- 2025/06/08 掲載
その仕事、全部ムダかもしれない…「偽仕事」はどうすれば取り除けるのか(2/3)
「自分は完璧でない」という事実と折り合いをつける
地に足をつけるとは、本来やるべきことに取り組むことである。デンマークの普通の教育機関で働くのは華々しいとはいえないが、社会で重要な役割を果たしていることに変わりはない。等身大にとらえよう。地に足をつけていると、自分のミスも認めやすくなる。確認せずにテキストメッセージを送るといったずさんなミスのことではなく、自分は完璧でないという事実と折り合いをつけられるということだ。自分は完璧だとか、世界のリーダーだとか思っていなければ、不完全であることを受け入れ、世界を変えられないことを認めやすくなる。一分の隙もない確実さを約束するのはやめよう。何事も0%か100%で考えないこと。
また、うまくいっていることに無頓着に手を加えたり、わずかに改良をほどこしたりする誘惑に抗う必要もある。壊れていないのなら直す必要はない。妥協しない、期待を超える、世界一の製品をつくる、といった会社側の大げさなナンセンスは無視すること。常に完璧を目指すと、お金の面でも人の面でも最大のコストで最小の効果しか得られない。それが忘れられている。
組織は、そこそこのもので満足することを学ばなければならない。文書、マーケティング戦略、年次報告書、コア・ナラティブをさらに洗練させたり、2年ごとにロゴの色を変えたりする必要はない。今のままでじゅうぶんだ。
会社がどれだけうぬぼれていても、そんな小細工をしたところで才能も顧客も投資家も惹きつけられない。ふくれあがった会社のエゴに迎合し続けるために、社内のツールや対外的な広報資料の完成度を高めようとするのは無意味だ。それを上司に伝えよう。
地に足をつけることは、自分自身の世界観を軌道修正することでもある。多くの人が、自分は世の中に欠かせない人間であると同時に価値のない人間だと思っている。心理学の視点からすると、後者から前者につながることは理解できるし、自分がいなければと週7日一日24時間対応しようとがんばるのもわかる。だが、実際にはあなたはそこまで重要ではなく、ほかと替えがきく人間だ。だからといって無意味なわけではない。
休暇中はメールの自動返信を設定しておき、届いたメールは8月終わりに仕事に戻ったらすべて削除すると伝えておくこと。重要であれば9月に再度連絡してもらう。そうすれば仕事がシンプルになり、情報過多を防ぐことができる。
連絡してきた人の中には、別の対処法を見つける人もいるだろう。残念だが仕方ない。だが、あらためて連絡をくれる人もいるはずだ。軌道修正した世界観にもとづき、複雑さを減らして時間と意味を取り戻す方策を考えよう。
本来の仕事を妨げる上司の命令には「ノー」と言う勇気
哲学者のイマヌエル・カントは、啓蒙とはみずから招いた未成年の状態から抜け出ることだと定義した。人間は愚かだと言っているのではなく──むしろその反対だ──、自分で考えるのを避けるためにドグマに従う傾向があると言っているのである。こうしたドグマに常識で立ち向かわなければならない。カントは「知る勇気を持て(サペーレ・アウデ)」という言葉を生み、これは哲学で最もよく引用される原則の1つとなった。
カントは職場での市民的不服従を呼びかけていたわけではないが、上司からの命令を批判できる公共空間が必要だと思っていた。この公共空間は現在、偽仕事のさまざまな根拠と深く絡み合っている──説明責任、測定、合理化、ブランディング戦略、コミュニケーション過多、成長イデオロギー。そのため、仕事の本質について議論するだけではもはや不十分だ。経営陣に何かを指示され、本来の仕事を続けられなくなるようなら、指示に背くのがあなたの義務である。
たとえばこんな状況を想像してほしい。あなたは長年、地方自治体の中間管理職を務めてきた。突然、議会が全職員の技能研修を提案してくる。デンマークの地方自治体ではよくある話だ。「体系的(システミック)マネジメント」「全体的(ホリスティック)マネジメント」「(ほかの無意味な形容詞がついた)マネジメント」の資格取得コースを受講しろというが、常識で考えれば、資格の数が増えたところで何も変わらない。
こういう提案にはノーと言おう。その代わりに自分の仕事をすること。立派な学位を持ち、議会を運営しているうぬぼれた人たちはわかっていない──マネジメントの研修が、自分たちが考える問題への答えだと思っている。だが、あなたは本当の問題を知っていて、対処が必要なことも知っている。研修にさらなる時間とお金を使うのは、本当の問題から目をそらすだけだ。
あなたの部署は新しいITプラットフォームを使うように指示されていて、そのせいで仕事が妨げられているかもしれない。Officeでじゅうぶんなら、それを使おう。市民的不服従とは、仕事をハックして組織を組織自身から救うことでもある。 【次ページ】「偽仕事」とわかっているのに、気づかなくなっている?
業務効率化のおすすめコンテンツ
業務効率化の関連コンテンツ
PR
PR
PR