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- 2013/03/11 掲載
日本版EHRとは何か、国民向け医療情報ネットワークの進化とBCPの関係
【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向
日本EHRとは何か
日本政府も日本版EHRに本格的に取り組む姿勢を見せています。2010年3月に発表した「新たな情報通信技術戦略の骨子(案)(PDF)」では、「過去の診療情報に基づいた医療をどこにいても受けられる」、「国民が自らの健康・医療情報を電子的に管理・活用するための全国レベルの情報提供サービスを創出する」ことなどが掲げられていますね。
受講者A氏:日本版EHRの特徴、地域BCPとの関係について、もう少し詳しくご説明いただけますか?
O氏:日本版EHRは地域のヘルスケア・サポートとコミュニティのインフラ形成と密接な関係がありますので、次世代地域BCPのレイヤを構成することになるはずです。現段階で、日本版EHRは情報通信プラットフォームの構築によって、散在している健康情報を安全性を確保した上で、個人でもコントロールできるようにし、個人の健康増進に資することを目標としています。これに関して、今後、実証実験が盛んに行われるのではないでしょうか。現在、「健康情報活用基盤実証事業」などで実証実験が進められているところです(PDF)。
技術的な課題について具体的に申しますと、日本版EHRに構想や関連の実証事業では、SAML2.0(注1)やID-WSF2.0(注2)に係る取り組みが行われ、開発・改良が進められています。
注1 SAML2.0
SAML2.0は、Webサービス連携におけるサービスアプリケーションレイヤでのセキュリティおよび認証技術である。Webサービス連携では、サービスの要求に対し、仲介者(ブローカー)が実際の利用者に代わって処理に対応するが、当該サービスの要求者、当該のサービスの目的を通知する必要がある。
SAML2.0は、CookieやSSLによるセッション認証とアイデンティティ証明を分離し、メッセージが誰から送信されたもので、誰のためのサービス要求であるかを特定すること、アイデンティティの属性情報の動的な交換、アイデンティティ連携によるシステム・サービス間のID情報紐付けを可能とする認証技術体系である。この制御の仕組みをユーザー認証に応用し、サービス間でのアイデンティティ連携やシングルサインオンの利用環境を実現している。
SAML2.0は認証連携の標準仕様として規定されており、社内・社外間、企業間など異なるドメインをまたがった認証において重要な役割を果たしている。
注2 ID-WSF2.0
ID-WSFは、Identity Web Service Frameworkの略称であり、ID連携環境間の統合を可能とするためのフレームワークである。
プライバシー情報や権限等が一極集中管理の基盤ではなく、それぞれの責任範囲に応じた分散管理を基本としている。また、セキュアな情報流通のニーズに対応し、情報提供者の同意にもとづく開示制御が可能である。
ユーザーの人間関係、ユーザーの友人情報やグループ情報などを特定する「PS (ピープルサービス)」や、ユーザーの認証情報提供、Identity Token提供、Identity Tokenマッピングを実行するための「認証、シングルサインオン(SSO)、アイデンティティマッピングサービス」といったサービスで構成されている。
また、地域BCPやITプラットフォームとの関係でいいますと、2009年から、産学官連携の災害・救急医療体制の実現に向けて、「GEMITS」(Gifu Emergency Medical supporting Intelligent Transport System)と呼ぶ救急医療体制支援システム構築のプロジェクトが行われています(注3)。
GEMITSは岐阜大学を中心にITベンダーやコンソーシアムが参加して組織化され、政府が掲げる医療分野のIT化構想である、「どこでもMY病院」、「シームレスな地域医療連携」などの実現、ロールモデルの確立を目指して実施されているプロジェクトです。これには救急医療情報カードによるID連携、病院前医療連携、緊急介護支援など、地域BCPと関係が深いサブプロジェクトが含まれています。
注3 GEMITS
岐阜大学を中心に沖電気工業、デンソー、インターネットITS協議会などが参加して取り組まれた医療情報化に関するプロジェクト。政府が掲げる医療分野のIT化構想実現に向けたロールモデルの確立を目指している。現在、GEMITSでは5つのプロジェクトが進行している。
- ID連携
- 病院前医療連携
- 病院間連携
- 階層別トリアージ
- 緊急介護支援
災害時には大量の患者情報の処理で災害現場は混乱状態となる。被災に逢った状況下では、重篤な患者から聞き出すことが困難となるため、GEMITSプロジェクトでは、緊急時でも正確な患者情報を共有することを目的とした救急医療情報カード、「MEDICA」が情報連携の軸となっている。
MEDICAは16桁のID番号が振られた医療情報カードシステムであり、そこには患者の基本情報(氏名、年齢)や通院歴、服用薬などの情報が登録されている他、各病院で実施した検査内容などを保存する患者情報サマリーとも連携できる仕組みとなっている。
なお、同プロジェクトでは、MEDICA情報の読み取りを可能にするスマートフォン・プラットフォーム(Android端末を利用)を開発し、2011年に岐阜県内全ての消防署の救急車に配布されている。
このEHRは、いわゆる電子カルテの標準化や地域連携のためのインフラ整備を進める上で避けて通れない、大変重要なものとして位置付けられています。当然のことですが、地域連携のためのインフラ整備という面では地域BCPとも密接な関係をもっています。
【次ページ】日本以外の国々でのEHRの取り組み状況
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