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  • 2021/06/29 掲載

テンセントの平均年収約1,400万円は妥当? 日本人には厳しすぎる「人事評価」制度とは

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中国ネット大手のテンセントは、2020年の営業収入が約8.3兆円だったと年度報告書で発表した。毎年20%以上という同社の成長率にはもちろん注目が集まったが、報告書に記載された従業員数と給与支払総額が話題を呼んだ。そこから算出した平均年収は約1,400万円。ネット上では羨望の声が相次いだが、この金額は高いのだろうか、低いのだろうか。同社を含めた多くの中国ネット企業は「淘汰制度」をとっており、成績不良者は強制解雇される。その割合は毎年5~10%にものぼる。テンセントが行っている人事評価の詳細、日本とは大きく異なる中国のITエンジニアの働き方、その実態とは。

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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中国深センにあるテンセントのオフィスに向かう従業員たち(写真は2020年8月)
(Photo/VCG/Getty Images)


テンセントが「安定的に成長」できる理由

 2021年3月に公開された騰訊(タンシュン、英語名:テンセント)の年度報告書が色々と話題になっている。1つは、コロナ禍という厳しい年であったのに安定した成長ぶりを見せたことだ。2020年の営業収入は4,820.64億元(約8.3兆円)となり、毎年20%以上の成長を維持している。

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2020年の営業収入は4,820.64億元(約8.3兆円)と好成績だった
(出典:「2020年報」(テンセント)より作成)

 ネットビジネスのマネタイズ3原則は「広告」「課金」「販売」と言われるが、テンセントはこの3つをバランスよく展開している。

 最も大きいのは課金サービスで、その多くはスマートフォンゲームだ。「王者栄耀」(Honor of Kings)が中国では数年にわたるヒットゲームとなり、さらに海外でも「PUBG Mobile」が高い人気を誇っている。いずれも、テンセントではなく、独立系ゲームスタジオが開発したもので、テンセントはこのようなスタジオに積極的に出資をし、テンセントから配信をしてヒットさせるという手法をとっている。

 また、エンタープライズサービスも大きな収入源になっている。その中心にあるのは同社のSNS「微信」(ウェイシン、WeChat)で、日間アクティブユーザー数が10.9億人と、中国のスマホユーザーのほぼ全員が使っていると言っても間違いではない国民的インフラになっている。

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2020年の営業収入事業別内訳。スマホゲームを主体とする課金サービス事業が最も大きいが、WeChatなどで企業を支援するエンタープライズサービスも大きな柱の1つになってきている
(出典:「2020年報」(テンセント)より作成)

 特に、WeChat内の機能であるWeChatミニプログラムとWeChatペイは、中国の小売業のあり方を大きく変えた。WeChatミニプログラムは、WeChat内で利用できるアプリ内アプリだ。技術的にはウェブアプリをベースにしたものだが、スマホアプリとほぼ同等の機能が実現できる。小売企業にとってWeChatミニプログラムは、スマホアプリの2分の1から3分の1のコストで開発できるため、スマホアプリからWeChatミニプログラムへの移行が起きている。


 企業がWeChatミニプログラムを開発して、WeChat内に開設するには、最初に300元(約5000円)の手数料を支払うだけで、その後の費用はかからない。しかし、アカウント情報を保有しているテンセントは、WeChatミニプログラムにアクセスしたユーザーの分析を行い、各企業に対して有償の情報提供を行っている。複数のメニューが用意されていて、大掛かりなものではITコンサルを行う。この収入が大きくなっているのだ。

 中国のEC企業のトップ3は、アリババ、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドゥオドゥオ)だが、テンセントはこのうちの京東と拼多多に対しては出資もし、技術的な支援を行っている。急成長をして、年間アクティブユーザー数でアリババの淘宝網(タオバオ)を抜いた拼多多は、ソーシャルECとも呼ばれ、WeChatがなければ成立しない仕組みになっている。


 現在のテンセントは、ECでもゲームでも、自分で開発や運営をするのではなく、有望な企業に出資をし、それを金銭面と技術面で支援することで安定的な成長をしているのだ。

年度報告書から算出した「平均年収」が話題に

 もう1つ、ネットで話題になったのが、この年度報告書に従業員数と年間の給与支払総額が記載されていることだ。つまり、割り算をすれば平均給与が計算できる。年度報告書によると、従業員数は8万5858人、年間の給与支払総額は696.38億元だった。計算をすると、平均年収は81.11万元(約1,400万円)となる。

テンセントの平均年収
  2020年 2019年
従業員数(人) 85,858 62,885
人件費(億元) 696.38 531.23
平均年収(万元) 81.11 84.48
平均年収(円) 1,394.25 1,452.15
年度報告書に記載されている「従業員数」と「給与支払総額」から算出した平均年収
(出典:「2020年報」(テンセント)より作成)

 ネットでは羨望の声があがり、「テンセントの守衛さんに雇ってくれ!」などという書き込みが相次いだ。一方、転職情報サービスなどでもこの話題を取り上げているが、この平均年収が高いか、安いかは一概には言えないと釘を刺している。

 なぜなら、テンセントの求人広告にある初任月給は1.5万元から6万元程度に集中している。これは年収に直すと約300万円から1,200万円程度になる。つまり、最初の給与は高くはなく、実績を上げると急速に上がっていく仕組みになっている。平均はあくまでも平均であって、その分布具合がどうなっているのかまでは年度報告書には記載されていない。

【次ページ】日本人からすると厳しすぎる? 中国テック企業の「淘汰制度」

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