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  • 2020/03/02

「映画館は今のままでいい」は本当? 良作がシネコンに“無視”される事情

稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」

「平日はガラガラ」「質の高い小規模作品がシネコンで上映されない」「若者の方を向いていない」──。現在の映画館のさまざまな批判がある。これらの指摘を映画館側はどのように考えているのか? ベテラン興行マンと事情通のリサーチャーへの取材から実態を探る。

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。 手がけた書籍は『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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さまざまな指摘をうける映画館だが「このままでいい」のだろうか
(Photo/Getty Images)


シネコンは効率主義の権化

 前回前々回で、映画館の経営がいかに苦しいかということが、ベテラン興行マン・A氏の口から語られた。その根底にあるのは、ランニングコストの構造的な高さだった。

 それに関連して筆者が都内の映画館について思うのが、平日日中のガラガラ具合である。多くの社会人は、映画を週末か仕事帰りに観る。社会人ほどではないものの、大学生も基本的には週末か学校帰りに観るケースが多い。小学生以下が対象の映画も、基本的には親が動ける週末に混む。

 映画興行組合加盟会社では、平日空席対策として、毎週水曜日のレディースデイ施策を行っていたりはするが、それでも席が埋まるのはまれだ。かつて映画産業に身を置き、現在では映画興行を含むエンタテインメント業界のリサーチなどを行っているB氏はこう語る。

「かつてTOHOシネマズ六本木ヒルズで、金曜の朝10時から『冬のソナタ』を上映した時は、ものすごい大混雑が報じられました。ただ、こういう特殊な企画上映を除き、平日日中は席が埋まりません。TOHOシネマズは光ファイバーで遠隔地からの中継もつなげられるので、企業の入社式や講演や研修に活用したケースもあったようですが、今ではあまり積極的に進めていないところを見ると、手間に比べて割に合わないのでしょう」(リサーチャー・B氏)

 となると、やはり「当たりそうな映画をできるだけ多くのスクリーンで、できるだけ長く上映する」という方向性に向かわざるをえない。

「興行会社にしろ、配給会社にしろ、当たる映画に突っ込む傾向は昨今ますます顕著になっています。たとえば、全国興収で5億円のポテンシャルがある作品と、20億円行きそうな作品と、100億円行きそうな作品があるとして、配給会社がどこに一番宣伝費をかけたいかと言ったら、やっぱり100億円の作品です。100億円の作品なら、宣伝がうまく行って10%アップすれば110億円。でも、もともと5億円の作品だと10%アップでも5.5億円です」(興行マン・A氏)

 ここでの主語は「配給会社」だが、興収が高ければ高いほど興行会社の実入りも多くなる(前回参照)。

「日本の昔のロードショー館は、同じ映画を2カ月も3カ月も上映していました。ただ、封切り後は大混雑ですが、客はどんどん尻すぼみになっていく。今のシネコン方式は、とにかく効率重視、フレキシブル。お客さまの数が減ったら、小さいキャパのスクリーンにシフトします」(興行マン・A氏)

映画館の運営は「文化事業ではない」

 シネコンの効率重視については、筆者も言いたいことがある。その効率重視のおかげで、小品だがキラリと光る良作が、シネコンではなかなか上映されない。ミニシアターのある大都市在住の人なら観られるが、ミニシアターが少ない地方では絶望的だ。

 莫大な宣伝費をかけた超大作・話題作だけが全国800スクリーンで超拡大公開され、ひとつの劇場で何スクリーンも占有する。一方、多くの「地味だが佳作」の映画は、上映の機会すら与えられない。上映されても極端に少ない劇場数、かつ短期間で終了してしまう。観る映画の選択肢が狭まることは、文化的多様性の危機ではないのか。

 しかし、A氏は非常に申し訳なさそうに、そして「今まで(前回前々回)の説明でおわかりですよね」といった表情を浮かべながら、毅然として言った。

「はっきり言うと、文化事業ではないので」(興行マン・A氏)

 この「文化事業」が、「意義はあるが、採算を度外視した事業」という意味なのは明らかだ。映画は文化、そこに疑いはない。しかし映画産業はビジネスなのだ。映画館運営が立ち行かなくなれば映画を観る場所がなくなる。それで一番困るのは、当の映画ファンだ。

「都内のミニシアターは、総じて経営が厳しいんです。ここで当たれば地方の劇場にも拡大公開していきますが、配給会社側も地方展開のための潤沢な宣伝費をかけられるわけではありませんから、地方でも当たるとは限らない。難しいところです」(興行マン・A氏)

 ミニシアター作品を配給する配給会社は、なぜ潤沢な宣伝予算を割けないのか。

「低予算のインディペンデント系作品やアート系作品は大量集客が見込みにくいからです。また、配給会社は映倫の審査料や音楽著作権使用料も負担しますが、800スクリーンで公開する超大作でも、東京と大阪の2館上映でも、審査料は変わりません」(興行マン・A氏)

 映倫(一般財団法人 映画倫理機構)の審査料は、題名・基本宣材(ポスター)で1万8,000円、本編は1分あたり2,460円。2時間の映画ならトータル30万円ちょっとかかる。小規模公開映画であればあるほど、この必要経費は全体予算を圧迫する。

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「低予算のインディペンデント系作品やアート系作品は大量集客が見込みにくい」
(Photo/Getty Images)

【次ページ】作品別に鑑賞料金を変えることは「できない」

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