• 会員限定
  • 2010/05/24 掲載

歴史的視点でとらえた情報革命:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(18)

九州大学大学院教授 篠﨑彰彦氏

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
IT導入の経済効果については、1990年代の米国を対象としたミクロ分析やマクロ分析に加えて、19世紀末から20世紀にかけてみられた蒸気機関から電力への技術変化など、産業革命後の技術革新が経済社会に及ぼした影響を探る歴史分析も盛んになった。それは、米国経済の再生を背景に、時間が経過すれば間違いなく効果が現れるはずだという解釈と結びつき、後にバブルへとつながる過剰な自信をも醸し出していった。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

電力革命と情報革命

 1987年にソローが提起した「生産性パラドックス」については、現代の米国を対象としたミクロ分析、マクロ分析に加えて、歴史的な観点からの考察も進められていた。

 David(1989)は、19世紀末から20世紀にかけての第二次産業革命期にみられた電力技術の導入を分析対象に取り上げ、新技術の導入開始から生産性向上の実現までにはかなりのタイム・ラグがあったことを丹念に跡付けている。彼によると、1881年のニューヨーク中央発電所建設から約20年後の1899年時点で、電気の普及率は製造業で5%、一般家庭で3%に過ぎず、普及率が5割を超えたのは、さらに約20年後のことであった。電化がもたらす経済社会全体へのプラスの効果は、それから後にようやく現れはじめたが(注1)、その間は蒸気機関という旧技術と電力という新技術の並存による非効率が避けられない。

表1 電力革命と情報革命のアナロジー
電力革命情報革命
開始時期19世紀後半20世紀後半
移行期19世紀末20世紀末
経済効果20世紀初頭21世紀初頭?

 たとえば、工場についてみると、動力源が蒸気機関か電力かによって、工場内の設備装置の配置と作業内容はまったく異なるであろう。電力の導入が工場内のスペース利用、照明度、施設の維持管理、安全性の面ではるかに優れているとしても、既存の稼動可能な設備装置をすべて廃棄して一気に電力対応型へと更新したのでは、過去の投資が膨大な埋没費用となって経営を圧迫してしまう。そのため、現場レベルでは、電力という新技術の部分的な導入による旧技術との並存期間がある程度続かざるを得ないのだ。

 大掛かりなシステム転換には時間を要するという現実は、人材訓練や組織管理上のノウハウ蓄積面で非効率の温床となり、経済全体でみると、技術の二重構造による生産性の停滞をもたらすことになる。だが、別の見方をすると、旧技術から新技術への転換が完了したあかつきには、非効率がなくなり、新技術導入による生産性上昇の効果が全面的に現れることも意味する。この点は、経済発展の軌跡を長期の時間軸で観察すると、単調な右上がりではなく、助走期、勃興期、成熟期と推移するS字型の曲線が描かれるという歴史的経験からも読み取れることだ。

photo
図1 S字型の経済発展


【次ページ】社会の適応には半世紀必要

注1 David(1989)によると、米国製造業の全要素生産性は1920年代以降に急上昇している。

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

仮想化戦国時代再び

 パブリッククラウドやプライベートクラウド、仮想基盤、コンテナ基盤など、様々なサービスやツールが提供され利用可能となっている現在、それらをどのように組み合わせて利用するか、そして、その環境を如何に効率的に運用管理していくのか、IT管理者にとっての大きな課題です。  慎重に検討し最適と考えた環境を導入したが、パブリッククラウドのコスト高騰やベンダーの突然のポリシー変更によるプライベートクラウド環境の再検討など、外的要因も含め色々な問題が発生し、都度、対応が求められている。そんなお客様も多くいらっしゃるかと思います。このような様々な問題への対応が必要な今こそ、個々の問題への対策にとどまらず、新たなITの姿を考える良いチャンスではないでしょうか。  変化による影響を受けやすい現在のIT環境から脱却し、ITインフラに依存しない柔軟な運用環境を実現する。ITインフラを意識する事なくマネージメントできるニュートラルな運用環境へシフトする。サービスやツールの導入・変更にもスムーズに対応でき、求められるユーザーサービスをタイムリーに、そして安定的に提供できる、そのような変化に強く、かつ進化に対応する次世代運用プラットフォームの実現が、今、求められていると考えます。  本セミナーでは、次世代運用プラットフォームを実現する2つのキーソリューションをご紹介します。1つ目はMorpheus Cloud Management Platform。セルフポータルサービスに代表されるように、シンプルでありながらパワフルかつ柔軟な統合運用環境を実現します。もう1つはOpsRamp。AIOpsやオブザーバビリティなど個々の機能にとどまらず、多様な要素で構成され様々な要件が求められるハイブリッドクラウド環境にニュートラルに対応する。真にエンタープライズレベルの統合監視環境を実現するソリューションです。 HPEの考える次世代の運用環境をぜひご体験ください。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます