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- 2021/03/23 掲載
TikTokのバイトダンス vs 王者テンセント、激化する“国民的インフラ”の座をかけた戦い
トランプ政権に振り回されつつも飛躍したバイトダンス
TikTokを運営する字節跳動(バイトダンス)にとって、2020年は米国トランプ政権に振り回される1年になった。2020年9月に米商務省がTikTokの新規ダウンロードを禁止し、米国企業が運営する形での存続が模索された。この事件は中国では「海外事業剥離事件」と呼ばれている。結果として、バイデン政権に変わる中でうやむやとなり、TikTokは米国でのサービスを継続している。その間、バイトダンスは中国国内でも活発な活動をしていた。TikTokの中国版「抖音(ドウイン)」には、以前からライブコマース機能が備わっていたが、2020年6月にEC部門を設立、ライブコマースを本格化させた。同年11月には独身の日セールに初参入し、187億元(約3,100億円)という初年度としては驚異的な売上を上げた。
さらに2021年になると、独自の決済システム「抖音支付(ドウインペイ)」をリリースした。
2月11日の春節の前日、視聴率30%を超える大みそかのバラエティー番組「春節聯歓晩会」(春晩)が放送された。この公式紅包(お年玉)スポンサーには、ソーシャルEC「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」が予定されていたが、過重労働問題を起こしたため辞退。
替わって公式スポンサーになったのがバイトダンスで、視聴者に20億元(約330億円)のお年玉を配布した。お年玉を受け取るには、ドウインペイにアカウント登録することが必要で、ドウインペイはタイミングよく一気に大量の利用者を獲得したと見られている。
しかし、バイトダンスの狙いは、ドウインペイの普及だけではなかった。バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOは、社内メールで従業員に対し、「今回の春晩紅包は、ドウインペイの利用者数を伸ばすことだけが目的ではなく、バイトダンスが長年挑戦してきたSNSへの道を拓くものだ」と説明したと報道されている。
なぜ、ドウイン(以下、便宜上TikTokと表記する)にSNS機能が必要なのだろうか。
意外と知らない、中国2大「スマホ決済」の住み分け
中国の生活系サービスにとって、SNSがいかに重要になっているのかは、スマホ決済サービス「アリペイ」と「WeChatペイ」を比較してみるとよくわかる。アリペイ、WeChatペイの2020年第2四半期のシェアは、それぞれ55.6%、38.8%と、アリペイが優勢な状況が続いている。しかし、これは決済金額シェアだ。決済回数シェアになると、アリペイ33.7%、WeChatペイ58.4%と逆転する。つまり、アリペイは比較的高額の決済に使われ、WeChatペイは比較的少額の決済に使われる傾向があることがわかる。
WeChatペイは、日本のLINE Payとよく似た構造で、WeChatというSNSが中心で、WeChatペイはその付属機能という位置付けになっている。そのため、SNS上での知り合いに対して、簡単に送金をすることができる。
一方で、アリペイは日本のPay Payとよく似た構造で、SNS機能は弱く、一応友人を登録しておくことはできるが、メッセージのやり取りなどは原則できないため、SNSとして使う人はほとんどいない。「強いSNSのWeChatペイ」、「弱いSNSのアリペイ」という言い方がよく使われる。
強いSNSであるWeChatペイは、個人間の送金が活発になる。中国にも動画や画像、文章などを公開して、投げ銭で生計を立てる「内容創業者(コンテンツ創業者)」と呼ばれる人たちが多数登場している。
このような人たちが、投げ銭や有料ライブ配信の利用料を受け取る手段として活用しているのがWeChatペイだ。WeChatアカウントを示しておくことで、視聴者、読者が手軽に投げ銭をできるようになっている。内容創業者にとって、WeChatペイはなくてはならない重要なツールになっている。
一方のアリペイは、ほとんどがECや商店への支払いに使われ、個人間での送金はあまり行われない。アリペイの決済金額シェアが大きいのは、何よりアリババが天猫(Tモール)と淘宝網(タオバオ)という巨大ECを運営していることが大きい。
【次ページ】TikTokにSNS機能の強化が必要なワケ
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