• 2025/12/19 掲載

売上2兆円企業で中堅が次々退職…人事担当役員が決断した「年功序列からの脱却」全貌(2/2)

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「スキル型」人事制度への移行が決定、次に考えるべきことは

 L氏は人事企画チームが検討した結果を整理して経営会議にかけ、Z社が今後どの制度を目指すべきかを議論してもらうことにした。その際に留意したのは、「組織は戦略に従う」という米国の経営学者アルフレッド・チャンドラーの言葉である。L氏は、Z社の戦略方針である「環境変化を新規事業機会として捉えて進化する」を考慮すると、思考ツールの学習する組織を実現できる人事制度が最適であろう、という意見を付言した。経営会議で議論した結果、「Z社の戦略方針に基づき、マルチスペシャリストを育成するスキル型を今後の人事制度にする」ことが決まった。

 そこでL氏は、現在のメンバーシップ型からスキル型に人事制度を移行するにあたり、検討する項目を次のように洗い出した。

  1. Z社の管理職、社員が保有すべきスキル体系、スキル項目と評価基準を定義する
  2. 各スキル項目の評価プロセスを構築する
  3. スキル評価結果と昇給、昇進、配置転換、育成方針との関係を整理する
  4. スキル評価結果から制度の修正、運営上の工夫、研修プログラムの改定を行う

直属上司や役員…さまざまな立場を考慮したZ社の検討内容

 人事企画チームがこれらの項目の検討を進めるにあたり留意した点は、1次評価をする直属上司、2次評価をする上司、評価される本人、1次評価結果の基準合わせをする人事担当者、評価結果を用いた人事考課をする本部長や役員といったさまざまな立場を考慮した多角的な視点を持つことであった。

 たとえば、営業や財務などで特定の能力やスキルを身に付けていることは、本人や現場を預かる直属の上司にとって重要度が高いが、会社全体で人材の最適化を考える人事担当者にとっては、それ以外にも将来を見据えたリーダーシップや、他の部署に異動した場合にも通用するビジネスの基本スキル、あるいは仕事への情熱や性格なども評価項目として必要になる。したがって、何を評価するかという項目の設定や、どのような観点で評価するかなどについて詳しく検討する必要がある。

 次に、Z社の検討内容を解説する。

1.スキル体系、スキル項目と評価基準を定義する
 チームは、いろいろな文献や人事セミナーなどで知り合った他社の人事部の人たちと情報交換する中で、図表3のようなスキル体系をまとめた。スキル体系は大きく分けて、「職種固有の知見」「すべての職種に共通して必要なスキル」「知見・スキルの前提となる人間力」がある。

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図表3:スキル体系
(出所:ボストン コンサルティング グループ)

 職種固有の知見は、職種に特化した専門スキルで、知識、経験、素養、実体験で習得する。共通スキルには、管理職に必要な「マネジメントスキル」、どの職群・職種にも必要な「コアスキル」、高い成果につながる「コンピテンシー(行動特性)」がある。スキル型人事制度において特に重要なスキルがコアスキルで、どの職種にも活用できるという意味でポータブルスキルと呼ばれる。最後に人間力は、価値観、情熱、性格から構成される。

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図表4:コアスキル・コンピテンシーの測定項目
(出所:ボストン コンサルティング グループ)
 重要なコアスキルとコンピテンシーの詳細な項目と定義が図表4である。コアスキルは「上司/同僚からの修正指示・フィードバックがあってもほとんどスキルを発揮することができない」状態のレベル1から、「社内屈指のレベルでスキルを発揮することができ、そのスキルの習得方法を社内屈指の上手さで教えることができる」レベル5まで、5段階で評価した。

 また、コンピテンシーは3段階で評価し、レベル1が社内の同じ役職の人材と比較して低い、レベル2が社内の同じ役職の人材と比較して同程度、レベル3が社内の同じ役職の人材と比較して高いと定義した。

 一方、マネジメントスキルの項目は図表5、6のように定義し、3段階で評価する。評価対象は「現在」自身がマネジメントする組織においてどの程度スキルを発揮できるかであって、「過去」の組織でのスキル発揮の程度は考慮しないことが肝要である。レベル1は十分にスキルを発揮できない/わからない、レベル2はおおむねスキルを発揮することができる、レベル3は常にスキルを発揮することができる、と定義した。

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図表5:マネジメントスキルの構成要素(1/2)
(出所:ボストン コンサルティング グループ)
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図表6:マネジメントスキルの構成要素(2/2)
(出所:ボストン コンサルティング グループ)

 職種固有の知見および人間力については、Z社がこれまで運用してきた知見を整理することでスキル項目の定義と評価基準の定義ができた。

2.各スキル項目の評価プロセスを構築する
 評価プロセスは、事業活動に大きな影響を与えないように基本の流れは変えず、スキル型に移行するに伴って必要な箇所のみを修正する方針とした。

 Z社では、通常、上司による人事考課は9~10月に行うため、直属上司による各スキルの1次評価は、その少し前の7~8月に行うこととした。その後、2次評価および全社調整を9月に行うこととした。また、本人へのフィードバックは、これまで通り年内に終えることとした。

 評価する上司にとって大きな追加作業は、各スキル項目を評価できるように日頃から観察をしておくことである。具体的には、良いパフォーマンスを発揮したとき、改善すべき点が見られたときに、そのタイミングでスマホで自身にメールするなどこまめに記録する。この段階では、その行動がどの行動要件に該当するかの仕分けはせず、年に1回のフィードバック面談前に評価を書くタイミングで書きためたメモを見返し、どの行動がどの行動要件に該当するかを仕分ける。

3.スキル評価結果と昇給、昇進、配置転換、育成方針との関係を整理する
 スキル評価結果は、中期的には、昇給、昇進、配置転換、育成方針などの人事考課に用いることを目指すが、導入後の1年間は、評価する側のプロセスや評価基準がぶれやすいこと、評価される側の心の準備や納得度が不十分であることを考慮して移行期間と設定し、従来のメンバーシップ型人事制度と並走することとした。この1年間の移行期間中に、評価結果をどのように昇給、昇進、配置転換、育成方針に活用するかという検討を行い、2年目からの本格導入に向けて準備を整えた。

4.スキル評価結果から制度の修正、運営上の工夫、研修プログラムの改定を行う
 移行期間中に、評価結果を本人にフィードバックしてみて、評価された側からどのような疑問や意見が出るかをアンケート調査した。同様に、1次評価者、2次評価者、1次評価結果の基準合わせをする人事担当者、評価結果を用いた人事考課をする本部長や役員にも1年目のプロセスが終わったときにアンケート調査を行い、これらの結果を本格導入に向けた改善点とした。

 また、移行期間中に行ったスキル評価結果を用いて、現行の研修プログラムで強化すべき点、必要性が低い点を洗い出し、その改定を行った。

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