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- 2012/04/10 掲載
地政学的なリスクからBCPを考える--データセンターの95%が影響を受ける「長周期地震動」
【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向
本社移転は地政学的なリスクへの対処から来るもの
東日本大震災以降、BCPや危機管理の観点で地理的な環境が与える影響を検討する、「地政学的な」リスク管理に強い関心が集まっている。なかでも本社ビルやデータセンター設備など、事業継続を支える基本能の立地環境、すなわち地政学的なリスク対処は最も喫緊かつ重大なテーマである。東日本大震災以後、外資系企業が相次いでアジアの拠点を東京から関西・西日本、香港・シンガポールなどへ拠点を移しているのも、地政学的リスク管理見直しの一環とみられている。この本社ビル移転やデータセンター立地見直しの動きは、日本企業全体に広がりを見せている。ユニチャームやオムロンのように本社機能、もしくはその一部を海外へ移すことを検討したり、事業の主軸を海外へシフトさせる動きも加速している。本社移転の動きは、放射能汚染や停電・電力などのインフラリスク、近い将来に起こりうる被災予測、そしておそらく東京に経営資産・事業資源を過度に集中・集積し過ぎるリスクを勘案しての行動であろう。
楽天の三木谷社長は、海外の売上高(流通高)を現在の6%前後から70%にするという方針を明らかにし、日本依存体質との決別を明確に打ち出しているが、この行動も”日本リスク”を回避しようとする流れでいえば共通している。その他にも、東芝、伊藤忠商事、武田薬品工業が相次いで海外企業の大型M&A(企業の合併・買収)を実行し、産業界では日本離れが定着しつつある。
こうした企業の意思決定は、ランドパワーの面から望ましいことではないが、地政学リスクを重視する大企業の論理からすれば、ある意味で当然であろう。少子高齢化、労働コスト硬直化やインフラなどの高コスト社会から脱出し、より経済発展が見込める国で収益源を確保することで少しでも“日本リスク”の重しから逃れたいという意識と、地政学リスク見直しの流れが重なり、ますます本社移転の動きが加速したものとみられる。
地政学的なリスクには無防備なデータセンター
このように、地政学的変容の影響を受け、BCP/IT BCPという観点においてもシビアな再検討が必要な時期にきている。IT BCPの要(かなめ)とされているデータセンターもその例外ではない。立地環境を含め、地政学的リスクに関する見直し・再評価が必要な時期にきている。以下のリストは、地政学的なリスク軽視によって、データセンターサービスのサプライヤー/ユーザー双方とも情報・認識が不足していた部分を挙げてみたものである。
- 津波、活断層、液状化、長周期地震動、原発被災といったファクターを踏まえた「立地/物理インフラ」
- 風水害の激甚化による河川氾濫シミュレーションや深層崩壊といったファクターを踏まえた「立地/物理インフラ」
- 電力・水などの「ライフライン途絶・停止リスク」
- 電力効率の測定、制御、性能監視など「インフラ全般に関するベンチマーク」
ざっと取り上げてみただけでもこれだけある。
また、東日本大震災の影響によって、いくつかの断層において地震発生リスク(確率)が急激に高まっている。そのため、データセンターの施設のあり方、運用管理のあり方においても総合的な再検討を加えなければならない状況となっている。
東日本大震災以前まで、データセンターの評価軸は、重要拠点における設備自体の耐震性、電源の冗長性、本番系システムと待機系システムに一定以上の距離を置くといった程度のことで完結されていた。これは防災のスペシャリストであってさえも同様の認識であった。
しかし、地政学的なリスクの再検討を迫られたことで、”立地条件”そのものの根拠が大きく揺らぎはじめている。現在、国内のデータセンターは約半数が東京もしくはその近辺に立地しており、非常に危ういといわざるをえない。なぜなら、仮に東京を含む関東地域に災害が起き、それによって電力などのインフラでなんらかの障害が発生した場合、データセンターの物理インフラ自体は耐震性などの防護で正常通りに維持されていたとしても、外的・地理的要因によってデータセンターの正常な運用が一斉に停止してしまいかねないからである。
残念ながら、東日本大震災以前まで、大規模な計画停電といったインフラ面での非常事態に遭遇した場合には、どのような方法で異なる電力会社の管轄にデータセンターを分散させるのかといった地政学的な視点でのチェックはまったく話題にされてこなかった。そのため、データセンターという枠組み自体による「内因性リスク」ではなく、地政学的な「外因性リスク」に対して、国内のデータセンター群はほとんど無防備に近い状態となってしまっている。
【次ページ】データセンターの95%に影響がある「長周期地震動」
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