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- 2022/12/14 掲載
2023年の新常識? Netflixが始めた広告付き動画、日本人が知らない「真の狙い」とは
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
ネットフリックスが挑む「景気後退」期の新機軸
2022年の4~6月期に97万人もの有料会員を喪失したネットフリックス。「もはや急成長期は終わった」とささやかれていたが、7~9月期は『ストレンジャー・シングス4』や『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』といったヒット作品もあり、会員数は100万人増加の予想に対して241万人の伸びと力強い回復を見せた。また、10~12月期にはさらに多い450万人の会員純増を見込む。しかし7~9月期に増えた会員数の内訳を見ると、本拠地の北米ではわずか10万人の増にとどまった。対して成長に勢いのあるアジア太平洋地域が143万人増、欧州中東が57万人増、ラテンアメリカが31万人増など、米国事業が特に弱いことがわかる。
その要因として、米国消費者がインフレや、景気後退への不安からサブスクへの消費を控えている傾向にあることが挙げられる。さらにはライバルの台頭で市場全体の成長が頭打ちとなっており、ネットフリックスとしては抜本的な新機軸が求められる状況だと言えよう。
そうした中、同社経営陣は「広告付きの廉価版ストリーミングの提供を11月3日に開始」「家族や友人間のパスワード共有を困難にする」「クラウドゲーム事業を立ち上げる」「これからは会員数ではなく、有料・無料会員の1人当たりの売上で業績を判断してほしい」と表明して注目された。
成長著しい海外地域も米国のように会員数が伸び悩む将来を念頭に、継続的に売上を伸ばせる策に着手したわけだ。
広告プランの売上は“20兆円”を試算
その中核を担う広告付きプランは、720p(1280×720)のハイビジョン画質(HD)で提供され、コンテンツのダウンロードはできないが、番組内容はベーシックプランとほぼ同一だ。1時間あたり4分間のスキップできない広告が入り、月間サブスク料金は7ドル99セント(日本では税込み790円)と、ベーシックプラン(9ドル99セント)やスタンダードプラン(15ドル49セント)などより割安である。なお、ネットフリックスが他社から購入しているコンテンツに関しては、著作権者のメディア企業と改めて契約を結ぶ必要がある。なぜなら、ライセンス契約上、そのようなコンテンツは「広告なし」の条件で購入されており、新しい広告付きプランは別系統のサービスとみなされるからだ。番組当たりの支払いは、広告なしの配信と比較して10~15%高くなる見込みである。
しかし日本では、NHKや日本テレビといった大手テレビ局が広告付きベーシックプランについて、「十分な説明がなされていない」などと抗議し、不満をあらわにした。NHKに至ってはサービス開始から2週間足らずで、ネットフリックスに配信停止を要求する事態となった。
こうしたトラブルも見られるが、ネットフリックス経営陣は広告付きプランが会員数の伸びの鈍化を補い、会員1人当たりの売上を引き上げられると期待する。また同社の見通しでは、広告付きプランを提供する主要12カ国のテレビ広告の総額が年間1,400億ドル(約19兆3,400億円)になると試算している。
米ニュースサイト「インサイダー」は、こうした新たな施策が、「妥協、あるいはネットフリックスの戦略の核心がうまく機能していない、と認めたと言うよりは、同社にとり不可避な次のステップと見ることができる」と前向きに評している。
【次ページ】広告プランの真の狙いが「メタ・グーグル」のワケ
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