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  • 2020/09/24

『嫌われる勇気』著者に聞く、いまリーダーが実践すべき人間関係の心得

「どうすれば人は幸せに生きられるか」という問にシンプルに回答する、「アドラー心理学」。“自己啓発の源流”とも呼ばれ、日本では『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社刊)での大ヒットで一躍知られることとなった。しかしその考え方はわかっても、なかなか実践には移せないのが自己啓発の常ではないだろうか。『嫌われる勇気』の著者であり、先日『ほめるのをやめよう リーダーシップの誤解』(日経BP刊)を上梓した岸見一郎氏に、「上司と部下の関係」「職場でのリーダーシップ」という視点で実践の心構えを聞いた。

執筆:園田もなか、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

執筆:園田もなか、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

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なぜ今リーダーシップを掘り下げるのか

──新著はリーダーシップに関するものですが、そもそも先生が「リーダーシップ」に関心を持った理由は何でしょうか。

岸見一郎氏(以下、岸見氏):アドラー心理学は、対人関係を扱う心理学です。そして、対人関係とは基本的に「1つ」であると考えます。つまり、会社で尊敬されている上司が、家に帰ったら家族から疎まれている、ということはあり得ない。

 ここ数年、色々な企業の講演会に招かれていますが、リーダーシップについて勉強をされている方は多いものの、もっと手前にある「身近な人間関係」をきちんと築けていない人が多いと感じました。そこをきちんとクリアしなければ、経営の諸問題も解決しないでしょう。だったら、まずは「対人関係」という大変基本的なところに立ち返った上でリーダーシップを考えてみよう、と思ったのがこの書籍のもとになった連載を始めたきっかけです。

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『ほめるのをやめよう リーダーシップの誤解』(日経BP刊)
※画像をクリックすると購入ページに遷移します
──たしかに書籍では、部下との関係の築き方など対人関係にひたすら焦点を当てられていた印象でした。岸見先生が思い描いている理想のリーダー像はどのようなものでしょう?

岸見氏:一言で言えば「民主的なリーダー」です。上司と部下という役割の違いはあるものの、対等な関係であることには変わりがないからです。

──民主的なリーダー像というと、たとえば「サーバントリーダーシップ」(ロバート・グリーンリーフ氏提唱)などの言葉で語られることも多いと思います。先生の想定するリーダーシップとの違いはありますか。

岸見氏:民主的なリーダー像として似ているものがすでに多くあることには同意します。それらと比べて私が考えるリーダーシップ像に大きな違いがあるとも言いません。ただ、そこの考えに至るまでの道筋が少し違うかもしれない。つまり、私の場合は基本的にアドラー心理学がベースにあるということです。

 そもそも、アドラー心理学というのは大変普遍的であり、半ば常識化している考え方です。よくアドラー心理学を指して「ほかの人も同じようなことを言っているではないか」と指摘したり「自分はすでにアドラーと同じようなことを考えていた」と言う方々がいますが、それは逆である可能性があります。

 つまり、知らないうちにアドラーの考え方を理解した人たちが、リーダーシップ論に取り入れている、ということです。しかし、アドラーはそれでいいと考えています。自分の考えが広く受け入れられる日が来るのを期待していたのです。

──アドラー心理学は社会ですでに常識的な考え方として浸透していて、多くの人がそれを理解している、と。

岸見氏:はい、ただ、当然そこでは多くの誤解が生じることもあります。自著の『嫌われる勇気』は大変多くの方に読んでいただきましたが、「嫌われる勇気」という言葉ばかりが一人歩きをしてしまっている印象を受けます。たとえば、リーダーがよく「たとえ部下から嫌われても言うべきことは言わないといけない。“嫌われる勇気”を持たなくてはならない」と誤解している場合があります。

──それのどこがいけないのでしょうか。“嫌われる勇気”であることには違いがないですよね。

岸見氏:アドラーが提唱した「嫌われる勇気」とは、親ではなく子、教師ではなく生徒、そして上司ではなく部下、と立場的に弱いとされるほうが、たとえよく思われなかったとしても自分の考えを言う勇気のことを指していました。役割として上の立場の人が、受け入れられなくても自分の言いたいことを言う、というのはまったくの誤解なのです。「相手が理解できるように説明をする」という自身の課題を理解できていない例です。

民主的なリーダーになるために必要な3つのこと

──双方で意見が食い違ったときには、立場が強い上司の側に「課題がある」ということですか。

岸見氏:上司は部下のしたことに責任をとるという役割がありますから、まずそこを徹底すべきです。また、アドラー心理学で言うところの「課題の分離」(注)は、それ自体が最終目標ではありません。あくまで目指すべきは、協力です。組織では、リーダーだけが仕事ができても部下がついていけなければ仕事は成立しません。共同体において協力関係であることが生きていく上で大切であり、それは会社でも同じことです。

(注)課題の分離:「これは誰の課題なのか?」という視点から、自分の課題と他者の課題とを分離すること。あることの最終的な結末が誰に降りかかるか、最終的な責任を誰が取らなければならないかを考えれば、それが誰の課題かわかります。あらゆる対人関係のトラブルは他者の課題に土足で踏み込むこと、自分の課題に土足で踏み込まれることから起こります。(岸見氏による解説)

──では、上司は具体的に部下に対してどのように接していくべきなのでしょうか。

岸見氏:民主的なリーダーになるために必要なことは、3つあります。

 1つ目は、リーダーは教育者であること。部下が伸びないのは上司の責任であり、自分の指導が至らないからだということをはっきりと上司がわきまえることが必要です。

 2つ目は、人間としての信頼関係を築くこと。仕事は友人や家族との対人関係と違って、何らかの成果を求められます。しかし、上司が部下をひとりの人間として信頼し尊敬する、という基本的な姿勢は持っていないといけません。むしろ若者のほうが優秀な場合は多々あります。そういった部下への信頼を持つことが大切です。

 そして3つ目は、仕事に全面的な責任を持つということ。たとえば中間管理職の方々と話す機会がよくありますが、彼らはよく上司と部下の板挟みになって思い悩んでいます。ただ、そういう場合でも保身ではなく部下を守ることを優先しないといけない。それこそが民主的なリーダーのあり方だと思うのです。

──教育者であり、全面的な責任を負いながら、それでも対等な信頼関係を築いていく……とても理想的ですが、実践するのは、とても大変なことのように感じます。

岸見氏:はい、私もよくリーダーたちからそういったご意見を受けます。

【次ページ】「コロナ不況でそんな悠長なことを言ってられない」へ岸見氏の回答

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