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- 2017/05/09 掲載
モバイルアプリは予約成約が2倍!世界最大のホテルが「顧客中心」に注力のワケ
モバイルの普及が与えたインパクトとは
「カスタマー・エクスペリエンス」とは、企業が提供する商品・サービスの選定から購入、利用、アフターフォローまでの過程において、顧客が体験する感覚とその価値を指す。平たく言うと、「製品やサービスを利用するプロセスで感じること」だ。どんなによい製品でもアフターフォローがひどかったり、サービスがいい加減であったりすれば、カスタマー・エクスペリエンスは低下する。その顧客体験の向上を今、もっとも重要視しているのが、旅行業界だろう。ホテル、航空会社、観光施設などは「いつ、どこで、顧客は何を考えているか」はもちろん、「どんなメッセージが顧客の感情に響くのか」といったマーケティング施策に余念がない。2017年3月に米ネバダ州ラスベガスで開催された米アドビ システムズ(以下、アドビ)のデジタル マーケティング カンファレンス「Adobe Summit 2017」でも、ホテルや航空会社、クルーズ運航会社など、旅行業界のデジタル・マーケティング事例が数多く紹介された。
ホフマン氏によると、インターネット経由で旅行予約をするユーザーは、平均38の旅行関連Webサイトを訪問し、何か1つの予約を確定させるまで、12の口コミを参照するという。また、米国の調査会社であるフォレスターが2016年1月に公開した「Trends 2016: The Future Of Customer Service(2016年における顧客サービスの特徴)」では、20歳以上のインターネットユーザーの53%が、「知りたい情報が即座に見つからない場合に、そのサイトを離脱する」と回答している。
つまりユーザーは旅行の計画する際にサイトや口コミを参考にするが、サイト自体に魅力がなければすぐにサイトを離脱する傾向にある。特にホテルや航空業界においては、価格比較サイトの乱立で競争は一段と激化しているのだ。
「顧客中心戦略」で予約の確定率を2倍に
こうした状況下、旅行業界が注力しているのが、「ロイヤリティの高い顧客を囲い込み、継続的に利用してもらう」施策である。そのためには、早い段階から潜在的顧客を探り出し、顧客ひとりひとりの旅行に対するコンテキスト(行動の文脈/動機付け)を理解することで、最適化された情報(コンテンツ)を提供する。その取り組みを全社規模で実施しているのが、世界最大のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルである。同社は「Guest Centric Strategy(顧客中心戦略)」を掲げ、コンテキストから分析したデータを基に一気通貫の「体験」を提供することで、モバイルユーザーの獲得に成功した。
マリオットは2016年、「ウェスティン(Westin)」「W」「シェラトン(Sheraton)」といったホテルを擁するスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドを総額122億ドル(約1兆2100億円)で買収し、30超のブランドと約5500のホテル数を傘下に収めた。両社の会員数は、延べ7500万人にも上る。
Adobe Summit 2017のユーザーセッションに登壇したマリオットのデジタル・マーケティング責任者兼バイスプレジデントであるアンディ・カッフマン氏は、「顧客中心戦略について、『ホテル側が出したい情報』から『顧客が知りたい情報』を提供する方向へと転換した」と語る。
同戦略で重要になるのが、モバイルアプリだ。マリオットは2017年2月、モバイルアプリを大幅にリニューアルした。同アプリは予約やポイント付与などのサービスだけでなく、ホテル到着前からレストラン/ルームサービスといった部門の担当者と直接チャットできる機能や、アプリを使ったキーレスエントリー機能なども備えているのが特徴だ。
カッフマン氏は「顧客の欲しい情報や我々に対するコンタクトは、すべてモバイルで完結できる」と断言する。
カッフマン氏によると、「モバイルアプリユーザーは、ロイヤリティが高い」という。それは数字的にも明らかだ。同社のモバイルユーザーは、パソコンユーザーと比較し、エンゲージメントが3倍、予約の確定率2倍となっている。2016年におけるモバイルからの売上げは17億ドルに達し、前年比で70%の成長率を達成した。
実際、旅行業界とモバイルアプリは“相性”がよい。グーグルが2016年に公開した調査によると、モバイルユーザーの74%が1つ以上の旅行アプリをダウンロードしており、アプリ経由で旅行のプランニングをする傾向にあるという。カッフマン氏は「(モバイルアプリを提供する企業にとっては)モバイルアプリから得られるデータは、顧客のインサイトを理解するうえで非常に役立つ。アプリ内の検索履歴を分析すれば、『次に何がしたいのか』『どのようなサービスを求めているのか』が把握できる」と語る。
価格競争すれば業界が疲弊する――デルタ航空
これまでの航空会社は、時間通りに目的地まで運航することに注力してきた。もちろん、これは大前提だが、これだけでは他社との差別化ができないというのが、デルタ航空の抱える課題だった。
「LCC(格安航空会社)の台頭などで、価格競争はこれまで以上にシビアになっている。数と価格で勝負すれば、業界自体が疲弊する。我々はこれまでの(目的地まで運ぶという)サービスに、『プラスα』の付加価値を提供することで、ロイヤリティの高い顧客獲得に注力する。デルタ航空は空のタクシーにもUberになるつもりはない」(スミス氏)
今、同社が注力しているのは、フライト前後の情報提供サービス拡充と、法人向けサービスの強化だ。「たとえば、中国から米国の地方都市へのフライトを予約した顧客に対しては、空港に到着した時点で町の周辺情報や、空港から目的地までのアクセス案内を提供する。レンタカー会社と提携したサービスも展開できれば、利便性の面で貢献できるはずだ。空港内で位置情報サービスを利用することで、適切な場所で情報が提供できる」と説明する。
【次ページ】「モノやサービスの販売がゴール」の時代はとっくに終了
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