• 2026/06/27 掲載

「何も感じない…」必死で働いた末、心が空っぽになった内科医が立ち止まった“問い”

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人手不足や責任の重さが増す日本の職場では、「頑張れる人」ほど危ないのかもしれない──。弱音を吐かず、正しいことを続け、周囲の期待に応える。その先に待っていたのが、心が空っぽになる感覚だったらどうだろうか。コーチングのエキスパート・五十嵐久氏が、40代内科医が立ち止まった“あの問い”を通じて、「分かったつもり」で終わらせないための考え方を解説する。
執筆:日本エグゼクティブコーチ協会名誉会長 五十嵐 久

日本エグゼクティブコーチ協会名誉会長 五十嵐 久

コーチビジネス研究所代表取締役
JEA認定シニアエグゼクティブコーチ
国際コーチング連盟(ICF)認定マスターコーチ(MCC)
新潟県出身。公的な中小企業支援機関での実務経験を経て、2003年より中小企業診断士およびエグゼクティブコーチとして活動を開始。コーチング実績5000人、セッション実績は1万時間を超えるエキスパート。経営者・リーダーの意思決定と人間的成熟に深く関わる実践を重ね、現場経験を通じて得た「問い」と知見を、研究・教育として社会に開くため、2014年にコーチビジネス研究所(CBL)を設立。日本エグゼクティブコーチ協会の会長を務め、現在は名誉会長。主な著書に『コーチング思考』(マネジメント社)、『コーチング・ビジネスのすすめ』(合同フォレスト)、執筆に「社長の想いを軸にするパートナー型コンサルティング」「伴走支援とコーチング」(『企業診断』同友館)など。

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必死に働いた末、心が空っぽに…気づいた40代内科医に始まった変容とは?
(画像:本文をもとに生成AIで作成)
※本記事は『コーチング思考から始める「問いの力」: 「答え探し」をやめて、「私という問い」を生きる4つのステージ』を再構成したものです。

「正しいこと」を続けていたら…なぜ心が空っぽになったのか

「患者さんのために必死で働いていたのに、気づいたら、心が空っぽになっていたんです」
 40代のGさんは、長年現場の第一線で働いてきた大学病院の内科医です。

 忙しい外来、時間に追われる病棟、1人ひとりに十分に向き合えないもどかしさを抱えながらも、「自分がやらなければ」という思いで、毎日を全力で走り続けていました。朝は早く、帰りは遅い。休憩中もカルテのことが頭から離れない。それでも彼は、自分を責めることはありませんでした。

「患者さんはもっと大変なんだから」「自分が弱音を吐く立場じゃない」

 そう言い聞かせながら、疲労や違和感を、プロとして当然のこととして飲み込んでいたのです。

 ある日の夜、すべての業務を終え、静まり返った院内の廊下を歩いているときでした。不意に、足が止まったと言います。

 特別な出来事があったわけではありません。ミスをしたわけでも、誰かに責められたわけでもない。ただ、その瞬間、胸の奥にぽっかりと穴が空いているような感覚が広がりました。

「……何も感じていない」

 疲れているはずなのに、達成感も、充実感もない。やり切ったはずなのに、「今日一日を生きた」という手応えがない。彼はその場で、初めて立ち止まりました。

 帰宅後、白衣を脱ぎ、いつものようにシャワーを浴びながら、ふと、こんな思いが浮かびます。「自分は、何のために、ここまでやっているんだろう」

 それは、これまで一度も真正面から考えたことのない問いでした。

 医療者として大切にすべき価値は、研修でも、現場でも、何度も教えられてきた。患者中心、チーム医療、社会的責任、どれも正しい。どれも間違っていない。

 けれど、その夜、彼の内側から浮かんだ問いは、それらとは少し違っていました。「私は、誰のために医療をしているんだろう」

 その問いに、すぐ答えは出ませんでした。むしろ、答えが出ないことが、彼を少し不安にさせました。

「こんなことを考える自分は、医療者として失格なのではないか」

 そんな思いすらよぎったと言います。しかし同時に、彼はこうも感じていました。

「この問いをなかったことには、もうできない」

 これまでの彼なら、忙しさに紛らせて、この問いを押し戻していたでしょう。でもその夜は違いました。問いは、責めるようでも、急かすようでもなく、ただ静かに、そこにあり続けたのです。

 コーチングの場で、彼はこの体験を言葉にしました。

「患者さんのため、社会のため、正しいことをしてきたはずなのに、自分がどこにもいなかったことに気づいたんです」

 その言葉を口にしたとき、彼の表情は少し緩み、呼吸が深くなりました。

「問いが浮かんだことで、何かを変えようと思ったわけではありません。でも、外側の正しさだけで走り続けてきたことに、初めて気づいたんです

 違和感が生まれたとき、人は初めて、外側の答えから、ほんの少し距離を取り始めます。それは反抗でも、理想の放棄でもありません。

 「正しい医療」をやめるのではなく、「私にとっての意味」を問い始める──この瞬間こそが、「自分の内側にも問いがある」という事実に気づき始める段階、ステージ2への入口です。

 大きな決断は、まだ必要ありません。ただ、問いが自分の内側から立ち上がったことに気づいた。それだけで、変容のプロセスは、すでに始まっているのです。
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「私、何に引っかかっているんだろう?」という違和感の正体

 多くの人は、問いを「誰かに与えられるもの」だと思っています。

 しかし、真の問いは外部から与えられません。問いは、内側から湧き上がる感覚として立ち上がります。

 コーチングの現場で、クライアントがしばしば口にする言葉があります。
「あれ、これって……私、何に引っかかっているんだろう?」
 この瞬間、すでに問いが生まれています。

 その問いは、コーチからの働きかけによって生まれることもありますが、クライアントの内側が反応して立ち上がってきたものです。問いとは、「今の自分の生き方では収まりきらなくなったときに、自然と立ち上がるもの」なのです。

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【画像付き記事全文はこちら】違和感が、内側からの問いの入口になる
違和感が、内側からの問いの入口になる
(画像:本文をもとに生成AIで作成)

仕事の悩みを深掘りするために必要な“一段上の視点”

 ステージ2の中心にあるのが、メタ認知です。メタ認知とは、簡単に言えば、「自分の考え・感情・行動を、一段高い視点から眺める力」のことです。
「今、私はなぜこの選択をしたのだろう?」
「その判断の裏では、どんな感情が動いているのか?」
「私は本当は、何を恐れて立ち止まっているのか?」
「何が私を動かし、何が私を止めているのか?」
 こうした問いが立ち上がるとき、人は初めて出来事そのものではなく、それに反応している自分自身を見始めています。この視点が生まれることで、問いは外側の正解探しから、内側の意味探しへと向きを変えていきます

 ところが、メタ認知には1つ、大きな難点があります。 【次ページ】「自分はできている」と思う人ほど、見落としていること
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