- 2025/08/24 掲載
村上春樹さんも応用「あえてキリの悪いところで止める」と作業がはかどる現象の正体(2/3)
たった「ひと言」で成績が17~22%もアップ
■ 嫌な体験をポジティブにとらえ直すと成績が上がる自分の感情についての解釈を変えることで、マイナス感情を軽減する「リアプレイザル(Reappraisal)」という方法があります。
リアプレイザルは、英語で書くとre=再度、appraisal=評価。今感じている感情を再評価し、新たな意味づけをする「認知的再評価」を意味します。実際に、リアプレイザルは現代のスポーツサイエンス界でも注目されており、アスリートの不安・緊張対策に有効であるとされているほどです。
リアプレイザルは、嫌な体験をポジティブにとらえ直すことで、情動、特にネガティブな感情(恐怖、不安、悲しみ、怒りなど)の処理と記憶において重要な役割を果たす扁桃体の活動が低下することも示唆されています。
ハーバード大学のブルックスは、300人の被験者を対象に、「採点つきカラオケ」「2分以上の人前でのスピーチ」「数学のテスト」といったテストをするという実験を行っています。
その際、次の1~5を声に出してからテストをするグループに分けたそうです。
- 「私は不安だ」
- 「私はワクワクしている」
- 「私は落ち着いている」
- 「私は怒っている」
- 「私は悲しい」
すると、2. の「私はワクワクしている」と声に出したグループは、カラオケでは正確性が上がり、スピーチでは説得力や能力、自信、持続性などの評価が上がり、数学のテストでは一番の好成績を残したといいます。自分のストレス反応(緊張)を、楽しくなってきたとポジティブに解釈したことで、17~22%ほど成績がよくなることも判明しました。
■ 解釈を変えれば脳がいいように体を調整してくれる
私たちの脳は、普段頭がい骨の中に閉じ込められており、自分の外の世界を直接「見る」「聞く」「さわる」ことはできません。そのため、脳は体から送られてくるさまざまな信号(心拍や筋肉の緊張、呼吸の速さなど)を頼りに、「今、自分はどんな状態なのか?」を判断しています。そして、その判断に応じて、体が最適な状態になるように指令を出してくれます。
リアプレイザルは、この脳の特性を利用したテクニックです。
つまり、脳が体の状態を“どう解釈するか”を意図的に変えるのです。上の例で行くと、人前に出る直前に心臓がドキドキして手が震えているとき、それを脳が「不安」と解釈してしまうと、体は「身かまえる」モードになり、緊張で本来の力を発揮できなくなってしまいます。
しかし、「私はワクワクしている」と解釈を変えることで、脳は「興奮してエネルギーが満ちている状態」と認識し、体を効率よく動かせるように調整してくれるのです。
脳の記憶を書き直すとパフォーマンスがアップする
村上春樹さんが「アイデアを広げる」ために応用する現象
■ あえて未完にすることで作業がはかどるロシア社会主義共和国保健省精神医学研究所のブリューマ・ツァイガルニクによって提唱された、「未完の出来事のほうが記憶に残りやすい」という「ツァイガルニク効果」と呼ばれる現象があります。
ツァイガルニクが行った実験では、被験者たちにパズルや計算問題、箱の組み立てや泥人形の作製といった複数の作業を、次の2つのグループに分けて行わせました。
- それぞれの作業を最後まで完了してから
次の作業へと移行することを繰り返したグループ - それぞれの作業を途中で中断してから
次の作業へ移行することを繰り返したグループ
そして、すべての作業が終わったタイミングで、被験者たちに「今やった作業にはどのようなものがあったか」と質問しました。すると、グループ2のほうが1よりも2倍ほど行った作業について記憶していたのです。
作家の村上春樹さんは、1日5時間なら5時間という執筆の時間を決めており、その時間が来たらどんなに書きたいことがあっても打ち切って、次の日に回すそうです。そうすることで、次の日またアイデアが広がっていくのだと話されています。
あえてキリの悪いところで止めることで、気になっていろいろ考えることにつながり、アイデアが広がっていくというわけです。「ツァイガルニク効果」の面白い応用方法ではないでしょうか。
■ やる気はどんな形であれ「はじめる」ことで生み出される
実際、やる気を生み出すには、どんな形であれ「はじめる」ことが大切です。キリが悪いところで止めておけば、次回、その続きをするときにはじめやすくなるという利点があります。
0から1にすることが難しいのであれば、0.2でも0.3でもいいので、リスタートしやすい状態にしておく。そのためにも、あえてキリが悪いところで止めるというテクニックを使ってみてはいかがでしょうか。
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