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自分の住む街はどこに魅力があるのか――こうしたことに正しく答えられる人はいるだろうか。日本では自分の行動範囲の中でさえ、それを知る人は少ない。一方、筆者が街づくりに携わった米オレゴン州ポートランドは誰に聞いても答えることができる。そんなポートランドは住みやすい街としても環境に優しい街としても世界から注目を集め、実は高輪ゲートウェイ(GW)や柏の葉スマートキャンパスといった日本の都市開発のモデルにもなっている。本稿では、良い街、住みやすい街とは何なのか、そしてどのように形成されていくのか、ポートランドを事例に解説していく。
ポートランドが目指したグリーンシティとは?
街づくりの大切な要素の1つに、住民一人ひとりが「街」への意識を高く持つということが挙げられる。たとえば、ポートランドは自身の街への意識が高く、常に街を気にかけている。
そしてポートランドは、コロナ禍の中でも移住者が増え続けている。「(住まいや、商業施設や交通機関といった生活機能が近接している)コンパクト化」や「スマートシティ」として話題になっているからだけではない。ポートランドが目指したのがそれらに加えて、「グリーンシティ」と呼ばれる「環境先進都市」であったからだ。
ポートランドの場合の「グリーンシティ」とは、ポートランドが輸出戦略を進める際、Weiden+Kennedy(NIKEの広告会社でポートランドに本社がある)が作り出した「We Build Green Cities」というタグラインに乗せた言葉である。先進都市と環境維持の関係を、今までのように反比例ではなく、比例していくことに目的を持つ政策の一環として生まれたものだ。本当の意味での「サステナブル」である。
超有名都市にした「4つの戦略」と日本へのノウハウ輸出
2010年、当時のオバマ政権が、長引くリーマンショック後の不景気から脱出するため、「5年間での輸出倍増計画」を発表した。そして2012年、筆者がポートランドの役所に着任した時に、米国の都市からこの計画を実行する都市を募った。
多くの立候補都市の中から選ばれたのは、GRP(域内総生産)に対する輸出割合の大きい、ロサンゼルス、シラキュース、ミネアポリス、そしてポートランドの4都市だ。それぞれの都市が、5年間でその計画を実行することとなり、筆者はポートランドにおけるプロジェクトチームのメンバーとして働くことになった。
まずポートランドの戦略について数十人のチームでディスカッションを行った。自分たちの強みとなる「産業クラスター」から話が始まり、最終的に次の4つの柱を打ち出した。それが以下である
都市圏最重要輸出元であるインテルと、そのサプライヤー企業の健全な輸出復興へのサポート。
100年前から存在する地場の鉄鋼業の輸出拡大支援。
これまで、国内外の企業誘致に特化してきた都市圏の経済開発専門家による輸出開発に向けたトレーニング(講習、演習など)。
ポートランドの得意分野であるサステナブルな都市デザイン・開発のノウハウの輸出とプランディング。
筆者は4番目の戦略に関する実行計画書(いつまでに、誰が、どの予算で、何をするか)を作成。そして「開発のノウハウの輸出」という任務に当たり、街づくりのコンセプトを売る、という難題を担当した。
また「プランディング『We Build Green Cities』プロジェクト」のリーダーとして、輸出先となる対日本、中国、メキシコ、コロンビアのプロジェクトチームを立ち上げた。まずは自分の国である日本に、そのノウハウの輸出のためのプレゼンテーションを開いた。
【次ページ】かつての日本とポートランドの意外な共通点
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