• 2026/05/28 掲載

売上5億円で急停止…誰も教えてくれない「拡大の谷」のコワすぎる構造と乗り越え方(2/3)

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美容メーカーには売れたのに、飲食店には刺さらない理由

 2つ目は「顧客群の変化」についてです。

 前述の通り、顧客の検討フェーズが異なることによって顧客のニーズや関心が異なっていきます。

 また、初期の売上増は特定業界・顧客層への強いPMFによって支えられていますが、拡張期にはその外側の顧客を相手にすることになります。

 このとき、顧客のコンテキスト(前提情報)やサービスの評価軸が微妙に異なり、同じ訴求では刺さらなくなっていきます。

 結果として「幅広く売れているようで、実際は一部の顧客層に偏っている」という構造が顕在化するのです。

 自社の事業を誰にでも広く価値が届くホリゾンタル向けサービスとして理解したまま、曖昧なターゲット選定で進めると事業は成長していきません。

 また、逆に本当に幅広く展開できる場合でも、顧客像が多様すぎることによりメッセージがぼやけ、営業現場での勝率が安定しないことがあります。

 どちらのパターンであっても、「Who/Whatの組み合わせを再定義しない限り、次の成長カーブは描けない」のです。

 少し具体的な例で考えてみましょう。

 たとえば、マーケティング領域で「LINEの運用ツール」を提供している事業者を想定します。この企業の初期顧客は、美容系メーカーが中心でした。インバウンドの問い合わせは他業種の顧客もいましたが、全体の7割は美容関連企業が占めていました。

 ただ、事業を拡大するためにアウトバウンド(テレアポ)を開始し、営業アクセルを踏んだところ、獲得できたアポイントの多くは美容業界ではなく、飲食店やフィットネスジムといった店舗ビジネスの企業でした。また、アポイント数は増えたものの、営業活動の受注率は思うように上がりません。

 なぜでしょうか。初期の美容系メーカーの顧客は、すでにLINEの活用によって一定の効果を実感しており、「業務の省力化」や「運用の手間削減」が明確な課題でした。そのため、「機能性の高いツールです」という説明だけでも導入の判断が進んでいったのです。

 一方で、飲食店やフィットネスといった店舗ビジネスの顧客は、LINEを活用することでどのような成果が出るのかをまだイメージできていませんでした。彼らにとっては「省力化」よりも「売上をどう増やせるのか」が関心事なのです。機能の紹介だけでは響かず、実際に売上拡大につながるシナリオや事例を示さなければ受注には至らなかったのです。

 同じプロダクトであっても、顧客層が変われば価値の伝え方や訴求の焦点はまったく変わります。どのような成果を約束するのか、どんな課題に効くのかを再定義しなければ、営業の成功パターンは再現できません。

 この例は、ターゲットの変化に合わせて「価値の翻訳」をやり直す重要性をよく示しています。

創業者やエース営業の“個人技”が、売上10億円の壁になる

 そして3つ目は、「属人性による壁」です。

 初期のARRを牽引するのは、創業者やエース営業の個人技を主としながら、最低限の型化を行った上で一部の営業メンバーが支えていることです。

 相手に合わせた資料、巧みなトークで受注を引き寄せる……。しかし、人数が増えると再現が難しく、新しい営業は勝ち筋をつかめず成果が安定しません。

 営業資料やトークが個々にカスタマイズされ、ナレッジは共有されにくい……、結果、「個人では売れるが組織としては伸びにくい」といった状態に陥ります。

 同様に、CS部門でも属人化が進みます。

 オンボーディング(導入初期のサポート)は担当者任せで、活用の深まりやアップセル(より単価の高い契約へと移行させる)の成否は個人の力量に左右されます。

 そうすると、ヘルススコア(顧客の継続利用の数値)などのモニタリング指標は形骸化し、解約は顧客からの打診で判明する形になり、兆候を事前につかめない状態に陥るのです。

 その結果、数字は伸びていても純増が鈍り、経営陣に不安が広がります。10億円を目指す段階では、「顧客がサクセスしている状態」を定義し、そこへ導くプロセスを仕組み化することが求められるのです。

 このように、「日本市場の特性」「顧客群の変化」「属人性による壁」といった3つ要素が絡み合うことで、企業は「拡大の谷」に差しかかります。

 初期の成功体験を引きずりながら、顧客の変化と組織の成長速度にズレが生まれる……。この谷を越えるには、勝ち筋を再定義し、再現可能な仕組みに昇華させることが鍵となります。 【次ページ】売上10億円へ進む企業・停滞する企業を分ける3つの分岐点
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