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  • 2016/07/28

孤立する中国が学ぶべきは、戦前日本の特異な「戦争観」だ (2/2)

国際情勢が読めずドイツ軍が支援した中国軍と戦った日本軍

 中でも有名なのが、「ゼークト・ライン」と呼ばれる2万以上のトーチカ、数線にわたる鉄条網や塹壕で構成された要塞地帯である。このトーチカの跡は今でも上海付近で見ることができる程堅固なものであった。

 蒋介石はゼークトの指揮監督によって、この陣地線を日本海軍の海軍上海特別陸戦隊本部を取り巻くように構築した。陣地完成後の1937年8月、中国軍が陸戦隊本部に猛攻撃を開始した。

 上海戦では日本軍30万と国民党政府軍(蒋介石軍)75万とが衝突する、日本にとっては日露戦争の奉天開戦以来の大戦闘であった。その結果、日本軍は2万の戦死者を出し、蒋介石軍は後の台湾政府発表では25万となっている。戦死者だけを見れば、日本軍の圧勝となるが、問題は当時の陸軍の無能ぶりである。

 蒋介石は前述のようにドイツ軍事顧問団の下で軍の近代化を図り、攻撃側は常に失敗して、防御側は常に有利という第一次世界大戦の戦訓も学んでいた。この用意周到な蒋介石の戦闘計画について陸軍は全く予想できなかったばかりでなく、ゼークト・ラインの存在さえも掴んでいなかったのである。

 最新兵器はどのようにして開発され、それを製造するための新しい資源獲得のためにはどういう外交政策と情報収集が必要であるかなどの総合的な判断をする発想もなく、ガラパゴス化した戦争運用しかできなくなっていた。

 日本の陸軍は中国大陸の戦闘での敵は蒋介石だけではない、つまりヒトラーも巧みに中国を利用しつつ、日本との敵対関係を自己の利益に転換させる重要なプレイヤーであったことに気づかず、三国同盟の熱心な推進者となっていたのである。

 実質的には敵対関係にあっても、そのことには気づかず、三国同盟という名の下にドイツに誠意を見せ続けた日本の指導者と、この状況を巧みに利用して徹底的に国益を追求して行ったドイツとの間には抜き差しならない発想の違いがあった。

 これは欧米型発想と日本型発想の間に横たわる世界情勢についての見方や戦いにおける心構えの違いであろう。

孤立を深めた戦前日本と同じ過ちを犯そうとする現在の中国

 前述のように、第一次世界大戦後、国際的に孤立したドイツは生き残りをかけて中国と接近していったが、ひるがえって現在の中国を見てみれば、南シナ海の問題を巡って中国は孤立化を深めている。

 7月12日、仲裁裁判所判決では南沙諸島の領有権を全面的に否定した判決を出した。中国はこれを「紙切れに過ぎない」として完全無視。その後にモンゴルで開かれたASEM(アジア欧州会議)首脳会議が国連海洋法条約に則った紛争解決重要性を明記した議長声明が採択された。

 これに対して中国は70カ国以上が中国の立場を支持していると主張し、自らを正当化する宣伝戦を展開しているが、支持したという国はアフリカ諸国や内陸部に位置する小規模国であるところから、中国がこのような宣伝工作を必死で展開すればするほど孤立化への危機感の表れではないかと思えてくるのだ。

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『なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか──太平洋戦争に学ぶ失敗の本質』(松本利秋 著)
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 拙著『なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか――太平洋戦争に学ぶ失敗の本質』(SB新書)の中でも述べているが、かつての日本の敗因の一つは、世界情勢を読み切れず、孤立してしまったことが大きい。

 日露戦争終結の1905年当時、日本と英米の関係は良好だった。しかし、ロシアから得た戦勝利権である南満州鉄道の共同運営を申し込んだアメリカのオファーを日本が拒否。戦中に多額の資金を援助してくれた同国との仲を悪化させてしまう。

 さらには第一次世界大戦中、同盟国イギリスが要求した陸軍派遣を拒否し続け、日英同盟破棄の原因を作ったのである。日英同盟失効から10年後の1933年、日本は満州国建国に反対されたことを理由に国際連盟を脱退し、国際社会で孤立してしまった。

 その結果、国際的に孤立状態にあったドイツと接近し三国同盟に至るのだ。そして、1937年に日中戦争を始めるが、その時には米・英・ソ・中を敵に回し、同盟国と位置付けていたドイツにも実質的な敵対行動を採られていたのは前述の通りである。これでは戦争の行く末は見えている。勝てるはずがないのだ。

 日本が満州に進出した安全保障上の理由は、ソ連の南下政策を阻止するためであった。もし、アメリカを南満州鉄道に入れておけば共同対処が可能であった――と考えていくと、現在の中国と当時の日本の姿が重なって見えてくる。

 現在の中国は、日本、アメリカを挑発し、南シナ海ではベトナム、フィリピン、インドネシアなどを敵に回している。他方、北朝鮮の核開発などの暴走を黙認しているため、一時は急接近した韓国ですら日本と和解してアメリカの影響下に戻った。

 チャイナマネーの勢いに尻尾を振った欧州はAIIBでアメリカを裏切り中国に近づいたが、世界のお荷物となりつつある中国経済の現状からすれば、「金の切れ目が縁の切れ目」の状態になるのが必然視され、事実ヨーロッパ諸国も露骨に態度を変えてきている。

 それに対して日本はアメリカと共に中国包囲網の中心的存在となり、孤立化傾向を強めている中国より国際的には有利な立ち位置にいる。今こそ日本は先の大戦の教訓を生かして国際社会での主要プレイヤーとして油断をせず、慎重に進んでいくことが重要だろう。

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松本 利秋(まつもと としあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了。政治学修士。国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)、『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』『日本人だけが知らない「終戦」の真実』(SB新書)など多数。

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