- 2024/03/12 掲載
DevOpsツール・DevOpsプラットフォームとは何か? GitHubら市場リーダー3社+11社比較
DevOpsとは何か? 始まりはアマゾン
DevOpsとは、Development(開発)とOperations(運用)を組み合わせた言葉で、ソフトウェアの開発と運用における壁を取り払い、開発・運用サイクルを加速しようというコンセプトだ。
かつてソフトウェアの開発と運用は、それぞれの部門が担うことが多かったが、開発・運用においてさまざまな問題が発生。その問題を解決する手段の1つとして、このDevOpsが提唱されはじめた。
DevOpsという言葉が登場する前から、それを実践し、巨大テック企業となったのがアマゾンだ。アマゾンはEコマース事業から始まった企業だが、2006年にクラウドサービスAWS事業に乗り出したことで、テクノロジー企業としての基盤を構築することになる。
当時の一般的な企業では、IT開発とIT運用は別々の部署が担当。この縦割りの構造がソフトウェア開発・運用には適しておらず、多くの問題を招いた。
たとえば、ソフトウェア開発・運用では、開発環境で開発したものを、本番環境に移行して運用することが一般的だが、開発環境と本番環境は条件が異なる場合が多く、開発環境で機能していたソフトウェアであっても本番環境ではエラーになることが多々ある。この場合、開発環境と本番環境の違いを各部門が把握することが求められるが、各部門のリーダーシップ、カルチャー、目的などの相違から、情報が共有されない場合が多く、修正の遅れなどの要因になっていた。
アマゾンではジェフ・ベゾス氏のリーダーシップのもとAWSのプラットフォーム開発初期段階で、この問題に対応するいくつかの施策が徹底された。
このことは元アマゾンのエンジニアでグーグルに転職したスティーブ・イエッグ氏が誤って公開した社内メモによって明らかになった。イエッグ氏は当時、グーグルのプラットフォーム開発がうまくいっていない理由とアマゾンがプラットフォーム開発をうまく進めたことを社内メモとしてまとめていたが、誤って公開してしまったとされる。
イエッグ氏によると、AWSプラットフォームの開発の初期段階では、以下のルールが徹底されていたという。
- すべてのチームは、取り扱うデータと機能を(社内の)サービスインターフェースに公開すること
- チーム同士のコミュニケーションは、サービスインターフェースを介して行うこと
- それ以外の手段によるコミュニケーションは許可されない
- 以上のルールに従わないものは解雇される
市場は20%で急成長、生成AIなども競争激化を後押し
こうしたルールを具現化するのがDevOpsツールであり、DevOpsプラットフォームである。DevOps関連のツール・プラットフォームにはいくつかのカテゴリがあるがその主な機能は以下のとおり。
- バージョン管理:ソースコードのバージョン管理を行う
- 継続的インテグレーション(CI)/継続的デリバリー(CD):ソースコードのビルドやテストを自動実行する
- 構成管理:ITインフラの構成を管理する
- オブザーバビリティ・APM:サーバの障害やアプリケーション性能監視を行う
DevOpsツール・DevOpsプラットフォームを掲げる製品の多くはバージョン管理出自のものが多いが、複合的に製品を組み合わせて提供しているベンダーも存在している。現在はこうしたDevOpsツール・プラットフォームベンダーが巨大な「DevOps市場」をつくりあげている。
Markets and Marketsの調査(2023年3月)によると、DevOps市場は2023年に100億ドルを突破し、104億ドルに達したという。今後も20%ほどの成長率を維持し、2028年には255億ドルに拡大する見込みだ。またMarket.usも2023年のDevOps市場規模を93億ドルとしつつ、今後20%以上で成長し、2032年には573億ドルに達すると強気予想を展開している。
ガートナーの調査によると、すでに2023年6月時点で25%の企業がDevOps関連のツール・プラットフォームを利用しており、2027年までにはその割合は75%にまで達するといわれている。
10億ドルの主要プレイヤーGitHub、生成AI統合で機能拡大
DevOpsツール・DevOpsプラットフォームの主要プレイヤーの1つがGitHubだ。GitHubは、オープンソースのバージョン管理システムであるGitのリポジトリをホストするプラットフォーム。個人・法人に限らず、世界中の開発者が利用しており、2023年1月には2年前倒しで目標とする1億人ユーザーに達したことが発表された。2018年にはマイクロソフトが75億ドルで買収しており、現在はマイクロソフトの完全子会社でもある。
2022年10月の報道によると、この時点でGitHubのユーザー数は9000万人となり、年間経常収益(ARR)は10億ドルに達したという。
GitHubの具体的な使い方としては、たとえばローカル環境であればオープンソースのバージョン管理システムであるGitをローカルにインストールし、オンラインでGitHubと通信することで、GitHubの専用スペースにコードを格納することができる。マイクロソフトが提供するVisual Studioなどの統合開発環境(IDE)では、Gitがデフォルトでインストールされている場合も多く、IDE経由でGitHubにアクセスすることも可能だ。
コードをクラウド上に保存するという点では、他のクラウドストレージサービスと同じといえるが、バージョン管理を行う上で必要となる機能を多数備えており、ソフトウェア開発では不可欠な存在となっている。
仮に一般的なクラウドストレージサービスを使って、複数の開発者によってプロジェクトを進めた場合、ファイルは常に最新にアップデートされるものの、誰が、いつ、どのようなアップデートを行ったのかという情報を知ることは難しく、もし最新ファイルにバグが見つかっても、おそらく対応はできないだろう。
これに対して、バージョン管理機能を活用することで、誰が、いつ、どのようなアップデートを行ったのかを逐次トラッキングすることが可能となり、バグやエラーが生じても迅速に対応できるようになる。また必要に応じて、以前のバージョンに戻すこともできるため、開発プロセスをより確実に進めることが可能だ。
このGitHubでは現在、生成AIテクノロジーを活用したCopilot機能を提供しており、その成果が数字となってあらわれている。
GitHubが2023年6月末に発表した調査レポートによると、同プラットフォームのユーザー93万4533人を対象にCopilot機能の利用状況を分析したところ、これまでにGitHub Copilotをアクティベートした開発者の数は100万人を超え、2万以上の組織で採用されていることが判明。同機能が生成したコードのうち、開発者が受け入れた数は30億行に上るという。
また2030年には世界のプロ開発者数が4500万人に達する見込みで、Copilotのコード生成機能で30%の生産性改善が実現すれば、その経済効果は1兆5,000億ドル以上になるだろうと予想している。
一方、GitHubの注意点は、いい意味でも悪い意味でもマイクロソフトという親会社がいることだ。マイクロソフトはAzure DevOpsという別のDevOps製品も提供しており、2つは独立した別製品ながら、その機能の多くは重複している。そのため、製品選定時の混乱を招くこともある。
主要プレイヤー、GitLabとAtlassian(アトラシアン)ら10社超
GitHubの主要競合と言えるのが、GitLabとAtlassian(アトラシアン)だ。GitLabもGitベースの開発支援プラットフォームであり、多くの点でGitHubと似ているが、相違点も少なくない。
GitHubがコードのホスティングやコラボレーションに焦点を当てている一方、GitLabはワンストップのプラットフォームを謳い、ホスティングに加えプロジェクト管理、セキュリティ/コンプライアンス関連の機能、またCI/CD関連の機能を統合している。GitHubと異なり、使いたい人だけが選択する方式となっている。
この中で強みとしているのがセキュリティ機能で、自社製品を「DevSecOps」プラットフォームであると強調している。継続的依存関係スキャンとコンテナスキャン機能、ソフトウェア開発全体での脆弱性の可視化(脆弱性レポート)、包括的なポリシーの一元管理など、ソフトウェアサプライチェーンのセキュリティ機能を拡張してきた。
GitLab DuoというAI活用も掲げており、さまざまな場面での生産性の向上を進めている。
一方で課題はGitLab Wikiのコラボレーション機能のサポート不足、ライセンスの柔軟性の欠如などが挙げられる。
2023年3月に発表されたGitLabの決算書によると、2023年会計年度における通年での売上は4億2,343万ドルで前年比68%増を記録。また2023年第4四半期の売上も1億2,290万ドルと前年同期比で58%増の好調な結果となった。
Atlassian(アトラシアン)はオーストラリア発のテック企業で、バージョン管理ツールのBitbucket、コラボレーションツールのConfluenceやTrello、プロジェクト管理ツールのJira Software、ITサービスマネジメント管理のJira Service Management、CI/CDツールのBamboo、インシデント対応ツールのOpsgenieといった製品群を抱えている。
オープンソースコミュニティで人気を博すGitHubとは異なるユーザー層がターゲットとなる。各種製品群が連携しており、DevOpsチームはコード/プロジェクトの計画、追跡、コラボレーション、ビルド、テスト、デプロイメントといった一連の開発サイクルをスムーズに管理できるようになる。
一方で課題は各アプリケーションのセキュリティのサポートだ。ソフトウェアのセキュリティテストやサプライチェーンを担保するには外部のパートナーが必要になる。
そのほか、CircleCI、JFrog、CloudBees、Red Hat、VMware、Hamess、JetBrains、AWS、GCP、Bitrise、Codefreshなどのプレイヤーがひしめいている。オープンソースソフトウェアでは、Gitはもちろん、Subversion、Mercurialなども存在感を持っている。
DevOpsの世界では、GitHubのように生成AIを活用する取り組みが拡大しつつあるが、セキュリティのアプローチを開発の初期段階に組み込み、開発と運用を統合したように、開発・運用とセキュリティの壁を取り払おうとする「DevSecOps」と呼ばれる新たな動きも生じている。IriusRiskなどのDevSecOps関連ツールが続々登場しており、今後注目度が高まってくるものと思われる。
一部内容に誤りがありました。本文は修正済みです。ご迷惑をおかけした読者ならびに関係者にお詫び申し上げます。
誤:プロジェクト管理ツールのJira Software・Jira Service Management、
正:プロジェクト管理ツールのJira Software、ITサービスマネジメント管理のJira Service Management、
誤:BitbucketはGitのほか、Mercurialバージョン管理システムに対応しており、主にプライベート開発を進めたい企業向けに提供されている。
正:削除
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