• 2022/06/09 掲載

LGBTI施策の世界標準「LGBTI企業行動基準」とは? 企業が失敗しないための基本5カ条(3/3)

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世界で賛同企業が広がる一方、日本の賛同企業は5社のみ

 OHCHRは、国連LGBTI企業行動基準を普及させるため、その公表後数年間に渡って、米国、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、セルビア、ブラジルなどさまざまな国で順次ローンチイベントを開催、さまざまな企業との対話を継続し、また賛同企業を募る活動を展開してきました。

 日本では、2018年6月、東京青山の国連大学本部ビルエリザベス・ローズ国際会議場で、アンドリュー・ギルモア国連人権担当事務次長補・OHCHRニューヨーク事務所長を招いて、OHCHRとLGBTとアライのための法律家ネットワークが、国連広報センター後援の下、ローンチイベントを開催しました。ローンチイベントでは、富士通が日本企業として初めて賛同を表明し、賛同の経緯について説明しました。

 2018年当時100社程度であった賛同企業数は現在360社を超えていますが、その内訳は欧米系の金融企業やIT企業、プロフェッショナル・ファームの他、ファッションや化粧品業界など、多くの業種の企業が多数名を連ねています。一方、日本の賛同企業はまだ数少なく、富士通、マルイグループ、野村証券、リクルートホールディングスおよび日本たばこ産業の5社にとどまっています。

 賛同企業数は前述の国連グローバル・コンパクトの1万9654社(注2)女性のエンパワーメント原則の6363社(注2)に比較すればまだ数は及びませんが、グローバル・フォーチュン500企業のうち76社が賛同し、2021年7月にはカナダ政府が賛同を表明するなど、賛同企業・組織は増え続けています。

注2:どちらも2022年4月4日時点

 なお、国連LGBTI企業行動基準は、「4.他の人権侵害を防止する」および「5.社会で行動を起こす」において、サプライヤーなどの取引先への働きかけなどに努めることを求めています。これは企業が事業を行う国の法令・制度を前提としつつ、社員を含むステークホルダーの人権を侵害しないための適切な対応を求めるものであって、法令・制度に違反することを要請するものではありません。

 またそのような国において、賛同することで訴訟リスクやアクティビストの攻撃の対象になるリスクを危惧し慎重になる企業もあるかもしれません。しかし、国連LGBTI企業行動基準の策定にかかわったOHCHRの担当官(当時)の1人Fabrice Houbart氏によれば、訴訟に至った事例はなく、またアクティビストが反応した事例も極めて少数かつ例外的です。

 このようなリスクは、企業が適切な調査を行い、創意工夫を行うことによって十分対応可能であると考えられます。

策定にかかわった担当官が語る成果と課題

 筆者は、国連LGBTI企業行動基準の公表後、賛同企業を募る活動を通してその普及のための努力をしてきたFabrice Houbart氏に、国連LGBTI企業行動基準の課題と成果について話を聞く機会がありました。

 Houbart氏は、「LGBTIに派生する人権問題に着目した国連LGBTI企業行動基準が、OHCHRのウェブサイトに掲載され、国連という組織の人や問題の優先順位に関わらず、今後も消えずに存在し、企業の指針となり続ける意義は非常に大きく、その実現に貢献できたことを誇りに感じる」と力強く語ってくれました。

 他方、「LGBTIに関する人権問題が人身売買や少数民族弾圧などの人権問題と比べると優先順位が下がってしまうこと」、「国連の活動が企業に対する援助になってはならないため国連の活動には限界があること」、ゆえに「LGBTI当事者の人権問題の解決のために真に必要である措置は、国連LGBTI企業行動基準の策定では足りず、LGBTI当事者の人権の真の保護・実現のために国・企業をはじめとする社会の一層の努力が必要である」とも語っていました。

 「国連グローバル・コンパクト」の提唱から20年経過し、また「ビジネスと人権に関する指導原則」の策定から10年経過しました。その間、20カ国以上がその実施のための行動計画を策定する中、日本ではようやく2020年10月に行動計画が策定されました

 日本が策定した行動計画には「法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認など)」が明示的に記載されており、また、今後行っていく具体的な措置として「性的指向・性自認に関する理解・受容の促進」が明記されています。

 日本そして日本企業の取り組みは、OECDの調査報告によっても、他の先進諸国と比較してより一層のキャッチアップが必要となることは明らかです。国連LGBTI企業行動基準、そして多くの企業の対応事例の集積を生かしつつ、日本においてもLGBTI当事者の人権の尊重そしてより一層インクルーシブな企業環境・社会環境の実現に向けて、国内・国外における取り組みが一層進展することを願ってやみません。

〔参考文献〕
UN Free & Equal | Global Business Standards
「Gap Analysis Tool」Partnership for Global LGBTQI Equality
2019.『大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート報告書(単純集計結果)』釜野さおり・石田仁・岩本健良・小山泰代・千年よしみ・平森大規・藤井ひろみ・布施香奈・山内昌和・吉仲崇
「性的指向と性自認の人口学─日本における研究基盤の構築」・「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(代表 釜野さおり)編 国立社会保障・人口問題研究所内

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