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デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進行する中で、基盤である企業ITシステムにはロバスト性(頑健性)が必要だと、アイ・ティ・アール(ITR)のプリンシパル・アナリスト 浅利 浩一氏は語る。これからのDXの高度化・最適化に向けた企業ITシステムの最適解と「IT組織運営」の勘どころとは。
DXの関心の高まりとともに基幹システムの脱レガシー化が進展
デジタル化によるディスラプションがあらゆる産業で起こりつつある。たとえば、製造業においては「モノづくり」から「サービス」への事業転換が進んでいるほか、3Dプリンティングによるマスカスタマイゼーションの流れが加速化している。
また、デジタル社会形成基本法案をはじめとするデジタル関連法案の整備によって社会全体がデジタル化へと舵を切り、デジタル庁の設置やインボイス制度の導入など、行政サービスも電子化が進んでいる。これらの流れは不可逆的だ。
デジタル化が進展した社会、産業では、データの重要性がますます高まっている。現実世界でセンサーシステムが収集したデータを、サイバー空間でコンピューター技術を使って分析して知見を得るCPS(サイバーフィジカルシステム)により、現実社会のデータが相互につながり、クラウド上のAIで分析され意思決定を促進していく。
このようなDXが社会の各所で起き、業務プロセスや取引の方法が変わるだけでなく、人々の生活をよりよい方向に変化させていくデータ主導型の超スマート社会の到来が期待される。
こうした状況で、企業の基幹系システムも「脱レガシー化」が進んでいる。ITRが2019年に実施した調査(「エンタープライズシステム状況調査」)を2021年の調査と加重平均したのが下図だ。
業務システム系システムの7分野のうち、レガシーシステムが存在する割合を指数化して平均したものだが、これによると、新規分野ではレガシーシステムが存在する割合が1.61(2019年)だったものが2021年には1.04まで減少するなど、軒並み減少傾向が見られている。
ロバスト性の高いシステムに「脱構築」するためのアプローチ
デジタル化の進展とともに、システム開発の手法も変わってきている。上述したITRの調査では2019年から2021年の2年間で、スクラッチ開発の割合が減少し、クラウド技術を活用した開発が増えている。また、ERPなどの基幹系業務システムも、オンプレミスのパッケージシステムからIaaSを活用したパッケージシステムの利用や、クラウド(SaaS)の利用へと移行している傾向が見られる。
こうした状況を踏まえ、DX基盤としてのエンタープライズシステムの将来像をいかにつかんでいけばよいか。浅利氏は「今後10年程度、今のような混迷、混在は続いていく」とした上で、「少なくとも2回程度のIT中長期計画の実行の中でこうした問題を解消していくとすれば、その間のプランニングをブレずに策定していくことが重要なポイントだ」と述べた。
そして、企業ITシステムの建設的な再構築=「脱構築」に重要なポイントが「ロバスト性」だ。これは環境変化に左右されずに本来の性能を発揮できる能力のことだが、浅利氏はシステムが大規模になるほど、時間の経過とともに個別化・現地化する傾向にあると述べた。こうした性質を理解する大企業、特にグループ、グローバルでビジネスを展開する企業においてはすでに、ロバスト性を高めるシステム構造が研究され、共通認識化しているという。
浅利氏は「マスターデータ」「アイデンティティ・アクセス権限」の2つが、さまざまな業務をシステムで処理するための出発点となるデータであるとし、「これをクリーンにし、複数のシステムで統一する」ことが今後の成長の糧になると述べた。
「たとえば、アイデンティティとアクセス制限は、システムのマスターデータに該当します。どこで誰がどんなデータにアクセスしてどんな業務をしているかを管理できていないと、データ連携後にデータの真実性が揺るぎかねないからです」(浅利氏)
構築のアプローチも変革が必要だ。現状分析を精緻に行うことは重要だが、「複雑化し、膨大化しつつある現状を詳細に明らかにすればするほど、未来像への飛躍の足かせになってしまうケースがある」と浅利氏は述べる。必要なのは前例にとらわれず、脱構築するアプローチだ。「予測できない将来、過剰に深追いせず、自らの理想像をコンセプトに落とし込んで推進する『Fit To Own Standard』のアプローチが大事だ」という。
【次ページ】ロバスト性向上にはスクラッチでなくパッケージが有効
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