- 会員限定
- 2021/06/23 掲載
コロナ禍なのに失業率が急増しないワケ、日本独特の「雇用調整」の特徴とは? 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第135回)
篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第135回)
-
|タグをもっとみる
労働市場にみる外部型の米国と内部型の日本
前回解説した「市場と組織」のマトリクス分析で重要なのは、現実の「場」として、市場や企業を見ると、純粋な形で文字通りにそれぞれの「原理」が働くわけではなく、相互浸透によるさまざまな中間的形態が生まれることだ(図表1)。今井・伊丹(1993)によると、ヒトの資源配分に関しては、企業の外部に分厚い労働市場が形成されている米国とは異なり、外部市場を通じた雇用の量的調整が難しい日本では、企業の「内部を市場的に運営」した資源配分がなされている。
日本企業では、ホワイトカラー層を中心に部署や事業所間で横断的なローテーション人事が組まれており、企業の「内部」に分厚い労働市場が形成されている。人事異動を繰り返しながら螺旋状に昇進していく仕組みが特徴なのだ。
コロナ禍で顕著にみられた日本型の雇用調整
この特徴は、コロナ禍における雇用調整にも表れている。たとえば、利用者が激減して減便や欠航が相次いだ航空会社は、客室乗務員などの社員を「出向」の形で身分を残したまま、別の企業や自治体に派遣し、雇用の維持を図っている(日本経済新聞[2021])。米国型の仕組みであれば、航空会社を辞めて(失業して)別の企業や自治体の職員に採用されるところだ。つまり、企業の外部に広がる労働市場を通じた雇用調整(労働力移動)が起きることになる。これに対して、日本では、航空会社の社員という身分のまま、まったく別の業種に移動して仕事をしているのだ。
マトリクス分析に準じれば、「場」としての労働市場に純粋な形で市場原理が働く米国に対して、日本では「場」としての労働市場に組織(=企業)の原理が働くことを意味している。レイオフが相次いで失業率が急上昇した米国とは対照的に、日本の失業率が比較的落ち着いているのは、こうした要因が働いているからだと考えられる(図表2)。
具体的にみると、2020年2月に3.5%だった米国の失業率は、コロナウィルス感染症の拡大が深刻化した同年4月には14.8%に急上昇した。一方、日本の場合は、2020年2月の2.4%から同年10月の3.1%へ徐々に上昇したものの、今年に入ってからは再び2%台に低下しており、労働市場における日米の特徴はマクロ経済の指標にも端的に表れている。
社員の身分のまま、別の会社に出向するという仕組みは、「場」としての労働市場に(市場原理ではなく)組織原理を作用させたとみることができるし、企業の「内部労働市場」を通じた雇用調整とみることもできるだろう。
日本型は知識やノウハウの伝承にメリット
この仕組みのメリットは、企業に固有の知識やノウハウが組織的、継続的に伝承されて、内部で共有されるのに適している点だ。さまざまな部署や組織を経験する過程で範囲の経済性を生かした技術開発力の源泉になると考えられる。これらのメリットは、連載の第133回でみた「白書」の企業内システムの分析でもなされており、日本型の経済システムが成功した要因の1つと結論付けられた。これが、ヒトの資源配分に関する「市場と組織」のマトリクス分析から得られる含意だ。
その一方で、この仕組みにはデメリットもある。労働力の移動に時間がかかり、長期的にみると、産業や企業の新陳代謝が進みにくくなるのだ。この点の考察は別の機会に譲ることにしよう。
今すぐビジネス+IT会員にご登録ください。
すべて無料!今日から使える、仕事に役立つ情報満載!
-
ここでしか見られない
2万本超のオリジナル記事・動画・資料が見放題!
-
完全無料
登録料・月額料なし、完全無料で使い放題!
-
トレンドを聞いて学ぶ
年間1000本超の厳選セミナーに参加し放題!
-
興味関心のみ厳選
トピック(タグ)をフォローして自動収集!
関連コンテンツ
PR
PR
PR