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- 2021/05/19 掲載
「事例ある?」と聞いているうちは、今後も日本のAI導入は進まないと言えるワケ
導入率4.2%にとどまる「3つの理由」
AIは「21世紀のエクセル」、DX実現の必須要素
コロナ禍を契機として、企業のデジタル化は「やるか」「やらないか」ではなく、「いつやるか」というテーマになったと思います。デジタル化の難しい企業が厳しい局面を迎えた一方で、AI関連企業の業績はおしなべて好調です。GAFAに限らず、上下流工程それぞれに勢いがあり、たとえば、エヌビディア社では画像処理装置「GPU」関連のデータセンター事業の売上高が、2020年10月時点で前年比162%アップしました。
デジタル化にも段階があって、脱ハンコといった従来デジタルでなかったものをデジタルにすることを「デジタイゼーション」、デジタイゼーションでデジタル化されたデータを使用して、作業の進め方やビジネスモデルを変革することを「デジタライゼーション」といいます。
今、日本で叫ばれているDX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタライゼーションを実現してこそ可能な変革で、AIはデジタライゼーション、DX、どちらも実現するために必要な大きなビルディングブロックの一つです。
業界を問わず、AIを活用することはもはや不可欠です。AIは「21世紀のエクセル」ともいわれており、どの企業もAIビジネスに着手するときに来ているのです。ここでいうAIビジネスとは、AI導入による業務変革を意味しています。
AIビジネス推進に重要な「転換思考」
AIビジネスを進めるためには、それに携わる人々が6つの思考回路を獲得する必要があります。「ユーザー思考」「プロダクト思考」「起業家思考」「プラットフォーム思考」「転換思考」「オートメーション思考」です。詳しくは自著を読んでいただければと思いますが、ここでは「転換思考」をご紹介します。「転換思考」とは、優れたビジネスアイデアの実例、成功例を知ったときに「その考え方を別の部分に応用できないか?」と考えてみることです。たとえば、次のAI導入例で考えてみましょう。
そこで、正確な出血量を計測し、出産現場でシームレスに課題解決するために医療現場で取り入れられたのが、シリコンバレーにあるガウス・サージカル社のトライトン(Triton)というアプリケーションです。出産現場で血を吸ったスポンジやガーゼをiPhoneやiPadにかざすと、その色の濃さや広がりの面積などから出血量を瞬時に計測してくれます。
トライトンを導入した出産の現場では、2倍から4倍多く出血過多が検出されており、結果的に適切な医療措置の遅れが34%も低減したそうです。
こうした成功例を知ったとき、ただ感心するのではなく、同様の技術(上記では画像認識)が他のことに使えないかと考えてみることが転換思考です。AIビジネスではこの「自分事に落とし込む力」が何よりも重要で、技術的に可能かどうかはもっとずっと後の工程で考えるべきことです。
日本でAI導入が進まない3大要因
アメリカの調査会社コグニリティカ(Cognilytica)は、2020年に企業のAI導入に関する調査を行いました。業界や地域が偏らないようにして1500人以上の経営幹部(意思決定者)を対象にアンケートしたところ、9割以上の回答者がすでにAIアプリケーションを導入している、または近い将来に導入を検討していると回答しました。それに対して、日本企業のAI導入率はいまだ数字1桁という状況です。独立行政法人情報処理推進機構 「AI白書2020」の調査によると、実導入率はわずか4.2%でした。
これは、上に挙げた6つの思考回路の獲得が進んでいないこともありますが、そのほかに3つの大きな要因があるように思います。
【次ページ】日本企業のAI導入率が進まない3大要因
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