• トップページ
  • 生産・製造
  • 新製品開発
  • カギは「ウェットラボ」との深い関係?モデルナがボストン地区で生まれた必然理由 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第153回)

  • 会員限定
  • 2022/12/16 掲載

カギは「ウェットラボ」との深い関係?モデルナがボストン地区で生まれた必然理由 篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第153回)

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
かつて米国でハイテク産業の2大拠点といえば、ボストン近郊のルート128号線沿道一帯とサンフランシスコ南方に位置するシリコンバレーが両雄として知られていた。両地域とも1980年代に苦境に陥ったが、その後の足取りは明暗を分けた。デジタル化の波に乗って1990年代に復活したシリコンバレーとは対照的に、ルート128はその後も低迷を続けたのだ。転機が訪れたのは2010年代のことだ。新たなデジタル化の進展により、IoT、ロボット、バイオ、環境、エネルギーなど物理的な技術開発を伴う「ウェットラボ」の領域にも可能性が広がった。モデルナ社の成功には、こうした環境変化に親和的な地域特性が影響しているようだ。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

photo
モデルナ社の成功には地域的な特性も寄与している
(写真:著者撮影)

ハイテク産業2大拠点「シリコンバレー」と「ルート128」

 モデルナ社を生んだボストン地区のエコシステムには、どのような特徴があるのだろうか。現地調査から浮かび上がったのは、幅広い産業領域が群生するこの地域には、多種多様なスタートアップの土壌があることだ。

 これは、ネット関連に特化したイノベーションで傑出するシリコンバレー地区との対比で浮かび上がる地域特性でもある。そこには、ボストン地区の地理的、歴史的、文化的背景が影響しているようだ。

画像
図表1:ルート128の地図
(出典:Wikipediaより転載)
photo
図表2:シリコンバレーの地図
(出典:本連載67回より転載)
 Saxenian(1994)によると、もともとハイテク産業の2大拠点といえば、ボストン近郊のルート128号線沿道一帯とサンフランシスコ南方に位置するシリコンバレー地区が両雄として知られていた(図表1、2)。

 ルート128号線とは、ボストンを囲むような郊外の環状道(state highway)だ。他方、シリコンバレーは、サンフランシスコ郊外の渓谷盆地(Valley)に集積した半導体メーカーの代表的な製造素材であるシリコン(Silicon)に由来する呼称だ。

 この2つの産業拠点は「大学の研究と戦後の積極的な軍事支出に支えられてスタートしたという共通点」があり、「活発な技術開発と起業家精神で桁はずれの経済成長」を続けた(Saxenian [1994])。

 そのため、20世紀後半の「エレクトロニクス革命で世界のトップを走る地域として国際的な脚光」を浴びていたのだ。

1990年代に明暗が分かれた両者

 1960年代から1970年代にかけて、ハイテク産業で隆盛を誇ったシリコンバレーとルート128だが、1980年代に入ると、世界を揺るがした2度のオイルショックで米国経済がスタグフレーションに襲われて、ともに苦境に陥った。

 シリコンバレーの半導体メーカーは、ジャパン・アズ・ナンバーワンの勢いに乗る日本企業との競争に敗れ、片やルート128の隆盛をけん引したコンピューター企業は、新しく登場したPCにシェアを奪われて、それぞれ斜陽化したのだ。

 ところが、その後、シリコンバレーとルート128の足取りは明暗を分けることになった。ルート128が停滞を続ける中で、シリコンバレーは1990年代に復活し、ニュー・エコノミーの波に乗って、今日につながる発展の階段を一気に駆け上がった。

 この違いは一体どこから生まれたのだろうか?Saxenian(1994)は、シリコンバレーもルート128も、出発点と技術は似通っているが、その歩みの中で根本的に異質の産業システムを築いてきたからだと分析している。

東部の保守的な気質が災いし没落の危機に

 当時の分析によると、開放的な気質のシリコンバレーでは、対等な関係による自律分散型の産業システムが形成され、技術を相互に公開するオープン・イノベーションが惹起された。こうした環境の中で、インターネットとPCに象徴されるIT革命の波に乗り、見事な復活を遂げたわけだ。

 一方、ルート128には、東部エスタブリッシュを象徴するような保守的で堅実な大企業が多く、技術の自前主義的な抱え込みと、強い政治力に頼ったワシントンへの傾斜が進み、次第に活力を失い衰退の道をたどったという。

 1990年代のシリコンバレーとルート128の明暗は、まるで日米経済の明暗とうり二つだが、その後の展開は異なる。日本は、今日まで続く「失われた30年」を余儀なくされているのに対して、ボストン地区は、mRNAワクチンで世界の脚光を浴びるモデルナ社のようなスタートアップ企業の躍動が随所でみられるのだ。

【次ページ】ルート128の強み「ウェットラボ」とは何か

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます