主翼上面にエンジンを置くユニークなアイデアをビジネスジェット機に採用
ホンダジェットは、全長13m×翼幅12m×全高4.5mの7人乗り(パイロット含む)の小型ビジネスジェット機だ。最大巡航速度は世界最高の420ノット(778km/h)、実用上昇限もクラス最高のFL430(約13106m)で、旅客機より高い航行が可能だ。
また航続距離も東京から北京に相当する1180nm(約2185km)を実現。他のエアプレーンと比べ、燃費も最高17%ほど節約できる(約1100km飛行時)という。一方で、広いキャビンの内部空間を実現しており、足元のスペースは従来機より36㎝以上も広くなった。
このような性能や商品性を達成するために、同社では独自の先進技術を開発している。まず何と言っても目を引くのが、エンジンが主翼上面に配置されていることだろう。
藤野社長は「従来のビジネスジェット機は、そのほとんどがエンジンを胴体後部に搭載していたが、ホンダジェットはビジネスジェット機で初めて主翼上面にエンジンを置くという独自アイデアを採用した。空気力学的に大きな効果を発揮する形状と最適位置に配置することで、高速時の空気抵抗を抑え、同時に胴体スペースを最大限に利用できるメリットも実現した」と胸を張る。
エンジンが主翼上にない無形態の場合は、マッハの速度になると、主翼に強い衝撃波が生じるが、主翼上面でエンジンを最適配置することで抵抗も軽減できる。
「エンジンの最適配置については、理論的な実証を行うために、ボーイングやNASAなどの風洞を利用し、実物より小さなモデルでエンジンの位置を変えながら試験を行った」
また主翼とエンジンの重量がほぼ同じため、固有振動数の関係から「フラッター」と呼ばれる発散現象(はためき)が発生するが、これも解析と実験によって位置や取付けの剛性などを考慮し、フラッターを抑えている。翼についても、ホンダ独自の自然層流翼と自然層流ノーズを開発したそうだ。
「層流」とは、翼などの表面における空気の流れ (境界層)がスムーズな状態のこと。層流翼というコンセプト自体は、NASAの前身が1930年代から開発していたものだが、層流は外板やリベットのわずかな凹凸でも失われてしまう。
「そこでリベット数や位置を最適化し、さらに主翼をアルミ一体で削り出したスキン(外板)とし、凹凸を極小化することで、高速飛行時に有効な自然層流翼と自然層流ノーズを実現した」
このほか胴体部にも先進設計が盛り込まれており、軽くて強いカーボン複合材を採用している。特に胴体の組立てに関しては、ノーズ部の抵抗を抑えるために、クリティカルな3次元形状が求められる。そのため2種の構造様式を組み合わせ、一体成型する製造技術を開発したのだという。
また操作系を左右するコックピットのアビオニクスシステムにも先進性が含まれている。アビオニクスには14インチのフラットデイスプレイを3基ほど搭載し、すべてのフライト情報をカスタマイズして瞬時に表示できるようになった。
「たとえば、3次元地形データ、地形警告、障害物警告などで安全性を示したり、タッチスクリーン式の“MFD”(Multi Function Display)に、エンジン計器と機体計器、ナビゲーションシステム、システムモニター、空港マップなどを選択して表示できる」
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