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  • 2020/08/20 掲載

【大解剖】「抗菌繊維」開発競争:ソニー、伊藤園など参入で乱戦真っ最中の各社動向

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いま、抗菌繊維の開発競争が激化している。以前から、東レ、帝人、東洋紡などの大手繊維メーカーがその開発に取り組んできたが、今年になってソニーやシャープ、大学発ベンチャー、紡績やニットを手がけてきた地方の古参企業、織物や染色の伝統工芸、さらには飲料メーカーの伊藤園まで参入して乱戦模様だ。その主戦場は、春に極端な不足に陥ったマスクや医療用の衣類から、シャツのような一般衣料にも広がりつつある。抗菌繊維の現在地をレポートする。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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激化する「抗菌繊維」開発競争、各社の動向を探る
(Photo/Getty Images)

そもそも「抗菌」「抗菌繊維」とは何か

 いま、新型コロナウイルス対策で特需が発生し、ホットな開発競争が繰り広げられている「抗菌繊維」。細菌とウイルスに違いがあるように、「抗菌」と「抗ウイルス」は共通する部分はあるものの、本来は異なる機能である。だが、消費者の間ではかなりの程度、一緒くたにされている。

 抗菌繊維を手掛ける企業にとって、技術の絶好の“ショールーム”と言えるのが「マスク」だ。いっときの極端なマスク不足は解消されたが国民の間での関心はまだ高く、さまざまな素材、形状、機能のマスクが登場し、抗菌性、抗ウイルス性でもより高機能なものが求められている。「関心の高いマスクを足がかりに、他の製品でも自社の抗菌繊維の売り上げ拡大を図りたい」と、繊維関連企業だけでなく電機メーカー、飲料メーカーなどの異業種も参入してきた。

 そもそも、ひと口に「抗菌」といっても、「滅菌」「殺菌」「消毒」「除菌」とどう違うのだろうか? 認証基準に照らして抗菌製品を審査し「SIAAマーク」の表示を認めている団体、一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)では、次の図のように定義している。

■抗菌製品技術協議会(SIAA)
抗菌 製品の表面上における細菌の増殖を抑制すること
滅菌 微生物を完全に死滅させること
殺菌 細菌やウイルスなどの微生物を死滅させること
消毒 微生物のうち病原性のあるものをすべて殺滅・除去してしまうこと
除菌 ある物質または限られた空間より微生物を除去すること
(出典:SIAA HP)

 菌を死滅させたり、除去したりしなくても、その繁殖を抑えればよいのが「抗菌」。経済産業省「抗菌加工製品ガイドライン」でも「表面における細菌の増殖を抑制すること」と定義されている。「日本工業規格(JIS)」は2010年に「抗菌活性値2.0以上(=細菌の増殖割合が未加工の100分の1以下)」という数値基準を設定している。その検査は国際基準「ISO22196」に準じて行われている。

■経済産業省「抗菌加工製品ガイドライン」
抗菌 抗菌加工した当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること
(出典:経済産業省「抗菌加工製品ガイドライン」)
■日本工業規格(JIS)Z2801:2010
抗菌効果 この規格の試験方法によって得られる抗菌活性値が2.0以上(注1)のとき、抗菌加工製品は抗菌効果があるものと判断する
注1:抗菌活性値2.0以上:加工されていない製品の表面と比較し、細菌の増殖割合が100分の1以下
(出典:日本工業規格 HP)

基準に合格した繊維製品に与えられる「SEKマーク」

 しかし、抗菌製品技術協議会(SIAA)では認証の対象から繊維製品を外しており、抗菌繊維は「SEKマーク」という別のマークの認証を受ける。検査結果をもとに基準に適合しているという認証を出し、マークの使用を認めるのは、一般社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)という団体である。


 コロナ以前からMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染対策などでSEKマークの認証申請数、承認数は年々伸び、「抗菌」よりもさらに菌の増殖を抑える水準が高い「制菌」カテゴリーのSEKマークも設けられた。

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SEK マークとカラー表示

 申請者の大部分は繊維メーカー、テキスタイル(布地)メーカー、染色加工メーカーなどで、衣服や寝装品やタオルやマスクを製造するような最終製品メーカーのほとんどは抗菌繊維のユーザーとして「SEKマーク取得の○○を使用」とPRするだけだが、繊維評価技術協議会では近年、認証取得企業を通じて最終製品の数量もできるだけ把握するように努力している。

 SEKマークのうち「抗菌防臭加工(青マーク)」「制菌加工(橙マーク)」の両カテゴリーの集計結果は、2014年は約7000万点だったが、2017年には約1億3400万点と、3年でほぼ倍増している。

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「SEKマーク」の使用を認められた抗菌繊維製品の生産数量

 2018年は約1億1600万点で頭打ちになり2019年は未集計だが、2020年は急伸して過去最多になるのはほぼ確実な情勢である。というのは、繊維評価技術協議会が指定する検査機関(第三者認証機関)にはいまSEKマークの認証を受けるための検査依頼が殺到しているからで、7月9日付の日本経済新聞によると、2021年3月まで予約がいっぱいで検査の受託を一時的に停止している検査機関もあるという。

 SIAAマークもSEKマークも「業界自主基準」で、認証を受けずに「抗菌」を名乗っても法律に触れることはなく不当表示にもならない。それでも販売側は、新型コロナの感染拡大でナーバスになっている消費者に安心を提供して商品が選ばれるように、より一層“しかるべきお墨付き”を求めるようになっている。

異業種企業動向:ソニー、シャープ、村田製作所が参入

 長時間、細菌の増殖を抑える抗菌作用を繊維にもたせる方法は、大まかに分けると次のようなものがある。

  • ・金属やそのイオンを利用する方法
    金、銀、銅、亜鉛、真ちゅう、チタン、ニッケルなど

  • ・薬剤を利用する方法
    有機合成系、無機系など

  • ・物理作用を利用する方法
    電流、静電気、光触媒など

  • ・天然素材の抗菌作用を利用する方法
    藍、柿渋、茶渋(カテキン)、絹、和紙、からし、漆、しっくい(強アルカリ性)、硫黄(強酸性)など

 大手繊維メーカーは、こうした抗菌素材を物理的に繊維に練り込んだり、化学的に結合させたりする技術を磨いてきた。

【次ページ】ソニー、シャープ、村田製作所も参入。負けてはいない繊維メーカー

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