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  • 2021/06/23 掲載

コロナ禍なのに失業率が急増しないワケ、日本独特の「雇用調整」の特徴とは? 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第135回)

篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第135回)

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コロナ渦でみられる経済現象を読み解くには「市場と組織」のマトリクス分析が役に立つ。たとえば、人流抑制で大打撃を受けた航空会社の従業員は、社員の身分を維持したまま、自治体や別の企業へ出向の形で職場を移しているが、この現象は「場」としての市場に「組織原理」を働かせる日本型の仕組みそのものだ。「場」としての市場で文字通り「市場原理」が働き、労働移動を実現する米国型とは対照的だ。今回は、日米の失業率にも表れているこの違いを見ていこう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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日本と米国では、雇用調整に違いがあるが、その理由は…
(Photo/Getty Images)

労働市場にみる外部型の米国と内部型の日本

 前回解説した「市場と組織」のマトリクス分析で重要なのは、現実の「場」として、市場や企業を見ると、純粋な形で文字通りにそれぞれの「原理」が働くわけではなく、相互浸透によるさまざまな中間的形態が生まれることだ(図表1)。

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図表1:「市場と組織」のマトリクス分析
(備考)(1)は意思決定原理、(2)は相互関係(メンバーシップ)
(出所:連載の第134回の図表2参照)

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 この枠組みで、「場」としての組織(=企業)と「場」としての市場を日米比較すると、どうなるであろうか。実は、コロナ禍における雇用調整でも、このマトリクス分析による特徴を顕著に観察することができる。

 今井・伊丹(1993)によると、ヒトの資源配分に関しては、企業の外部に分厚い労働市場が形成されている米国とは異なり、外部市場を通じた雇用の量的調整が難しい日本では、企業の「内部を市場的に運営」した資源配分がなされている。

 日本企業では、ホワイトカラー層を中心に部署や事業所間で横断的なローテーション人事が組まれており、企業の「内部」に分厚い労働市場が形成されている。人事異動を繰り返しながら螺旋状に昇進していく仕組みが特徴なのだ。

コロナ禍で顕著にみられた日本型の雇用調整

 この特徴は、コロナ禍における雇用調整にも表れている。たとえば、利用者が激減して減便や欠航が相次いだ航空会社は、客室乗務員などの社員を「出向」の形で身分を残したまま、別の企業や自治体に派遣し、雇用の維持を図っている(日本経済新聞[2021])。

 米国型の仕組みであれば、航空会社を辞めて(失業して)別の企業や自治体の職員に採用されるところだ。つまり、企業の外部に広がる労働市場を通じた雇用調整(労働力移動)が起きることになる。これに対して、日本では、航空会社の社員という身分のまま、まったく別の業種に移動して仕事をしているのだ。

 マトリクス分析に準じれば、「場」としての労働市場に純粋な形で市場原理が働く米国に対して、日本では「場」としての労働市場に組織(=企業)の原理が働くことを意味している。レイオフが相次いで失業率が急上昇した米国とは対照的に、日本の失業率が比較的落ち着いているのは、こうした要因が働いているからだと考えられる(図表2)。

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図表2:コロナ禍前後の失業率推移(日米比較)
(出所)US. Bureau of Labor Statistics, 総務省統計局の資料を基に筆者作成

 具体的にみると、2020年2月に3.5%だった米国の失業率は、コロナウィルス感染症の拡大が深刻化した同年4月には14.8%に急上昇した。一方、日本の場合は、2020年2月の2.4%から同年10月の3.1%へ徐々に上昇したものの、今年に入ってからは再び2%台に低下しており、労働市場における日米の特徴はマクロ経済の指標にも端的に表れている。

 社員の身分のまま、別の会社に出向するという仕組みは、「場」としての労働市場に(市場原理ではなく)組織原理を作用させたとみることができるし、企業の「内部労働市場」を通じた雇用調整とみることもできるだろう。

日本型は知識やノウハウの伝承にメリット

 この仕組みのメリットは、企業に固有の知識やノウハウが組織的、継続的に伝承されて、内部で共有されるのに適している点だ。さまざまな部署や組織を経験する過程で範囲の経済性を生かした技術開発力の源泉になると考えられる。

 これらのメリットは、連載の第133回でみた「白書」の企業内システムの分析でもなされており、日本型の経済システムが成功した要因の1つと結論付けられた。これが、ヒトの資源配分に関する「市場と組織」のマトリクス分析から得られる含意だ。

 その一方で、この仕組みにはデメリットもある。労働力の移動に時間がかかり、長期的にみると、産業や企業の新陳代謝が進みにくくなるのだ。この点の考察は別の機会に譲ることにしよう。

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