- 2026/08/14 06:10 掲載
「分かってくれるのはChatGPTだけ…」なぜ人はAIに心を感じる? 脳科学者に聞いてみた(2/3)
「心は存在しない」の真意──心の正体は〇〇だった
毛内氏は、2024年に上梓した著書『心は存在しない』で、「心」の正体について脳科学の視点から考察している。このタイトルは、そもそも私たちが一般にイメージするような、“ふわっとした心”が独立して存在するのではなく、脳科学や神経科学で説明できる実体があることを意味する。
毛内氏は「現代の人間は、心を重視しすぎる」と述べる。人は悩みや不安に振り回され、ときには心を病み、自分の弱さや人格の問題として受け止めてしまう。
「私が主に研究しているグリア細胞は、神経細胞が安定して働くための環境を整え、エネルギー供給や老廃物の処理にも関わっています。私たちの気分や思考も、脳や身体の状態と切り離せるものではありません。だからこそ、心の不調をすぐに人格や意志の弱さだけの問題と捉えず、睡眠や体調、環境に目を向けてみてよいのだと伝えたいのです」(毛内氏)
先にも述べたように、もともと脳は何にでも心を見いだし、物語を創り出す性質を持っている。その性質と密接に関連しているのが「身体」だという。
私たちの身体は自律的に一定の状態を保とうとする。たとえば、暑ければ汗をかき、寒くなれば鳥肌が立つ。この身体の自律的な変化に、脳は“意味”を持たせようとする。身体の変化を脳が読み取り、意味づける過程は、感情や心を形づくる重要な要素だと毛内氏は語る。
「昔から『泣くから悲しいのか、悲しいから泣くのか』という議論がありますが、いまだに決着はついていません。ただ、脳を研究すればするほど、身体が欠かせないことが分かってきます。身体が先に変化し、それを脳が意味づけている側面もあるのです」(毛内氏)
AIと人間の脳はどう違う?人間にしかない「強み」
毛内氏は、人間の脳の大きな特徴は「省エネ」であることだと語る。人間の脳は、約20ワットに相当する代謝エネルギーで働くと見積もられており、高いエネルギー効率を持っているという。
脳とコンピュータでは処理の仕組みや得意な課題が異なるため、必要なエネルギーを単純に比較することはできないが、それでも、脳が限られたエネルギーで効率よく働く独自の仕組みを持つことは確かだ。その仕組みの1つが、「思考のショートカット」である。
「スーパーマーケットで醤油を探すとき、私たちはけっして、棚を端から端まで順番に見て探しません。『店の真ん中の棚あたり……』と推論します。人は、過去の経験や文脈を使って探す範囲を素早く絞ります。脳とAIでは、情報の処理方法や得意な課題が異なるのです」(毛内氏)
毛内氏は「脳がコンピュータになる必要はありませんし、コンピュータが脳になる必要もありません」と述べる。両者は役割が異なるのだ。そのうえで、人間の脳が持つ「強み」を次のように説明する。
「人間が得意なのは、答えがないことにずっと取り組めることだと思います。不確実なことに耐える力という意味で、私は『脳の持久力』と呼んでいます。たとえば、コミュニケーションやリーダーシップに答えはありません。このような、『答えがないことに取り組み続けること』は、人間のほうが圧倒的に得意なのです。そして、こうしたちょっと泥臭いし人間臭いことの価値が、今後も高まっていくかもしれません」(毛内氏)
そもそも「人工知能」とはいうが「人工知性」とはいわない。毛内氏は、正解を速く導き出す能力を「知能」、答えのない問いに向き合い続ける力を「知性」と捉えているといい、両者を区別して考えていると語る。
「AI時代に求められる人間の知性こそが『脳の持久力』だと思います。ところが、現代人は慢性的に脳が疲れていて、脳の持久力が低下しているのではないかという点は心配しています」(毛内氏)
AI・生成AIのおすすめコンテンツ
AI・生成AIの関連コンテンツ
PR
PR
PR