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- 2018/09/25 掲載
PRI(責任投資原則)が目指すESG経営、その背景や現状を投資家視点で解説
コムジェット・アセットマネジメント代表取締役 高橋庸介氏が講演
投資家は「PRI」ベースで企業を見るようになる
高橋氏はまず、投資家は今後このPRIをベースとし、ESGを投資プロセスに組み込むようになっていくだろうという考えを示した。
PRIの6原則
1.私たちは投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
2.私たちは活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます。
3.私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます。
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
そもそもPRIが提唱されるに至ったのは、短期主義的な利益追求の結果として企業の不祥事が繰り返し発生していたことが理由の1つだ。たとえば、過去に破綻したエンロン社やワールドコム社の事件の背景には、いうまでもなくガバナンスの問題があった。PRIには、投資家側にESGの観点を重視させることで、企業が短期主義に陥ることを防ぐ目的がある。
「一番大事なのは、(企業や経済の)持続的な成長です。そのために運用会社はツールとしてESGを重視しましょう、と。これがPRIのメッセージです」(高橋氏)
ESGは将来の株価に大きな影響力を持つ
では、投資家側から見た場合に、持続的な成長を行う企業に長期的な視点で投資を行っていくメリットはあるのか。コムジェスト・アセットマネジメントは株式の長期投資を根幹としているが、高橋氏は長期投資を選択する理由を「パフォーマンスが良い」からであると断言する。「短期で投資先を変えるファンドは統計的にはパフォーマンスが悪い。当たり前ですよね。コストがかかりますし、なかなか短期で値を追っていくのは難しい。私どもはじっくりと腰を据え、高い成長をしていく企業に長期的に投資をするほうがパフォーマンスはいいと考えます」(高橋氏)
長期投資をする場合、投資先企業に対して数年先までを見越したEPS(1株当たり利益)の予測が必要となる。その際に考慮しているのが、ESGへの取り組み状況だという。
「将来の株価を予測する上で、財務情報というのは今期や来期には大きな影響力を持ちますが、私どものように3期から5期まで先を予測するとなると、それ以上に大きな影響力を持ってくるのがESGだと考えます」(高橋氏)
ファンドマネージャーやアナリストは、ESGなどの非財務情報もチェックする。なぜなら、将来的に財務情報に影響を与えることが予想されるからだ。高橋氏によると、ESGの視点から、離職率や経営者と現場社員のベクトルが合っているかなどといった要素までもチェックし、将来の株価予測に加味しているという。
EもSもGも確立されていなければ投資は受けられない?
コムジェスト・アセットマネジメントの投資先決定プロセスはこうだ。最初にスクリーニングを行い、投資先の候補企業をウォッチリストに入れる。次に、候補企業の5期先までの利益を計算し、平均して年間10%以上の利益成長が高い確度で見込める企業のみをユニバース(投資範囲)に含める。このウォッチリストからユニバースに移行する際、各企業のビジネスモデルを調査するアナリストとは別に、ESG専門のアナリストが企業を訪問し、ESGへの取り組みに関する調査を行っているという。もし非人道的な活動を行う企業があれば、ここで除外される。
「EもSもGもしっかりと確立した企業でなければ、(長期で)投資をさせていただくことができません。(特に)ガバナンスがめちゃくちゃな企業は、当然投資できません。短期的には利益が上がることがあっても、長期的にはまず間違いなく業績が大きく変動し、赤字に陥るケースもあります。そういったことは過去にも頻繁にありました」(高橋氏)
こうした調査の結果、投資先企業はESG取り組み状況の観点から1~4の4段階にレベル分けされる。ESGに関して良好な情報開示を行っている企業はレベル1、逆に情報の開示が不十分で取り組みの改善が必要な場合には4になる。
株価の理論値の算出に当たってはこのレベルが考慮される。つまり、仮にレベルが3や4であれば理論上の株価は低く算出されることになるため、投資の意思決定に影響する。ただし、改善が見込まれる場合には十分に投資対象となるそうだ。これらの過程を経てポートフォリオが構築され、その後も継続的にモニタリングされる。
【次ページ】ガバナンスが改善するまで、投資はしない
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