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  • 2011/09/01 掲載

震災で分かった使えるBCP、使えないBCP:【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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日本社会全体に大きな教訓を残した東日本大震災。震災による直接的な被害も甚大だったが、その後原発事故とそれによる風評被害、サプライチェーン危機などの連鎖的な脅威が立て続けに起こり、「複合災害」による損害によって、「使えないBCP」が露見する事態となっている。本連載では、東日本大震災後に大きくクローズアップされた事業継続計画(BCP)のあり方、BCPの見直し、さらにはBCP拡張の展望について、さまざまな角度で取り上げ、問題点を探る。初回である今回は、筆者が関東・中部地方に本拠を持つ情報関連機器メーカーから相談を受けた際のディスカッションを再構成して、なぜ「従来型のBCP」では役に立たなくなる恐れがあるのか、問題点などをチェックしよう。
連載一覧

登場人物
S氏:関東・中部地方に本拠を持つ情報関連機器メーカーの経営企画部統括室長。
M氏:同メーカーの経営企画部広報室担当者。
森田:筆者
※同メーカーはまだBCPを策定していないが、3.11の震災を機に全社的な態勢で取り組むことを検討している

一昔前に策定されたBCPはかえって被害を大きくさせてしまうケースも

S氏:こんにちは。森田さんとは久しぶりですね。さっそくですが、最近、弊社でも遅ればせながら経営幹部はじめ社内でBCPについて意見交換する場面が増えてきましてね。恥ずかしい話ですが、わが社では情報機器を扱うメーカーでありながら、意思決定の面で立ち遅れがありましてなかなかBCPに本腰を入れられませんでした。

しかし、東日本大震災では東北地方に拠点を持つ事業所で小規模ながら施設が被災してしまった上に、サプライチェーンでも一部で支障をきたしてしまい、ようやく全社的なBCP策定の必要性に迫られているといった状況です。しかし、事業部同士で意見交換の場を設けてみたのですが、なかなか意見調整に手間取っている段階なのです。

そこで森田さんには、BCPの策定・構築支援といった実務に入る前に、BCPの現状について突っ込んだお話しをお聞きしたいと思います。

森田:東日本大震災はリスクに対する感度が鈍りがちだった日本企業に痛烈なショックを与えたようです。今回の東日本大震災の体験から学んだこと、学ぶべき教訓は、本来、最も信頼性を誇るべき電力とかサプライチェーンといった公共的インフラの脆さでしたよね。

でも御社だけではありません。BCPを専門とする知り合いのコンサルタントも、高い効率を誇っていたサプライチェーンがこれほどに脆いものであることに愕然としていましたよ。それに、関東一円で計画停電のような事態が起きることは想定しづらかったのではないでしょうか。そういう意味では今回の東日本大震災は、企業経営者はもちろん、コンサルタントにも多くの教訓を与えてくれています。

ただ、まず1つ言えるとすれば、一昔前に策定されたBCPではその有効性が疑問なだけでなく、かえって被害を大きくさせてしまうケースが多いのではないかとさえ感じています。

S氏:BCPそのものについて懐疑的ということでしょうか?

森田:いいえ、そうではありません。BCPは今後ますます重要視されるでしょう。しかし、震災直後にサプライチェーンに対する信頼性を損ねる時期がありましたが、同時にBCPに対する信頼性も一変してしまったのは事実です。その原因をしっかりと認識しておくべきだということです。

震災前のBCPでは、被災した施設や設備の回復、安否確認、非常時の緊急措置に対する経営判断の優先度設定などを内容とした文書策定やマニュアル整備に関心が注がれたものでしたが、企業にしてみれば施設の損傷といった直接的な被害よりも間接的な被害のほうがビジネスインパクトとしては大きいはずです。サプライチェーン破断による連鎖的な被害、それと電力供給の不安定さ、政治不在による経済の停滞、消費マインドの減退による市場の委縮や風評被害といった、もろもろの間接被害はボディブローのように、確実にジワジワと効いていたはずです。

S氏:すると、サプライチェーンやBCPにも大きな欠陥があったとみて良いのでしょうか。

森田:そうですね。産業構造の次元、経営フレームワークの次元からBCPへの次元への落とし込みが決定的に不足していたと思います。

大震災では大手半導体メーカー、ルネサスエレクトロニクスに対するサプライヤーであるシリコンウェハーメーカー各社が被災したために、一時は世界的にウェハーの供給が逼迫し、ほぼすべての自動車メーカの操業率を低下させるという前代未聞の事態を招きました。これは明らかに単独企業のスタンドアローン型のサプライチェーン、スタンドアローンで構成されたBCPの次元を越えた課題ですし、早晩、産業構造の次元で根本的に問題点を洗い出しておかなければならないでしょう。

これまでは、生産拠点、流通拠点の安易な一極集中の事業モデルが優秀であったのですが、今後は設備・調達系の二重化(多重化)、冗長化、あるいは「サプライチェーンBCP」が重要テーマとして浮上してくるはずです。

M氏:なるほど。しかし、BCPとは本来、直接的な被災に対する損害状況の把握とか、回復のことが何よりも優先されるべき事項ではなかったですか?

森田:もちろんその通りです。BCPでは会社が保有する設備などの損傷や停止に対する回復処置に対する取り決めも対象範囲です。しかし、それはBCPを構成する一部でしかありません。BCPを有効なものとするには、ビッグピクチャーというか、事業を取り巻くもろもろの環境、それと中長期的な見地から見たものでないと、真の目的に達することは難しいのです。

BCPでいう計画性には、災害などのリスクを想定して、シナリオを組み立て、事前に対策を練っておくこと(=未然防止)と、既に起こってしまったこと(=已然的な事態)に対する回復・是正措置の両面が含まれています。これらをごっちゃにしてしまってはならないでしょう。

未然防止の観点では、予防環境を整えることがテーマとなります、一方の已然処置の観点では有事の作業を集約化・単純化し、本格的復旧に向け、中長期的視点であらゆる処置を進めることがテーマとなります。

【次ページ】「IT・BCP」を磨いていくことが重要なテーマ

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