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  • 2012/07/06 掲載

武士道の“静動一如”から学ぶ危機への対処法

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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前回に引き続き、筆者の友人でもある経営コンサルタントのO氏に登場を願い、より実効性のあるBCP、複合的・多元的なリスクに対応ができるリスクマネジメントに向けた課題などについて語り合った。今回の対談では、BCPで大きな障害となる日本人の「思考しない文化」について、さらに武士道にある「静動一如」から学ぶ危機対処方法、さらにはプロアクティブ・コーピングへの類似性といった話題を取り上げた。

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ代表取締役。各種先端・先進技術、次世代産業、IT活用経営、産学官連携に関するリサーチ&コンサルティング活動に取り組む。クラウド、仮想化プラットフォーム、エンタープライズ・リスクマネジメント/BCP、モバイル・プラットフォーム、情報化投資の各分野において研究およびエヴァンジェリズム活動を展開し、実績を積む。
URL:http://www.x-sophia.com/

連載一覧

登場人物
O氏:組織マネジメントの分野で経験豊富な経営コンサルタント
森田:筆者

風評被害から“確信犯”としての風評加害者へ転落

森田:前々回、この連載では最近BCP関係者に強い関心を呼んでいる「長周期地震動」という地政学的リスクとデータセンターBCPのあり方についてとりあげました。その際に、データセンターといえど、地政学的リスクに対してはガードが甘く、古いBCP観の延長線上から脱し切れていないことを取り上げました。そろそろ、新しい潮流に沿ったBCPのあり方を真剣に検討すべき時期に入ったのではないでしょうか。

O氏:データセンターといえば、リスクに対して最も堅牢な造りであることはもちろん、BCPの新しい潮流に沿ったものである必要がありますからね。

森田:これまでデータセンターの耐震設計といえば、「震度6まで十分に耐えられる建物・施設・構造です」といった具合に、「地震の揺れに対して堅牢で損傷を受けにくいこと」で安全が確保されるという考え方に立っていました。

しかし、よく検討してみると、津波、原発被災、活断層、液状化、風水害、長周期地震動といった複合災害、そしてこれらによって引き起こされるライフライン停止や停電などの外部要因によって、データセンターそのものの継続性を根底から脅かすリスクについては深い議論がないまま今日に至っています。おそらく現在でも9割方はこうした考え方のままでしょう。

O氏:そうなんですか?にわかには信じられませんね。

森田:地政学的リスクアプローチで事業継続性を検討した場合には、まず第一に、「いかにデータセンター全体の機能が維持できるか」を前提にした立地や設計方法から演繹させたものでなければなりません。リスクマネジメントの世界では一番脆弱な所で全体系の信頼基準が決定されるともいわれていますが、最も基幹的であり、かつ最も脆弱なところが疎かにされがちなんです。

O氏:そういえば、データセンターだけでなく病院なんかもそうですよね。病院自体の建物や設備といったハードウェアはどんどん改良が加えられ、耐震性が向上しています。しかし、そこへ供給される電力とか水道の外部インフラに基盤を置いた医療活動そのものの継続性についてはなぜか意識からすっぽりと抜け落ちていました。そのために東日本大震災の時も、大混乱に陥ったそうです。

森田:専門部署という単位での限定的にリスク対応を検討していると、こうした「リスク不感症」のBCP体制となってしまうわけですね。

O氏:今、森田さんが、「リスク不感症」という表現をされましたが、私はリスクマネジメントの根幹には、「思考」、「意識」の問題が大きく関わっていると思っています。言い換えますとと、リスクを引き起こしたり、リスクをさらに大きくさせてしまう原因として、私は「思考停止」の状態にある「意識の問題」を重視しているんですよ。

森田:それはどういうことでしょうか?

O氏:日本人には全体的に「見たくもないものは見ない。考えたくないことは考えない。」でおくという気質があります。何でも曖昧な状態のままにしておくのが良いと。これは日本人の大いなる美徳でもありますが、少なくとも、会社組織のマネジメントや危機管理の世界では一種の悪徳へ転じてしまう可能性を秘めています。

森田:美徳ながら、悪徳でもあると。

O氏:今年の4月2日の新聞報道によると、兵庫六甲農業協同組合(以下、JA兵庫六甲)が、岩手県産「ひとめぼれ」が8割混ざっている米を「こうべ育ちオリジナル米」として、586袋(5キロ入り)を販売していましたが、客からの告発によって急きょ販売中止に追い込まれました(JA兵庫六甲のお詫びコメント)。

また、農林水産省は4月5日、ロシアや中国産のシジミを宍道湖産と表示し、昨年1月から今年2月まで少なくとも全国50卸業者に計236トンを販売したとして福岡県内のシジミ小分け4業者に対し、JAS法に基づく是正指示を出したと発表していますね。このところ、こうした偽装発覚事件が多発しているのです。

ここで私が申し上げたいのは、ことさら農業協同組合やシジミ業者がどうということではありません。もしかしたら東日本大震災以前から食品の産地偽装が横行していて、それが震災以降、表面化したとも言える事情があるからなんです。

森田:ほほう。どういうことでしょうか?

O氏:JA兵庫六甲は「東北の義援金の足しにしていたので、売り上げを少しでも伸ばしたかった」と弁明していますし、シジミ業者は「外国産とは知らなかった」として、いずれも当初、一種の“被害者”であることを理由にして免罪を求めていました。

欧米では、こうした偽装行為には厳しい罰則が科せられますが、日本では曖昧な根拠で大目にみられてしまうことが多いのです。そのため、風評被害から確信犯である風評加害へ、いつの間にか豹変してしまう可能性があることが否めないのです。

森田:“風評被害”という言葉自体が、よく考えてみれば曖昧な概念ですね(笑)。

O氏:震災後、一時、「想定外」とか「風評被害」という言葉が溢れ、予想していなかったことは何でも想定外であるという乱暴な論理で片づけられたりしていました。

それと、放射能による風評被害でも、厳密な被害実態を確認しない段階で、“臭いものには蓋“をするための方便として使われてしまうこともあるのではないでしょうか。そしてもっと大切なのは、「風評被害」と「風評加害」は紙一重であるという認識でしょう。風評被害から、“確信犯”としての風評加害者へ転落することだってありうるのではないでしょうか。

【次ページ】日本企業が陥る「リスク・マネジメントの罠」

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