を伴わない損益を加減して、実際の現金収支を計算する方法です。

 表1では直接法と間接法、それぞれの方法で、簡単に営業活動によるキャッシュ・フローを求めてみました。ご覧いただくとわかるとおり、いずれも結果は同じ(表では+600億円)です。

直接法間接法
営業収入2,000税金等調整前当期純利益1,500
原材料の現金仕入-700減価償却費500
人件費-600売上債権の増減額(増加:▲)-600
支払い利息-100たな卸資産の増減額(増加:▲)-300
仕入債務の増減額(増加:▲)-500
営業活動によるキャッシュフロー600営業活動によるキャッシュフロー600


 直接法では現金による営業収入、そこから原材料仕入のために支払った現金支払い、そして人件費や支払い利息などを記載し、直接営業活動によるキャッシュ・フローを求めます。

 間接法では、当期純利益から現金収支を伴わない損益を加減する形で間接的に営業活動によるキャッシュ・フローを求めることになります。

 現金収支を伴わない損益とは、まず先ほど述べた“ツケ払い”が該当します。具体的には、売上債権、たな卸資産、仕入債務の3つの増減で表されます。たとえば、売上債権が増えた、ということは、その分本来キャッシュで受け取るはずのものを、手形などで受け取ったということで、マイナスする必要があります(もちろんその手形がさらに現金化されていれば、マイナスする必要はありません)。同様に、支払いを現金で行わずに手形などで行えば、それはキャッシュが出ていったわけではないのに費用とされている項目になるので、これを打ち消す処理、つまり増額する必要があるわけです。たな卸資産は、ツケ払いというわけではありませんが、第2回で取り上げたように、在庫水準を増やせば、それだけ現金流出が増えます、一方、在庫水準を削減すれば現金流出は減ります。

 また、“ツケ払い”だけではありません。減価償却費なども該当します。資産の購入の際には、キャッシュ(あるいはツケ)で支払いを行います。その後、その資産を利用した期間や利用した量に合わせて減価償却費という費用を発生させるわけですが、キャッシュの移動は特にありません。なので、これを除外してやる必要があるのです。

 このように理論上、間接法はややこしいのですが、実務ではすべての現金取引をまとめるのには多大な労力を要します。そのため、現在の営業キャッシュ・フロー作成にあたって、ほとんどの企業が間接法を採用しています。

>>次ページ キヤノンはいかにして金融危機を乗り切ったか

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