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  • 2016/05/12 掲載

ベンチャーキャピタリストが語る、スタートアップ界隈が苦境のときこそ起業すべき理由

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世界経済の成長が減速しつつある中で、スタートアップ界隈のマーケットにも陰りが見えはじめたといわれている。特に、日本におけるスタートアップや企業家の環境やエコシステムの状況は厳しいという認識があるようだ。しかし、起業家たちにとって必ずしも最悪の状況ではないのだという。DCMベンチャーズ 共同創業者 茶尾 克仁氏、March Capital Partners スマント・マンダル氏、AnyPerk 福山 太郎氏、Highland Capital Partners ピーター・ベル氏らベンチャーキャピタリスト/起業家が、スタートアップがグローバルで成功するための秘訣について議論を深めた。
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国内スタートアップを成功に導くには

マーケットは落ち込んでもスタートアップにとって好機なワケ

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モデレーターを務めたウォールストリートジャーナルの西山 誠慈氏
 モデレーターのウォールストリートジャーナル 西山 誠慈氏は、厳しい状況が続くスタートアップに対し、まずパネリストたちに現状認識について質問した。

 20年前にシリコンバレーで発足し、米国・中国・日本を中心に活動するDCMベンチャーズ。同社はUber、Fortinet、Sansan、kabu.com、AnyPerkなどを支援している。DCMベンチャーズ 共同創業者 茶尾 克仁氏は「グローバルでみると、2年前に比べてマーケットがスローダウンしている。ただし必ずしも悪い状況ではない。こういうときは一人で旗揚げするのではなく、よいメンバーを集めてチームを組むほうがよい。投資家と起業家が一緒にチームをつくり、会社を興すという意味では、よい時期に入っている」と分析する。

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DCMベンチャーズ
共同創業者
ジェネラルパートナー
茶尾 克仁氏
 市場は鈍化し厳しい状況にあるが、逆説的には起業のよいチャンスになるということだ。西山氏は「投資家の観点から、チームで運営されるスタートアップは、個人よりも信頼できる」という茶尾氏の意見について、他のパネリストにも意見を求めた。

 インドと米国の企業に積極的に投資するMarch Capital Partners スマント・マンダル氏も「確かにチームが成功を収める確率を高め、企業を成功に導く」と同意した。

 同社はロサンジェルスとパロアルト、ムンバイにオフィスを持ち、15年間にわたりアーリーステージの投資を行ってきた。Paypal、overchair、MP3.comなど有名になった企業も多い。各地域のエコシステムが、スタートアップの文化や起業にどのような影響を与えるかも熟知しているそうだ。

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March Capital Partners
共同創業者

マネージング・ディレクター
Clearstone Venture Partners
マネージング・ディレクター
スマント・マンダル氏
「スタートアップが進化すると、財務、法務、採用など担当の分業が進み、最終的にチームが編成される。10年前からインドでは、そのような役割分担のポートフォリオができていた。どの経済圏でも技術が主役で、起業家は正しいチームと事業計画によって資金を調達できる。大成功を収める企業は、市場が低迷したときに立ち上がった。そこで成功すれば果実も大きい」(スマント氏)

 西山氏は、米国でスタートアップとして成功してパネリストのAnyPerkの福山 太郎氏に自身の体験について訊いた。AnyPerkは、Salesforce、Virgin America、Adobeなど1000社以上の企業に、福利厚生のアウトソーシングサービスを提供している。

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AnyPerk
CEO
福山 太郎氏
「私は5年前に米国と日本で起業しようとした。英語もあまり話せず、顧客もいない状況だったが、渡米は胸を躍らせる出来事だった。野球選手ならばメジャーでプレイするのが夢。どこで起業しようとも厳しさは変わらない。ならばグーグル、アップルがある本家のシリコンバレーで勝負したかった。米国で学んだことは、創設者が決意をもって、絶対に諦めないこと。そういう決意と覚悟で行ったことが成功の要因だと思う」(福山氏)

日本は「転職は悪」という風潮をなくせ

 かつてJCI日本通信株式会社を共同設立し、CFO/CTOとして活躍した茶尾氏は「2005年頃にシリコンバレーで日本の起業ブームが起きたが、彼らの多くは、消費者が何を求め、何が課題かという視点が欠けていた。いまは抜本的に考えが変わり、福山氏のような人たちが、市場を十分に調査し、ニーズにマッチしたサービスを提供している。日本の若い起業家が、それを理解してきた点を心強く思う」と期待する。

 西山氏は、Highland Capital Partnersのピーター・ベル氏に、同社の特別なプログラムについて紹介を求め、日本の企業家の変化についても問いかけた。同社は創業28年のベンチャーキャピタルで、米国、欧州などに地域別のファンドがある。ロボティクスから、次世代コマース、クラウド、IoT、マーケットプレイスなど、アーリーステージのテクノロジー企業やコマースのスタートアップを中心に投資してきた。

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Highland Capital Partners
パートナー
ピーター・ベル氏
「Highlandプログラムは、我々のネットワークを使って、学生に約2万ドルの資金と、オフィス、指南役のアドバイザーを提供し、起業を支援するものだ。このプログラムでは、スタートアップがgoogleに売却されるなど、多くの成功事例がある。茶尾氏の言うとおり、市場ニーズにフィットした製品が重要な点を、日本企業が理解しはじめたことは大きな変化だろう」(ピーター氏)

 もうひとつ日本企業に必要なことは、転職する風潮が悪いことではないという雰囲気づくりだという。ピーター氏は「シリコンバレーでは、素晴らしい起業家に出会い、気に入ったら、どんどん転職する機運がある。面白い企業を転々としてキャリアをつくる人も多い。スタートアップには、最高の人材を引き付ける磁力が必要だ。エンジニアリングや開発に求められるベストな人材の動きが、良い技術をもつ企業の1つのサインになっている」と説明する。

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 日本には、まだシリコンバレー信仰のようなものがある。しかし世界は広く、東南アジアにも大きな成長マーケットが残されている。西山氏は「日本の起業家は、近い場所でも成功できることを認識し始めているのではないか?」と茶尾氏に問いかけた。

「確かにそのとおりだ。我々もシリコンバレーより大きな世界がターゲットだ。中国、日本は世界第2位と第3位のマーケット。そこにも有望な次世代の企業が花開こうとしている。面白い点は、グローバルな人材の移動だろう。いまは優秀な人材ならば、どこでも活躍できる時代だ。そのためITのトレンドはどの国でも似ている。米国と中国、あるいは日本が抱える課題も共通性が多い」(茶尾氏)

 さらに重要な点は、日本のスタートアップがグローバルでも十分に成功できるという認識だ。茶尾氏は「Freeeやkabu.comなどはローカルな日本マーケットに特化した企業だが、新しい発想や人材をグローバルから獲得している。決してシリコンバレーに行かなければ、成功しないわけではない。楽天は日本で育ち、グローバル化したロールモデルだ。内なる力を使って育てることも重要。10年前に比べて、最初からグローバルに打って出ることは簡単になった。それを活用するかどうかは、個人の考え方次第だと思う」と強調した。

 この点について西山氏は、シリコンバレーで起業した福山氏に「海外で本当に誰でも成功できるのだろうか?」と意見を求めた。

「実現できると思う。ただし何をやりたいのか、何ができるのか、しっかり自身に問う必要がある。最初は恐怖心もあるが、尻込みせずに、ちゃんと英語も学び、必要ならば顧客もマーケットも開拓すればよい。投資家から資金を調達したければ、海外に出てチャンスを求めることも大切だ。自分が何を成果として生み出したのか、それが尊敬の源泉になり、評価してくれるのが米国だと思う」(福山氏)

【次ページ】ここ数年、インドに一番投資しているのは日本

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