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  • 2021/09/08

買い物客が得する「コスパが良いお店」…それなのに儲かるカラクリとは?

【連載】儲かる小売店の「つくりかた」

よく耳にする「コスパが良い」という言葉だが、具体的に「コスパが良い」とはどのような状態のことを指すのだろうか。単に「安い」こととは、何が違うのだろうか。また、買い物客に「コスパが良い」と感じてもらうことは、どれほど店舗の売上アップにつながるのだろうか。今回は、買い物客にとってはどちらもお得な「コスパが良い」と「安い」の違いを整理しつつ、店舗が「コスパ」や「安い」を追求することで得られる効果を解説したい。

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 教授 寺本高

横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 教授 寺本高

横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授。1973年横浜市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。流通経済研究所店頭研究開発室長、明星大学経営学部准教授、横浜国立大学准教授を経て2020年より現職。主著に『小売視点のブランド・コミュニケーション』(千倉書房)、『スーパーマーケットのブランド論』(千倉書房)などがある。

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「コスパ」や「安い」を追求することは、ホントに店舗の売上につながるのだろうか?
(写真:アフロ)


そもそも「コスパ」とは?

 近年、「コスパ」という言葉がよく使われている。コスパという言葉は、かつて車、電化製品といった買回り品や、ホテル、旅行ツアーといったサービス財を対象に多用される言葉であった。

 しかし、近年では、「やっぱ、コスパ!」というキャッチコピーのテレビコマーシャルを展開する大手スーパーマーケットが現れたり(注1)、スーパーマーケットが展開するプライベートブランドの競争軸の1つとして「コスパ」という表現が用いられる(注2)など、加工食品や日用雑貨品を扱う業態もこの言葉を用いられるようになってきた。

 そもそも「コスパ」とは、「コストパフォーマンス」という和製英語の略である。コスパは、たびたび消費者の「お買い得感」を表す言葉として使われているが、本来は製品を製造・販売する供給者側の視点から使われる言葉で、ある製品やサービスの費用(コスト)と、それがもたらす効果・性能(パフォーマンス)とを対比させたものである。

 それに対し、消費者などの需要者側の視点によるコスパについては、前回の連載で紹介したお買い得感を表す「知覚価値」という考え方をベースに捉えることができる。

 前回の記事では、お買い得感を表す「知覚価値」は、商品の性能や品質などから得られるメリットを示す「知覚ベネフィット」を、商品に支払う金額や買うまでの手間によるデメリットを示す「知覚コスト」で割ることによって算出できることを解説した。

 式にすると「知覚価値=知覚ベネフィット/知覚コスト」となるが、この式を今回紹介する「コスパ」を算出する方法として当てはめると、「コスパ(≒知覚価値)=パフォーマンス(≒知覚ベネフィット)/コスト(≒知覚コスト)」と考えることができる。

 それでは、よく言われる「コスパの良い」や「安い」という表現は、具体的にどのような状態のことを指すのだろうか。

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「コスパの良い」とは具体的にどのような意味なのか?「安い」とはどう違うのか?
(Photo/Getty Images)

「コスパの良い」と「安い」の違いとは?

 青山学院大学の小野譲司教授は、顧客が知覚する品質レベルの高低と、顧客が負担するコストの高低によるサービスに対する知覚価値の類型化を示している。その中で、品質レベルが高く、コストが低いサービスをコストパフォーマンスの高い「スマート・エクセレンス」なサービスであると指摘している(注3)

 整理すると、小野教授が掲げる「スマート・エクセレンス」をここで言う「コスパの良い」と捉えると、「コスパの良い」は知覚ベネフィットが高く、かつ知覚コストが低い製品・サービスを提供する店舗に対する知覚価値を指している。

 これに対して「安い」は、知覚ベネフィットの高低を問わず、とにかく知覚コストが低い製品・サービスを提供する店舗に対する知覚価値を指していると捉えることができる。

「コスパの良い」と「安い」、口コミが増えるのはどちらか?

 では、「コスパの良い」という表現は、実際の消費者の行動にどのような影響を与えるのだろうか。

 ここでは、流通経済研究所の三坂昇司主任研究員と共同で行ったソーシャルメディア実験の結果を紹介したい(注4)

 この実験では、疑似的なソーシャルメディアを用いて、2つのグループを作り、1つのグループにはメディア管理者から「“コスパの良い”スーパーについて語ろう(以下、“コスパグループ”)」と伝え、もう一方のグループには「“安い”スーパーについて語ろう(以下、“安いグループ”)」というお題を投稿し、各グループ内での盛り上がり状況を比較した。

 なお、“コスパグループ”と“安いグループ”のグループ間交流は一切できないように分断したうえ、グループのメンバーについても普段の買い物行動やオンラインコミュニケーションのレベル面で“コスパ”と“安い”のグループ間で偏りのないように被験者サンプリングを行っている。


 その結果、まず、被験者が接触したコメント内容の量については、“コスパグループ”は、“安いグループ”に比べて、「価格」に関するコメントでは0.5倍なのに対し、「品質」では2.3倍、「楽しい」では1.9倍多いことが明らかになった。この結果は、“安いグループ”の参加者は「価格」の話題ばかりに多く接触している一方、“コスパグループ”の参加者は「品質」「楽しい」という話題に多く接触していることが言える。

 次に、1つの投稿に対する平均の返信数では、“コスパグループ”の方が“安いグループ”よりも1.9倍多かったことが明らかになった。これはかなり注目すべき結果である。

 店舗に対する低価格のイメージは、消費者の店舗選択や購入量の増加にポジティブな影響(注5)がある一方で、みすぼらしく粗雑なイメージを与えるというネガティブな影響(注6)もある。

 このような過去の研究の知見と照らし合わせて見ると、安い店舗で買うことは、自分自身の経済面にとってはポジティブな話だが、それを他人と話題にすることは「安いことに食いつきすぎると、卑しい人って思われるんじゃないか…」と思い、口コミの場面では積極的な自己表現を避けるものと考えられる。

 それに対して、コスパの良い店舗で買うことは、自分自身の経済面にとってポジティブな話だけでなく、「コスパの良いものを知っている私って目利きじゃない?」というようなポジティブな自己表現につながり、他者から賛同を得たい、ほめられたいという期待にもつながるため、口コミの場面でより積極的な自己表現をするものと考えられる。

 つまり、コスパが良いということは、安いことよりも口コミの場面でネタにしやすいワードなのである。

【次ページ】「コスパの良い」と「安い」、購入量が増えるのはどちらか?

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