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  • 2021/03/02 掲載

ブランディング失敗?スーパーマーケットが「SNSで共有されない」ワケ

【連載】儲かる小売店の「つくりかた」

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スーパーマーケット(以下、スーパー)は、私たちの身近な存在でありながら、そのことに関して知人同士で話が盛り上がったり、SNSで取り上げられたりする場面は非常に少ない。多くの消費者には、それぞれお気に入りのスーパーがあるものの、それが他人との話題に上ることはほとんどない。つまり、スーパーは消費者にとって「他人と共有するほどの存在ではない」という位置付けになってしまっているのだ。本連載の第1回目では、まずスーパーが消費者にとって具体的にどのような立ち位置にあるのか、その実態を紐解きながら、課題を挙げていきたい。

執筆:中央大学 商学部 教授 寺本高

執筆:中央大学 商学部 教授 寺本高

1973年横浜市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。流通経済研究所店頭研究開発室長、明星大学准教授、横浜国立大学准教授、教授を経て2022年4月より現職。主著に『小売視点のブランド・コミュニケーション』(千倉書房:日本商業学会賞奨励賞受賞図書)、『スーパーマーケットのブランド論』(千倉書房)などがある。

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スーパーマーケット再生に必要なこととは?
(Photo/Getty Images)

買い物場所として「期待されてない」

 消費者から、スーパーはどのようなイメージを持たれているのであろうか。

 たとえば、「買い物場所」としてどのような評価を受けているのか調べたところ、スーパーはオンラインショップやホームセンター、ショッピングモールなどの他業態に比べると、「楽しい気持ちになる」や「ワクワクする」という項目への回答率が比較業態の中で最も低かった(注1)

 また、三菱地所・サイモンが首都圏在住の20~40代女性500名を対象に実施した「買い物幸福度調査」(注1)によると、スーパーへの買い物目的として期待されている点は、「良いものを安く買うため」「時間をかけずに買い物をするため」という回答が多く、逆に期待されていない点は、「買い物を楽しむため」「気分転換のため」「自分の欲しいものを見つけるため」などであった。

(注1)三菱地所・サイモン(2013)「買い物幸福度調査」三菱地所・サイモン資料より。

 これらの点から、スーパーは消費者にとって手っ取り早く買い物を済ませる場所という立場になってしまっており、「ワクワク感」を得る場所、楽しみや気分転換の場所として期待されていないことが分かる。

 また、全国スーパーマーケット協会の「スーパーマーケット白書2015」では、スーパーにおける限定商品などの「レア物購買に対する消費者の期待」にフォーカスした調査もある。

 それによると、「スーパーでレア物商品を販売してほしくない」という回答比率が3割に上り、その理由(自由記述)として「大量生産すると品質が落ちるから」といった品質低下を懸念するコメントや、「その店に行ってこそ価値がある」「スーパーで売られたら特別感がなくなる」といった特別感・プレミアム感の低減を懸念するコメントがあった(注2)

 これらの点から、スーパーは日常的イメージが強すぎて、販売の特別感やプレミアム感を出す場として認められなくなっていることが分かる。

(注2)全国スーパーマーケット協会(2015)「スーパーマーケット白書2015」全国スーパーマーケット協会資料より

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消費者は「スーパーマーケット」に買い物の楽しさを求めていない
(Photo/Getty Images)

就職先として「不人気」

 消費者は、スーパーを利用する際、買い物者という立場で行動するわけだが、消費者の中には「労働者」としてスーパーに勤務するという立場もある。では、労働者の立場から見たスーパーの実態はどうだろうか。

 まず、スーパーをはじめとした小売業全体の大卒有効求人倍率を見ると、2010年には調査対象業界平均(全体)が1.62倍に対して、小売業は4.66倍と約3倍の開きがあり、さらに2017年には全体が1.74倍に対して、小売業は6.98倍と約4倍に差が広がっている(注3)

(注3)リクルートワークス研究所(2017)「大卒求人倍率調査(2017年)」リクルートホールディングス資料より

 この倍率は、「求人者数÷応募者数」で示される。つまり、6.98倍というのは約7人の求人に対して1人しか応募がないことを意味する。よって、スーパーをはじめとした小売業は、業界の求人規模の大きさに対して、採用される新卒学生数が極めて少なく、雇用のミスマッチが大きい業界であることが分かる。

 それでは、このミスマッチが生じている理由は何であろうか。

 ミスマッチの理由として、特に小売業の多くが該当する項目として、「業界のイメージが悪く、自社に応募者が集まりにくい」、「自社のアルバイト・パートの離職率が高くなっている」がある(注4)。つまり小売業にとって、産業界に対する負のイメージや離職率の高さが、さらなる雇用のミスマッチをもたらす要因となっており、人材確保の悪循環に陥っている可能性があると言える。

(注4)リクルートワークス研究所(2014)「人手不足の実態に関するレポート」リクルートホールディングス資料より

 実際に、就職する立場である新卒学生が持つイメージはどうだろうか。

 『週刊ダイヤモンド』「大学3年生が選んだ就職人気企業ランキング」(2018年4月17日号)では、上位200位以内にランクインしている小売業は極めて少なく、具体的には82位にインターネット小売業の楽天、95位にインテリア小売業のニトリのみであり、スーパーの企業は皆無という状況である(注5)

(注5)ダイヤモンド・ヒューマンリソース(2018)『週刊ダイヤモンド』「大学3年生が選んだ就職人気企業ランキング」(2018年4月17日号)より



 調査対象者が大学3年生ということで、必ずしも就業に関する情報が十分でなく、表層的な情報収集しかできていない人々からの聴取結果であることと、上位にランクインしている企業は全国的に展開しており、企業規模が大きいものが中心になっているという状況を割り引いて見たとしても、多くの大学生から就職希望先として考慮対象に入っていないということは、まぎれもない事実である。

スーパーマーケットの縮小危機、再生のヒントは?

 上記のようにスーパーが置かれているイメージについて見てみたが、スーパーは、身近な存在として評価されているものの、「買い物場所」「就業先」という立場では他業界に比べてポジティブなイメージが少ないということが分かる。先述の「気に入ったお店はあるけど、別に他人に言うほどのものではない」というスーパーの立ち位置は、これらのイメージが大きな要因になっているものと考えられる。

 人口減、少子高齢化が進み、消費者はモノを買わなくなっている状況下で、スーパー業界は、従来の存在感のままでは益々縮小してしまう恐れがあるだろう。

 市場を回復させる上ではスーパーが消費者間で“話題”として盛り上がる業界になることが大きな課題となる。そのためには、いままでの売上や購買だけでなく、“話題力”も活動の成果指標として考えていく必要があろう。

 ここからは、スーパーが話題に上がることの意義やメリットを解説していく。

【次ページ】「話題力強化によるブランディング」の9つのメリット
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これまでは消費者の「購買」のみを成果指標としてきたスーパーマーケット。そこに、「話題性」の指標を盛り込むと……どのようなメリットが期待できるのか?(次のページで解説します)

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