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  • 2019/05/10 掲載

地方大学改革を「教室」から始めた理由

小堀哲夫氏のThe Learning Station CROSSLIGHT(前編)

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少子化に伴う18歳人口の減少により大学を取り巻く環境は厳しさを増している。山口県下関市にある梅光学院大学もその影響を受け、同校 学院長 兼 現学長の樋口紀子氏が学長に就任した2012年当時、定員充足率は約7割だった。閉学の可能性も見えた同校だが、その後改革に動き出し、新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT(以下、CROSSLIGHT)」を建設するに至った。新校舎を設計した建築家 小堀哲夫氏に話を聞いた。

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

聞き手・構成:編集部 佐藤友理、執筆:桑原 晃弥、撮影:濱谷幸江

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The Learning Station CROSSLIGHTに立つ建築家 小堀哲夫氏


「下関に新校舎をつくる意味があるのか?」

 梅光学院大学は、1872年にアメリカ改革派教会の宣教師夫妻が長崎で開いた私塾をルーツに持つ。その後、下関に移り、下関梅光女学院などを経て1967年に梅光女学院大学を開学。2001年の男女共学化と学校法人梅光学院への改称を経て今日に至る。大学としては50年余り、学院としては140年の歴史を持つ、2学部、2学科からなる大学だ。

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梅光学院大学全景
(撮影:新井隆弘)

 CROSSLIGHT建設に先駆け、小堀氏は下関を訪ねた。そして疑問を持った。「ここに新校舎をつくる意味があるのか?」

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 下関という街は幕末から明治維新にかけて歴史の舞台となったこともあり、高い知名度を誇る。しかし現実を見れば、下関は九州と近いだけに、福岡に人を奪われ、人口が急減している。

 ここで小堀氏は同校の立地に注目した。同校は下関の中心にある。また、梅光学院大学は短期留学経験者の割合全国1位(2017年度THE世界大学ランキング日本版)を獲得している。

 小堀氏は「ここをみんなが集まる公民館のような場所にできたら良いと思いました。留学という形で日本から出て行くだけでなく、いろんなところからここに来て、ここからまた世界へ出て行くハブのような場所にしたいとも考えました」と語った。

教育改革は「教室改革」から

 小堀氏が設定したCROSSLIGHTの設計コンセプトは「学生の居場所をつくること」「学生の自主的な学びを誘発すること」。これに沿って次の3つが重視されている。

1.交流を増やす
スペースに合わせていろいろな組み合わせができる「アクティブウォール」を使って「廊下」「教室」など境目のないセミオープンの空間をつくり、ジグザグした廊下で外と中を自在に出入りできる流動的な動線を生むことで、人と人の多様な交流を実現する。

2.学びの可視化
教室をガラス張りにすることで「魅せる授業」を実現。授業をする人、見る人、見られる人が刺激し合うことで授業の質の向上を目指す。また、間仕切りの位置を自由に動かせるようにすることで、さまざまな授業形式に対応できるようにする。

3. 環境との交わり
自然の光や風の流れを取り込むことで多様な環境を生み出す。CROSSLIGHTでは、窓の配置を計算して直射日光は入れず、そうでありながら、照明をつけずとも明るい空間が実現されている。
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CROSSLIGHT全景
(撮影:新井隆弘)

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階層ごとに空間をずらして重ねたような設計のため、各階が互い違いに組み合わさったように見える
(撮影:新井隆弘)

 学習空間といえば、均一的な四角い教室が並ぶスタイルが主流だ。しかし、CROSSLIGHTではそれとは対照的に壁を取り払い、広い空間を家具の配置だけで仕切るというアプローチが取られた。

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大学の空間はこのように進化することが予想される
(資料提供:小堀哲夫建築設計事務所)

 だがそれだけでは「オープン過ぎて集中できない」「家具の配置だけでは領域分けができない」「使い方の手がかりがなさすぎる」といった声が上がることが予想される。そこで、CROSSLIGHTではセミオープンなスタイルを採用、「オープンでありながらも隅っこの居場所もある」という形をとった。

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CROSSLIGHTには同じ設えの空間が存在しない。空間の境界はさまざまな高さのソファやガラスの壁などでゆるやかに示唆される。人間の側でいくらでも境界線の解釈の可能性を広げられる
(撮影:新井隆弘)
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CROSSLIGHT内覧会で建物の説明をする小堀氏

「こうすることで確実に教員と職員、学生、さらには地域の人たちとの交流が増え、学生自身、これまで以上に能動的に学ぶことができます。その一方で、1人で集中できる居場所も確保できるという空間を実現することを狙いました」(小堀氏)

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