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  • 2019/09/25 掲載

守屋実氏と麻生要一氏が語る、大企業の新規事業が「成功しない」理由

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2018年、介護業界に特化したマッチングプラットホームのブティックス、印刷・物流・広告のシェアリングプラットホームのラクスルを2社連続上場に導くなど、企業内起業、独立起業など自身の年齢と同じ50以上の新規事業を立ち上げてきた守屋実氏と、リクルートで社内事業開発やスタートアップ企業支援などを手がけた後、現在はアルファドライブとゲノムクリニック2社の代表を務めながら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する麻生要一氏。大企業からスタートアップまで、新規事業開発におけるプロフェッショナルである二人に、昨今の新規事業ブームについて、新規事業を成功させるために必要なことを聞いた。

ライター:羽幡咲嬉 企画協力:松田純子

ライター:羽幡咲嬉 企画協力:松田純子

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守屋実事務所 代表
守屋 実氏(左)

アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO
ゲノムクリニック 代表取締役 Co-CEO
UB Ventures ベンチャー・パートナー
ニューズピックス 執行役員
麻生 要一氏(右)

あなたの新規事業開発は「ごっこ」になっていないか?

──昨今のイノベーションや新規事業ブームをどのように見ていらっしゃいますか?

守屋氏:確かにブームのようだと感じることはあります。ただ、新規事業のブームが「ごっこ」になっているケースが見受けられます。原因は複合的なので、一概にその新規事業の当事者たちだけがダメだとは言えません。

 そもそも、企業の第二の柱を作るなら社長がリーダーのはずです。事業開発室ができて、人事異動がある、という時点で間違っています。しかも今期中に“何か”を上申しなくちゃいけない。それを経営企画室が添削し、財務からNGが出て進まないといった話が多い。これは「新規事業ごっこ」と言わざるを得ません。

麻生氏:確かに、近年新規事業に積極的に取り組む会社が増えてきたように感じます。特に、好景気が続いたこともあり、現業の業績が良い会社も増えましたが、その多くの経営陣は「既存事業が今最高益でも10年後もこのままであるはずがない」と分かっているからでしょう。

 ただ、「業績がよいから、資金に余裕ができたから、新規事業をやろう」という場当たり的な取り組み方では、本当の意味で会社の業態を変革するような迫力のある新規事業を産むのは難しいと思っています。リーマンショックや震災などの時期はずっと新規事業開発を停止していて、急にお金ができたから新規事業をやれという経営は、本来はあるべき姿ではありません。

──なぜそうなってしまうのでしょうか?

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麻生氏:一因としては、株主が短期業績を求めるからでしょうか。「短期業績にアジャストする」ことが強く求められる中で経営者もそれに対応せざるを得なくなっていると思います。もっと中長期目線で考える株主が増えれば違ってくるのでしょうが。

守屋氏:その通りですね。株主を含むステークホルダーがそういう状況を作ってきた部分はあります。私が参画するラクスルのように、売上総利益を最大化して再投資することで、長期的な企業価値向上スパイラルを構築する、と明言している会社は稀で、普通は四半期開示などに飲み込まれていきます。

大企業の新規事業開発が始まったのは、「ここ1、2年」

──大企業における新規事業は、2013年頃からブームのような感覚があります。当時からやり方の是非は色々指摘されていますが、当時と今で新規事業を取り巻く状況は変わっていますか?

麻生氏:僕の感覚で言えば、大企業が本当の意味で新規事業をやり始めたのはここ1~2年です。2013年からしばらくの新規事業開発活動は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作ってスタートアップに投資したり、アクセラレーションプログラムやオープンイノベーションプログラムを実施するという活動が多かったと思います。

 言葉を選ばずに表現すれば「他力本願」の活動が多かったと思うのですが、ここ1~2年で、自分たちで作る事業への投資が始まったという感覚でいます。

守屋氏:基本的に大企業は変わるのに時間がかかるのです。オーナー経営者だったら「俺がこうする」と急ハンドルを切ることもできるのでしょうが、現実にはサラリーマン経営者が多いためです。

 そういう人たちは減点法で評価されますから、自分の任期を全うすることを優先して意思決定を先送りしがちです。そうなると、新規事業には不可欠の「失敗を重ねる」ことができないですよね。ただ最近は自分の周りでも成功例が出ていて、新規事業をめぐる状況は徐々に変わってきていると感じています。

新規事業の「事例」が表に出ないワケ

──お二人から見て、大企業が新規事業を立ち上げる際につまずきやすいポイントはどこでしょうか?

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守屋実事務所
代表
守屋 実氏
ミスミを経て、ミスミ創業者田口弘氏と新規事業開発の専門会社エムアウトを創業。複数事業の立上げと売却を実施後、2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動し、ラクスル、ケアプロなどの創業に参画。2018年、ブティックス、ラクスル、2か月連続上場。博報堂、JAXAなどのアドバイザー、内閣府の有識者委員、山东省の人工智能高档顾问を歴任。近著、「新しい一歩を踏み出そう! 」(ダイヤモンド社)
守屋氏:大企業の新規事業は「経験のない人(上司)が、経験のない人(部下)に、経験のないこと(新規事業)をやらせようとする」苦しい戦いです。そうなると、“形”になることをしない限りやった感もないし、評価もされないから、みんな一旦「出島」(本社から切り離した独自組織)のようなハード、おしゃれなオフィスといった「ハコモノ」にお金を使います。

 僕は、いつも出島のような場所を作る人に「投資したハードと同じかそれ以上に、ソフトにお金を使ってね」と言っています。ハードという意味では、確かに床や壁や天井があれば一旦成立しますが、本来はそのハコの中で何をするのかが大切なはずです。でも大体、西洋っぽいこじゃれたモノを作って止まってしまう。もし社内に新規事業の経験者がいないなら、麻生さんのような経験者に意見を聞きにいくことも重要です。

麻生氏:僕が今やっている大企業の変革プロジェクトは、ハコモノではなく、ソフトを中心に取り組んでいます。社員のエンゲージメントを高めるなど風土改革をして、その上で事業が生まれるようなプログラムを作り、最後にハコモノを作ろうとしています。

 また、僕が大企業の新規事業開発活動を支援する中で感じていることは、世の中で知られているよりもずっとたくさん、実際に素晴らしい社内起業家と社内新規事業は生まれているということ。ただ、企業内新規事業で難しいのは、成功事例があっても“機密”扱いになってしまって情報が世の中に出ないところです。ベンチャーの成功事例だとすぐ有名になりますが、大企業の成功事例はなかなか出てきません。良い事例があってもそれを参考にできない。

守屋氏:大企業は「うるさい」ですよね。書類にもよく「社外秘」と書いてあるけれど、「この程度のアイデアならみんな考えているから大丈夫。むしろ配った方がいいのでは?」と思うことも多々あります。

 本業の莫大な投資やインサイダーのことなど、情報を表に出せない理由も分かりますが、新規事業に関してはどんどん露出した方がいいと思います。どうせ試行錯誤して形が変わっていくものなのだから。

【次ページ】最適解は状況によってまちまち、新規事業は「ありとあらゆる方法」で挑む

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