- 2026/06/05 掲載
カルビー・LIXILが悲鳴…ナフサ不足は「騒ぎすぎ」なのか、裏に潜む“構造的問題”(2/3)
在庫アリでも「現場が止まる」知られざる理由
第一に、統計自体の問題だ。「4カ月分の在庫」には、固体の樹脂ペレット(ポリエチレンなど)が含まれている。統計上は石油化学原料の在庫として計上できる。しかし一度固体になったペレットを、塗装業者が今日の仕事で使うシンナーや溶剤に逆変換することは、化学的に不可能だ。
ナフサ自体も揮発性が高く、タンクに長期貯蔵できない。精製したらすぐに次の製品へと加工して届けなければならない性質の物だ。政府が言う「確保できている」の中身は、現場が必要とする「液体の現物」とは根本から別物である。
神戸国際大学の中村智彦教授がいくつかのメディアで指摘しているように、ナフサは備蓄という概念が本質的に馴染まない原料だ。川上の原油が確保できても、川下のシンナーや溶剤の現物が足りなければ、塗装業者の仕事は止まる。集計された数字の合計が、現場の現実を映していない。ペレットを数えた統計と、液体が欲しい現場の間には、「化学反応」では埋まらない溝がある。
物流にも落とし穴がある。中東からのタンカーなら約20日で届くところを、米国からパナマ運河経由では約35日を要し、積載量も制限される。「確保できた」という話と「現場に届く」という話は、まったく別の話だ。輸送コストの急騰は、やがて製品価格への転嫁として現場を直撃する。届くまでの時間とコストの問題は、報道が作り出したものではない。ホルムズ海峡を通れない以上、代替ルートは必ず時間とコストの増大を伴う。メディアが口を閉じても、タンカーの航路は変わらない。
つまり、ナフサ騒動は、決してメディアが作り出した不安ではないということが言える。
カルビーやLIXILが「悲鳴を上げる」ことの重さとは
第二に、現場の記録は匿名でも推測でもない。LIXILは8月3日以降の受注分から、トイレや浴室を平均13%値上げすると発表した。企業はメディアの雰囲気で値上げを決めているわけではない。材料コストが上がったからだ。梱包緩衝材大手の川上産業は、6月から10~20%の値上げを予定しながら、駆け込み需要に対応するため社員が休日を返上して通常の1.5倍の生産を強いられている。
報道を止めても、休日返上の現場はなくならない。カルビーはポテトチップスの袋を白黒にすると発表した。インク溶剤を節約するためだ。カゴメはケチャップのパッケージからトマトのイラストを削り、日清製粉ウェルナはゆで時間の表記を廃止した。
住宅業界では3月19日からシンナー・溶剤が、4月1日から異形棒鋼が、6月以降は鋼板と建築用塗料と、資材の供給制限が段階的に連鎖している。広告効果のためにパッケージを白黒にする企業はない。費用を切り詰めるためだ。
首都圏の建設アクション実行委員会は5月、経済産業省など5省庁に直接要請行動を行った。「資材は手に入るが量が足りない」「指定工期内に調達できない」という声は、匿名のSNS投稿ではなく、実名の事業者が省庁に届けた悲鳴だ。 【次ページ】実は「前にもあった」この構図
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