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- 2016/06/03 掲載
鉄鋼業界の世界ランキング:再編が加速、新日鉄やJFEは欧米や中国に勝てるのか
金属生産量の8割以上を占める鉄鋼
ドイツの作家のシェンチガアは、「鉄は、あらゆる金属の中で最も安く、最も有益で、最も強く、最も柔軟である」と言ったそうだ。鉄は一説によると、地球の総質量のうち、3分の1を占めると言われるほど豊富な天然資源。そのうえ、丈夫で加工しやすいため、これほどまでに幅広く活用されているのだ。主要国における金属生産量のうち、鉄鋼の生産量は、実に8割以上を占めている。
当然、鉄は人類が最も古くから愛用してきた金属の一つ。紀元前5000年ごろの古代メソポタミアの遺跡からも、鉄器が見つかっている。ただし、鉄が現在のように大量に使用されるようになったのは、18世紀の産業革命以降のこと。高炉に鉄鉱石やコークス(石炭を加工した燃料)を入れ、銑鉄を取り出す「コークス高炉法」が1735年に確立され、鉄鋼が大量生産できるようになってからだ。
鉄鋼を生産する工場=製鉄所には、(1)一貫製鉄所、(2)電炉工場、(3)単純圧延工場の3種類がある。(1)は、高炉で銑鉄を作り、それを精錬して鋼(はがね)にし、さらに鋼材にまで加工できる工場だ。(2)は、高炉でなく、電炉でスクラップを溶かし、鋼材に再加工する。(3)は、炉を持たず、圧延設備だけで半製品から鋼材を生産する。
世界の大手鉄鋼メーカーの多くは、(1)を保有している。また、鉄鋼は、普通鋼(生産量全体の約80%)と特殊鋼に大きく分けられ、特殊鋼はさらに、用途や性質によって「工具鋼」「合金鋼」などに分けられる。鉄鋼メーカーにも、さまざまな種類の鉄鋼を生産する総合メーカーもあれば、ステンレスメーカーのような専業メーカーもある。
鉄鋼メーカーの世界ランキング、第1位は欧州企業
装置産業である製鉄業を営むには資金力がいる。とりわけ、一貫製鉄所の建設には、莫大なイニシャルコストがかかる。たとえば、日本初の本格的な一貫製鉄所として、1901年に操業開始した「官営八幡製鉄所」。当時の民間だけでは巨額の設備投資が賄えなかったため、国有企業として出発せざるをえなかった。
その半面、オールドテクノロジーである製鉄業は、高い技術がなくても、ある程度の品質の鉄鋼なら生産できる。「資金力があれば、技術力がなくても容易に参入できる」という製鉄業の特徴が、鉄鋼業界の勢力図に大きくかかわっている。
第二次世界大戦後、世界の鉄鋼業界は、豊富な資金力を持った日米欧の先進国メーカーがリードしてきた。
しかし、1980年代以降、国内市場の成熟化とともに、先進国メーカーの成長は鈍化。それに対して、経済力をつけてきた新興国、とりわけ、鉄鋼の原料である鉄鉱石や石炭を豊富に産出する資源国(中国・インドなど)の鉄鋼メーカーが台頭してきた。
その結果、鉄鋼業界は世界的な生産過剰に陥り、汎用鋼材分野では価格競争が激化。守勢に立たされた先進国メーカーも、競争力強化のためにM&A(企業合併・買収)を繰り返し、経営規模を追求せざるをえなくなったのである。
粗鋼生産量に基づく鉄鋼メーカーの世界ランキングは、次のとおりである。中国やインド、韓国などアジアのメーカーが多数ランク入りしているのが目を引く。
世界第1位の鉄鋼メーカーは、ルクセンブルグを本拠とするアルセロール・ミタルだ。他社の追随を許さないぶっちぎりのトップである。
欧州四大鉄鋼メーカーの一角だったルクセンブルグのアルセロールと、オランダのミタル・スチールが06年に経営統合して発足。量的拡大をひたすら追求し、国境をまたいだM&Aで巨大化した多国籍企業だ。
近代製鉄業発祥の地である欧州の栄光を守っているように見えるが、実は、ミタルはインド系企業で、実質的にアルセロールを傘下に収めたとされる。
第2位は日本の新日鉄住金だ。これはあとで詳しく解説する。
第3位は河北鋼鉄集団(河鋼集団)、第4位は宝鋼集団、第6位は沙鋼集団、第7位は鞍山鋼鉄集団、第8位は武漢鋼鉄集団、第10位は首鋼集団と、トップ10のうち、なんと6社が中国勢だ。普通鋼の需要の約5割は建設向け。今は勢いに陰りが見えているものの、インフラ整備が急ピッチで進み、建設ラッシュに沸く中国では、鉄鋼の売上げは拡大しているのだ。
河北鋼鉄集団(08年設立)は河北省、宝鋼集団(77年設立)は上海、鞍鋼集団は中国東北部、武漢鋼鉄集団は湖北省が本拠で、いずれも国有企業である。宝鋼集団は、日本の技術協力で高炉に火入れできた。沙鋼集団は、75年創業の中国最大の民間鉄鋼メーカーで、江蘇省を生産拠点としている。首鋼集団は、中国の首都である北京で1919年に創業した老舗だ。
【次ページ】国別生産量でダントツの国は?
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