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  • 2019/12/05

創薬でAIがヒトを凌駕、Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)が拓いた可能性

創薬研究においてAIが人間を凌駕する瞬間が訪れたのかもしれない。米国のベンチャー企業Insilico Medicine(以下、インシリコ・メディシン)が、これまで2~3年かかっていた新薬候補を発見するプロセスを21日までに短縮したという研究成果を発表したのだ。人間では調査しきれないほどのデータを集めた過去の研究から、AIプログラムにより、これまで存在しなかった新薬の創造を行っている。インシリコ・メディシンを含めAIベンチャーと大手製薬会社の提携が増加し、製薬業界の新たなトレンドを作りつつある。

在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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創薬期間の劇的な短縮で、何が起きるのか?
(Photo/Getty Images)

新薬を21日で創造するAI

 創薬は研究開発への莫大な投資が求められる分野だ。1つの新薬が市販されるまでに平均して約7年の年月と、26億ドルの資金が費やされている。より良い効能を持った薬を開発したり、 治療法が確立されていない疾患への対処法を研究 したりと、製薬業界が行わなければならないことはまだまだ多く残されている。

 医薬品は、体内のタンパク質に結合して、病気を快方に向かわせるように作用する化合物と言い換えられる。 創薬 は、ターゲットとなるタンパク質を特定し、優れた効能が現れるような 分子の組み合わせを見つける ところから始まる。

 次に、その分子化合物について、実験動物への投与を含め、安全性・安定性・効能・毒性の確認を行う非臨床試験が行われる。人間に対する臨床試験に進むのは、その後だ。

 製薬会社は創薬をより確実で安価に行うため、新たな手法を探してきた。特に、化合物を探索する段階では、過去に作った数万から数十万に及ぶ化合物を蓄積した「ライブラリ」の中から、標的となるタンパク質に強く作用するものを探すのに 長い時間がかかる 。そのため、探索プロセスの自動化を進め、非臨床試験までにかかる時間を短縮しようとする動きがある。

 2014年に創業されたインシリコ・メディシンは、AIを使った新薬発見により目覚ましい成果を挙げたとして、近年、注目を集めている。分子化合物の特定から非臨床試験まで2~3年かかっていたところを、 わずか21日で完了 してしまったのだ。

 過去に研究された化合物に関するデータを「ライブラリ」から学習したAIは、まず、3万以上の候補を導き出し、その中から医薬品となる見込みの高い6つの化合物を特定した。その後、研究者が6つの化合物を実際に作成し、その中から1つの化合物は動物実験まで進み、 好ましい結果 が得られたという。

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Insilico Medicine

 過去の知見から新しい分子化合物を見いだすというプロセスは、人間の医科学研究者が行っている作業と変わらない。インシリコ・メディシンのAIは、人間では処理できないほど膨大なデータを使って、人間より速く、見込みの良い分子化合物の発見を達成したのだ。


製薬でもAIが人間を超える瞬間が訪れた

 インシリコ・メディシンの研究成果は、DeepMindがAIのAlphaGoによって、囲碁のチャンピオンに勝利した例になぞらえることができる。

 AIが人間の代わりになるわけではないが、この優れた計算能力を活用し、より良い創薬プロセスが生まれようとしている。

 インシリコ・メディシンのAIはGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)という手法を採用している。「この 10 年間でもっとも面白いアイデア」と評されるアルゴリズムであり、入力されたデータの中から特徴を学習することで、実在しないデータを生成するといった使い方が提案されている。存在しない顔や風景画像を生成したり、白黒の描画に自動で着色したりといった応用がなされてきた。

 創薬は、まさに存在しない化合物を生成するというプロセスであり、GANが採用されたのも理にかなっている。過去の化合物の特徴を抽出し、そこから新たな化合物を作り出し、その効果を検証するのだ。

 社名にある「In silico」は「コンピューターの中で」という意味を持ち、in vivo(生体内で)や、in vitro(試験管内で)に対応するものとして造られた言葉である。 In Silicoの創薬は、遺伝子をコード化したヒトゲノム計画やスーパーコンピューターの開発によって進展してきた。しかし、インシリコ・メディシンの成果は、最新のAI技術を駆使したもので、 大きな進歩と考えられる。

 インシリコ・メディシンは2019年9月に3,700万ドルの資金調達を発表した。中国のQiming Venture PartnersやDeep Knowledge Venturesが中心となって投資 を行い、さらなる研究開発や米国・欧州・アジアでの事業展開を見込んでいる。

【次ページ】AIを開発者コミュニティーに公開し、精度の向上を目指す

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