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- 2016/12/01 掲載
「一足飛びの」完全自動運転で、自動車業界と損保業界が危機的状況に陥る理由
日本は段階的なロードマップ。欧米は一気に実用化に傾く
日本勢は自動運転車について段階的な実用化を計画している。政府は「官民ITS構想・ロードマップ」を作成しており、2020年までの高速道路における自動走行と、限定地域での無人自動走行サービスの実現を目指す方針を打ち出している。2016年の最新ロードマップによると完全な自動運転車の普及は2025年頃になる見込みだ。自動運転は、技術レベルに応じて4つのカテゴリーに分かれている(注)。レベル1は、加速・制動、操舵のいずれかの操作をシステムが行うというもので、レベル2になると複数の操作がシステムで制御される。レベル3では、原則としてすべての操作をシステムが行い、必要に応じてドライバーが対応する形になり、レベル4ではドライバーの関与が一切消滅する。
自動運転レベル | 内容 | 責任 |
レベル1 | 加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う | ドライバー |
レベル2 | 加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う | ドライバー |
レベル3 | 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請した時のみドライバーが対応 | システム/ドライバー |
レベル4 | 加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーがまったく関与しない状態 | システム |
出典:官民ITS構想・ロードマップ2016から筆者作成 |
ロードマップで想定している高速道路の自動走行はレベル3なので、まずは人が関与する形で自動運転を普及させ、その後、完全自動運転に向けて実用化を進めていくという段取りになる。
もし欧米勢がこのまま2020年頃に完全自動運転車を投入するという流れになると、日本の立場は非常に微妙なものとなる。特に問題なのは、地図情報システムなど、ITインフラとの兼ね合いである。レベル4の完全自動運転ということになると、自動運転の単体技術というよりも、ITインフラ構築や制度設計の比重が高くなってくる。この部分で米国勢が先行した場合、標準化という点で日本勢が不利な状況に陥る可能性は否定できない。
自動運転車はどの程度、安全なのか?
先ほどの自動運転の分類はあくまで技術レベルによる区分であって、普及のロードマップというわけではない。つまり、レベル1からレベル4まで段階を追って普及させるというのは、あくまでひとつの考え方ということになる。ところが日本の場合には、レベル順に普及させるというコンセンサスが出来上がっており、これが既成事実化しているという面は否定できない。これは各社の技術開発動向からそうせざるを得ないのかもしれないが、これには自動運転の安全性に対する認識も影響している可能性がある。
自動運転の安全性がどの程度なのかは、まだ完全な結論が得られているわけではない。ただ、自動運転車の走行時の事故率については、これまで多くの公道実験を重ねてきているグーグルの結果が参考になる。
バージニア工科大学交通研究所は2016年1月、自動運転車の事故率に関する調査報告書を発表した。グーグルは自動運転車についてすでに200万マイル(約320万キロ)を超える公道でのテスト走行を行っている。このうち、本調査では130万マイル分の自動走行について、一般的な事故率との比較を行っている。
自動車事故はどの範囲までを事故と認定するのかで結果が大きく変わってくる。警察に届けられる事故は、かなり大きなものなので、これだけを事故として認定すると、公道での事故率は大きく下がってしまう。同大学では、こうした調整を行った結果、一般的な公道では100万キロあたり2.6回の事故が発生していたが、グーグルのテスト走行では100万キロあたり2回と自動運転の方が少なく計算されたという。
この調査はグーグルの依頼に基づくものであり、完全に中立的かどうかについては少し割り引いて考える必要がある。ただ米国における一般的な事故率は100万キロあたり2回程度といわれてきたことを考えれば、もし今回の事故率が正しいものであれば、自動運転はそれほど危険なものではないと考えてよさそうだ。
レベル4の自動運転が十分に安全レベルなのであれば、わざわざ段階的に普及させていく必然性も薄れてくるかもしれない。
【次ページ】一気に完全自動運転を目指したほうが実現が容易になる可能性も
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