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  • 2018/06/22 掲載

5Gは普及するのか?「3つの課題」が市場成長を左右する

フロスト&サリバン連載~5Gの普及に向けた提言~

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「5G」とは、第5世代(Generation)の次世代無線通信規格を指す。5Gの普及により、我々の通信環境がこれまでより便利になるのは、誰もが何となく理解しているだろう。一方で、なぜそれが必要なのか、どうすれば普及するのかを構造的に理解するのは、より有意義ではないだろうか。今回は、フロスト&サリバンジャパン副社長兼コンサルティング部長の長竹宏氏が、5Gの歴史と必要性をひもといた後、普及に向けた課題と対応策について解説する。

フロスト&サリバン ジャパン副社長兼コンサルティング部長 長竹 宏

フロスト&サリバン ジャパン副社長兼コンサルティング部長 長竹 宏

フロスト&サリバン ジャパン副社長兼コンサルティング部長。アジア・北米などを中心に日系企業の海外進出に関するコンサルティングを海外現地で手がけた経験を豊富に有する。現在は日本に在住し、M&Aや海外進出戦略など、日系企業の成長に力点を置いた経営の舵取りに関するアドバイスを継続的に手がけている。

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5Gはなぜ必要とされているのだろうか。また、どうすれば普及するのだろうか。5Gの必要性と普及に向けた課題と対策を解説する。
(© sdecoret - Fotolia)


移動通信の世代交代の歴史

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 携帯電話などの移動体の無線通信規格は、1980年代に始まったアナログ規格の第1世代(1G)から、約10年周期で世代交代を繰り返し、2000年代には移動体音声通信からデータ通信への大転換を支える第3世代(3G)が誕生した。

 また、現行の最新世代である4Gは、人々の働き方や生活スタイルまで一変させたスマートフォンの普及と、その利便性を著しく向上させるインフラとして、2010年代に登場したものである。

 3G、4Gの普及は、新興国における通信業の「リープフロッグ」(注1)と呼ばれる現象を引き起こした。具体的には、3Gを装備した携帯電話により、それまで主流であった固定通信網をインフラ未整備の新興国であえて普及させる必要がなくなり、4Gが固定網によるインターネット接続の必要性をスマートフォンで代替した。

注1:テクノロジーの活用により段階的な発展過程を一段飛びで抜かす現象。

 このような流れを受け、次世代の通信規格として5Gの検討が行われており、各国で3GPP(Third Generation Partnership Project)と呼ばれる3G時代から続く標準化団体を機軸に、複数の団体が標準化の検討を急ピッチで進めている。

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5Gの標準化を進める各国の通信団体(3GPPを通じたもの)
(出典:フロスト&サリバン)

5G実現のための3つのハードル

 通信規格の世代交代の歴史に見られるように、世代交代時には明確な通信機能・性能の向上が見られた。5Gもその例外ではなく、これまでに比べて主に、1.高速・大容量、2.大量接続、3.低遅延などを要求条件とした検討が行われている(この3つがすべてではない。あくまで特徴的な点のみピックアップしている)。

1.高速・大容量
 5Gにおける通信速度の達成目標は、現行の4GやWi-Fi接続の約10倍にあたる10Gbps以上とされている。これにより、従来は携帯端末での視聴が敬遠された4K、8Kなどの大容量マルチメディアコンテンツや、VR(バーチャルリアリティ)などを使った新たなアプリケーションの活用に道が開けるといわれている。

 しかしながら、現行の4G/Wi-Fiでストレスなく使える以上の大容量コンテンツがそれほど多く存在しているか、またユーザーがそれを求めているかについては、甚だ疑問であり、この要求条件自体が5G普及の決め手になるとは考えにくい。

 特に日本においては、居住地域のほとんどをすでに4Gネットワークがカバーしていることもあり、3Gから5Gというリープフロッグ効果もほとんど期待できない状況である。
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NTTドコモのLTEサービスエリア(出典:NTTドコモ社のWebsiteより)

 一方で以降に挙げる2つの要求条件は、現行世代とは明確に異なる技術要件と需要があると考えられる。

2.大量接続
 現在、世界のいたるところでIoT(モノのインターネット)による新たなビジネスが勃興しており、これにより各種センサーを初めとして、これまでとは比較にならない数の移動体通信端末をインターネットに接続する必要が出てきている。

 なぜセンサーなどが「移動体」である必要があるかというと、仮に固定した場所に配置されるデバイスであっても、有線でインターネットに接続するための設備を用意することが困難もしくは割に合わないケースが大多数と考えられるからである。

 フロスト&サリバンでは、2020年までにこれらのIoT関連端末数が800億台に達すると予想しており、その後も飛躍的なスピードで成長すると考えている。

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IoTが2020年までにもたらすインパクト
(出典:フロスト&サリバン)

 これらの大量の端末をカバーする無線基地局には、当然のことながら、これまでにはなかった大量接続を賄う機能が不可欠であり、IoT時代を支えるインフラとしての5Gの必要性を裏付ける要件といえる。

 また、この大量接続は同時に大容量通信の要件をも生み出す。総務省の調査によれば、移動体通信トラフィックは1年で約1.4倍増加しており、複利計算して10年で40倍、20年で1171倍増加のペースであり、一説には2020年ごろには容量の観点で移動体通信網の資源は枯渇してしまうという観測も行なわれている。MNO(通信キャリア)が出しているスマートフォンのデータパックが消費者にとって高く感じられるように設定されているのも、通信資源枯渇の防止策であると考えれば、うなずける方針である。

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携帯電話等契約数の推移と移動通信トラフィックの増加(出典:総務省「我が国の移動通信トラヒックの現状」)

3.低遅延
 低遅延についても、IoT時代の新ビジネスモデルからの要求事項の部分が大きいと考えられる。たとえば、自動運転を行う車両が、センサーから得られた周囲の情報をサーバに送信してから、しばらく待った後にアクション指示を受け取るようでは、交通事故につながってしまう。

 エッジコンピューティングなどを使って、センサーや車両自体を賢くする技術で代替することもできるが、それではコストに見合わないため、センサーとサーバの間の通信遅延を極小化することができれば理想的である。5Gでは、従来の約1/10である1ミリ秒以下の低遅延の通信を達成目標として設定している。

【次ページ】5Gサービスの市場規模予測

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