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  • 2012/06/06

BCPを無効化してしまう「リスク・マネジメントの罠」に陥る日本企業

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

前回、国内のデータセンター群は「長周期地震動」などの地政学的なリスクに対してほとんど無防備に近い状態となってしまっていることなどを指摘した。そこで今回は、グローバルで見た地政学的なリスクを洗い出すとともに、複合化・多元化するリスク対応への課題、そしてリスク・ガバナンスのあり方について、筆者の長年の友人で、組織マネジメントの分野で経験豊富な経営コンサルタントとディスカッションを行った。そこからあぶり出されてきたのが「リスク・マネジメントの罠」に陥る日本企業だ。

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ代表取締役。各種先端・先進技術、次世代産業、IT活用経営、産学官連携に関するリサーチ&コンサルティング活動に取り組む。クラウド、仮想化プラットフォーム、エンタープライズ・リスクマネジメント/BCP、モバイル・プラットフォーム、情報化投資の各分野において研究およびエヴァンジェリズム活動を展開し、実績を積む。
URL:http://www.x-sophia.com/

連載一覧

登場人物
O氏:組織マネジメントの分野で経験豊富な経営コンサルタント
森田:筆者

BCPがマニュアル整備となってはならない

森田:東日本大震災から1年を過ぎましたが、防災や災害時のインフラ維持に関する話題を扱ったニュースは途切れることなく毎日のように報じられていますね。ここにきてようやく、防災対策という狭い領域だけの危機管理から、電力などのインフラやライフライン、エネルギーのあり方など、産業・社会という次元でリスクマネジメントを問い直す傾向が強まってきました。こうした動きをどのようにご覧になっていますか?

O氏:確かにインフラに対する脅威も多元化しつつありますね。ここ数年、ヨーロッパ発の金融危機が世界中の経済に影響を及ぼしていますし、この深刻な不況下のなかで、財政危機、電力危機、災害といった複合リスクに対処するには、よほどの覚悟で臨まないと経営を保つことが難しくなってきました。経営者からすれば、これだけ複合的なリスク要因に囲まれるなかで、健全な形態で経営を維持し続けるのは、本当に大変なことですよ。

森田:そうですね。平時ならば堅実経営を維持できた会社でも、災害や環境変化といったさまざまなリスクに囲まれることで、ちょっとしたきっかけから負のスパイラルリスクに飲み込まれ、事業継続性が脅かされる事態となりかねません。一瞬にして起こる変化に対して、判断を誤ったり、リスク対応を間違うと、取り返しのつかない事態を招きます。

O氏:経営者の方は気を引き締めて対処しなければならない厳しい時代を迎えたといえるでしょう。本日の主題でもありますが、「地政学リスク」というのは、国際的な政治・経済動向も含んだ広い概念でしたよね。このところ、政府・日銀の経済・金融政策をみていると、長期的な継続性の視野に立った計画が座礁し、なし崩し的に方針転換を余儀なくされる場面が目立ちますね。

地政学的な見方からすれば当たり前のことですが、政治・行政が揺らぐことは企業経営にとっても大きなリスク要因となります。政治・行政・金融市場の根本が揺らぎ始め、その対策がモグラたたき化する危機的な状態にありますが、こうした地政学リスクの増大は企業の事業継続性にも大きなリスク要因となりますね。

森田:地政学的なリスクをしっかり認識するには、現在、日本を含めて世界で起きていることをきちんと直視し、判断する力を養うことが前提です。国際金融市場では、米大手債券格付け機関のムーディーズがヨーロッパ主要国の格下げを実施し、ギリシアのユーロ圏離脱の可能性も高くなってきました。米国、ユーロ圏のいずれも、今直面している経済・金融混乱原因とその対処に対する国内、あるいは圏内の意見が一致せず、足並みが揃わない状態ですので、混乱がすぐに収束することは期待できないでしょう。

O氏:ここしばらくは特に警戒して市場を見ておかなければなりませんが、このようなリスクに囲まれているなかで、危機は必ず起こるものとしてマネジメントを組み立てるのが経営・管理層の当然の使命ですね。

森田:はい。東日本大震災のときには、とかく「想定外」という言葉で済ませようとする風潮がありましたが、「危機はある程度予測可能」、「予測範囲を越えた場合には想定外」という論法自体が甘い認識の証左でしたし、手前勝手な構え方ですよね。

O氏:ここ数年、防災に対する意識が高まってきたためが、大学の防災研究所とか国立研究機関、気象庁、自治体などでさまざまな災害想定のデータが公表されるようになっています。しかし、こうした公表データをどこまで丸呑みするべきでしょうか。多くの企業では、公開される「想定データ」に基づいて対策を打てばいいという風潮も支配的のように感じます。

森田:BCPを根本から理解していなかったり、都合良く解釈してしまうとそうなりますね。本来、BCPは、「できる限り想定外をなくすために、過去の体験や定量化されたエビデンスに基づいてなんらかのシミュレーションを実施し、それをもとにマニュアル作りや指示系統の整備、そして訓練を実施する」システムですが、静的なデータだけを根拠としては現実にはうまく機能しないでしょう。私は、「あらかじめ予測したり、防備することができない危機が存在する」ということを基本前提とした、動的で構造的なBCPを再構築すべきであると、機会あるごとに提案し、問題提起しているところです。

O氏:想定外に対する事後対処の強化ではなく、想定外という事態をできるだけ無くしていくための取り組みであるということですね。

森田:はい。想定外という事態に直面する可能性を減らすには、どのような資源・手段を用意しておくべきかといった内容を「実践的に検討する過程」において、はじめて「本当のリスクの輪郭が見えてくる」ものなのです。その意味で、BCPとは本来的に直線的な防災訓練ではなく、動的かつ構造的なリスクマネジメントの枠組みを立てて、複眼的にリスクを認識するための訓練でもあるのです。

結果としてのBCPの文書の存在よりも、それらの内容を検討し、「組織全体を通じて対話的に話し合い、組織学習する過程」に意味があると考えています。しかし、大手・中堅企業を中心に、BCPを導入している企業組織では、予測可能な災害に対する事業継続プランにのみ焦点をあわせた、文書策定が中心、すなわちマニュアライゼーションとしてのBCPがほとんどといっても良いですね。

【次ページ】日本企業が陥る「リスク・マネジメントの罠」

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