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- 2021/03/22 掲載
Azure Stack HCIとは何か? 「謎の新OS」は何をするためのものか
山市良のマイクロソフトEYE
IT 専門誌、Web 媒体を中心に執筆活動を行っているテクニカルライター。システムインテグレーター、IT 専門誌の編集者、地方の中堅企業のシステム管理者を経て、2008年にフリーランスに。雑誌やWebメディアに多数の記事を寄稿するほか、ITベンダー数社の技術文書 (ホワイトペーパー) の制作やユーザー事例取材なども行う。2008年10月よりMicrosoft MVP - Cloud and Datacenter Management(旧カテゴリ:Hyper-V)を毎年受賞。岩手県花巻市在住。
主な著書・訳書
『インサイドWindows 第7版 上』(訳書、日経BP社、2018年)
『Windows Sysinternals徹底解説 改定新版』(訳書、日経BP社、2017年)
『Windows Server 2016テクノロジ入門 完全版』(日経BP社、2016年)
『Windows Server 2012 R2テクノロジ入門』(日経BP社、2014年)
『Windows Server 2012テクノロジ入門』(日経BP社、2012年)
『Windows Server仮想化テクノロジ入門』(日経BP社、2011年)
『Windows Server 2008 R2テクノロジ入門』(日経BP社、2009年)
など
Azure Stack HCIという謎の新OS
マイクロソフトはWindows Server 2012 R2やWindows ServerとSystem Center製品などで構成されるプライベートクラウドソリューションとして「Windows Azure Pack」を提供しています。2017年8月にはその後継となる「Microsoft Azure Stack」(以下、Azure Stack)の提供を開始しました。いずれも、OEMパートナーの検証済みのOEMハードウェアに事前に構成済みで提供されるオンプレミスのプライベートクラウド、あるいはサービスプロバイダー向けのマルチテナントクラウドソリューションです。Azure Stackは、HCIクラスターのOSとしてWindows Server 2016またはWindows Server 2019で構築され、Windows Serverの標準の役割を用いてHyper-V仮想化プラットフォーム、ソフトウエア定義ネットワーク(Software Defined Network、SDN)ソフトウェア定義のストレージが実現され、Azure Resource ManagerベースのAzureと一貫性のある管理機能が提供されます。
華々しく登場したように見えるAzure Stackは、ハードウェア込みのソリューションであるため、筆者が実際に触れてみることは当時も、その後も一切ありません。そのため、筆者の知識もそのレベルでストップしていました。そんな中、昨年末に突如リリースされたように筆者には見えた「Azure Stack HCI」は謎の新OSでした。もちろん、Azure Stackの利用者やAzure Stackに関わる技術者にとっては、待望のリリースなのかもしれません。
以下のAzure Stack HCIのWebサイトからは、無料試用版に登録することができ、Azure Stack HCIのOSソフトウェアを入手することができます。
このOSを仮想マシン環境にインストールしてみたところ(本来であればAzure Stack HCI認定ハードウェアにインストールする必要があります)、Microsoft Azureの起動ロゴのあと、Server CoreベースのWindows Serverが起動しました。Azure Stack HCIのGA時点のバージョンは「20H2」ですが、OSビルドは「10.0.17784」です。OSカーネルは、Windows 10バージョン20H2やWindows Server, version 20H2よりも、Windows Server 2019に近く、Windows Server 2019のServer Coreをカスタマイズしたもののように見えます(画面1)。
Azure Stack HCIの基礎を3時間で学ぶ方法
自分の知らない新しい製品やサービス、技術を学ぶには、自分のペースで体系的に学べる「Microsoft Learn」が便利です。Azure Stack HCIについては、「Azure Stack HCIの基礎」という、4モジュールからなる、標準で3時間ほどのラーニングパスで一通り学ぶことができました(画面2)。Azure Stack HCIという新OSの謎は、最初の「Azure Stackの基礎」ですっかり解決しました。筆者の知る、2017年8月GAのAzure Stackは、2019年11月に現在の「Azure Stack Hub」というブランドに変更され、同時に「Azure Stack HCI」と「Azure Stack Edge」の2製品の追加が発表されていたのです(画面3)。その1年後、Azure Stack HCIが正式リリースとなったわけです。
Azure Stack Hub(以前のAzure Stack)は、オンプレミスのプライベートクラウドやサービスプロバイダーのマルチテナントクラウド向けの、最初4~16ノードの物理サーバーで事前に構築された統合システムであり、Azureのサービスのサブセット(PaaSとIaaS)をオンプレミスのインフラストラクチャあるいは外部から完全に切断された場所(工場の現場、クルーズ船、坑道など)に提供します。
Azure Stack HubのホストOSはWindows Server 2016またはWindows Server 2019ですが、物理ハードウェアのOSレベルにアクセスすることはありませんし、ハードウェアやシステム構成のカスタマイズもできません。Azure Stack Hubのユーザーは、物理サーバーの構成やOSを意識することなく、Azure Stack Hub上にAzureと一貫性のある方法で、PaaSやIaaSにリソースをデプロイし、従量課金制の月額単価でサービスを利用することができます。
Azure Stack HCIは2~16台の物理サーバで構成される
これに対して、Azure Stack HCIは最小2~16台の検証済み物理サーバーで構成されたシステムです。簡単に言うと、WindowsまたはLinuxゲストをHyper-V仮想マシンとしてデプロイ可能な、事前構成済みの、高度に最適化されたHCIクラスターです。AzureのPaaSのサービスの機能は含みませんが、Azure Stack HCI上には高可用性SQL Serverのインスタンスや、仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)、「Azure Kubernetes Service(AKS)」のKubernetesクラスターをデプロイして、データベースやコンテナーアプリを実行することもできます。リモート拠点のAzure Stack HCIクラスターとの間でディザスターリカバリー機能も提供できます(Azure Site Recoveryを利用したものではなく、拠点間のストレッチクラスターによる実装)。
事前に構成済みのAzure Stack HCIハードウェアは、HTML5ベースのWindows Server用管理アプリ「Windows Admin Center」を使用して、Azure Stack HCIクラスターとしてデプロイし、記憶域スペースダイレクト(Storage Spaces Direct、S2D)やネットワークコントローラーといったWindows Serverの役割を用いて、仮想ストレージや仮想ネットワークを構成することができます。
デプロイしたAzure Stack HCIクラスターは30日以内にAzureに登録することでアクティブになります。必要なコア数のみをアクティブ化して使用することができ、使用するコア数に応じて従量課金制の月額単価で利用することができます(物理ハードウェアは購入が必要)。
Azure Stack HCIのOSはAzure Stack HCIクラスター専用のAzureからサービスとして提供されるものであり、切断モードで利用できるAzure Stack Hubとは異なり、Azure Stack HCIはAzureとの接続が必須です。Azure Stack HCIのOSは、Azure Stack HubのホストOSにはなれませんし、通常版のWindows ServerがAzure Stack HCIクラスターのホストOSになることもできません。
残るもう1つのAzure Stack Edgeは、機械学習(Machine Lerning)やIoT(モノのインターネット)、データ転送といった特定用途に限定された、マイクロソフト製のアプライアンス製品になります。技術的には、マネージドKubernetes環境のコンテナーとして機能が実装されています。マイクロソフトにはクラウドストレージとして「StorSimple」というアプライアンス製品がありますが、2022年12月に完全に提供終了となり、Azure Stack Edgeなどへの代替製品の検討が勧められています。
【次ページ】インストール画面でわかるAzure Stack HCI
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