• 2026/09/01 06:10 掲載

川村元気氏と東大・稲見教授が語る…決定的なクリエイティブ生む「カオス」なぜ重要?

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優れた技術も、魅力的なエンタテインメントもそれだけでは世界に届かない。テクノロジーとアートとストーリー、そしてビジネスが分断されがちな日本において、その壁を意図的な「カオス」によって壊そうとする試みがある。映画監督・映画プロデューサー・小説家の川村元気氏と東京大学の稲見昌彦教授らが立ち上げた知的創造プログラム「東京大学カオスキャンプ」だ。同キャンプが目指した「カオス」とは具体的に何を指すのか、そして、日本のクリエイティブが世界と戦うために必要な視点は何か。川村氏と稲見氏が語った。
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東京大学カオスキャンプを主催した、川村元気氏(左)と東京大学の稲見昌彦教授(右)に話を聞いた

もはや「良いものを作れば届く」では足りない?

 優れた技術を生み出せば、そのまま社会に届く。魅力的な物語やアートがあれば、世界を動かせる──。もはや、そう単純な時代ではない。エンターテインメントにはテクノロジーとの接続が、工学には生み出した成果を物語や社会的な価値へ変える視点が求められている。

 ところが日本では、技術、アート、ストーリー、ビジネスを担う人材が、それぞれ別の場所で育ち、互いの言葉や発想に触れないままになりがちだ。高い専門性を持っていても、異なる領域と接続できなければ、技術や表現の可能性を十分に引き出せない。

 その分断を、あえて「カオス」によって壊そうとしているのが川村元気氏と東京大学の稲見昌彦教授らが立ち上げた知的創造プログラム「東京大学カオスキャンプ」である。

 同キャンプは、理系、文系、アートといった既存の枠にとらわれない創造教育の場として、未来を創る「知財(IP)」「人材」「ビジネス」の3つを生み出すことを目指し2025年に始動。第一期は、東京大学や東京藝術大学など全4大学の学生30名が参加した。

 学生は9つのチームに分かれ、川村氏や稲見氏をはじめとした日本を代表するクリエイターや起業家、研究者らと対話しながら、7カ月間のプログラムを通してロボットや映画、ゲームなどさまざまな形の制作物を作り上げた。

 さまざまなバックグラウンドを持つ学生らが、「体系化された正解」のない場に集まり混ざり合う。「カオス」の中で異分野と出会うことは、技術や表現をどう変え、世界で戦える創造性をどう育てたのか。川村氏と稲見氏に聞いた。
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――お二人が携わってこられた「東京大学カオスキャンプ」について、どういう場として定義されていますか?

川村 元気氏(以下、川村氏):エンタテインメントの世界だと、もはやストーリーやアートだけではブレイクスルーするものが作れず、テクノロジーと接続する必要を感じています。

 たとえば、ピクサーは、ジョン・ラセターというディズニー出身の天才的なアニメーターと、スティーブ・ジョブズがタッグを組むことによってできたアニメーションスタジオです。同社はテクノロジーとアニメーションが合体することで、世界規模のアニメーション作品を制作していますが、日本だとその両者が分断されている印象がありました。そのため日本でも、ストーリーを作る人、アートを作る人、テクノロジーの人、それをビジネスとして組み立てられる人みたいなものが、カオティックに混ざり合う場所を作ってみたいという思いが一番にありました。

稲見 昌彦氏(以下、稲見氏):私は大学で工学系の組織に所属しています。今まで工学系の教育というと、ものづくり教育という側面が多かったのですが、今は「いいもの」を作れば、そのまま世に出ていくというほど簡単な話ではありません。ものづくりで生まれた成果物を世の中に出していく際、それをどう物語に変えていくか。その部分を「東京大学カオスキャンプ」を通じて、テクノロジー側の立場として橋をつなぎたいと考えていました。

――参加した学生の皆さんはそれぞれ得意分野や専攻も異なり、共通点のない「カオス」な現場だったと思います。その「カオス」がもたらす可能性について、どのように期待されていて実際どうだったのかを教えてください。

川村氏:「カオスキャンプ」という名称を付ける前に東大の先生方と何回も話し合いをしました。そこで感じたのは、教育の場から学生のスタープレイヤーが出てくるということが日本のエンタテインメントやテクノロジーの未来にとって、とても重要だということです。

 スタープレイヤーがどんな条件下で生まれるのかと話をしていて、結論は「カオス」だと。教える側もシステム化されていない。来る学生も未知のものに飛び込む勇気がある。お互い何を得るか分からないで来ている、つまり体系化していない。そうすることでみんな考え続けるし混じり合う。すると持っている素質の5倍、10倍のパワーを発揮する学生が出てくる。もともとはまったく関わりがないはずの人々が出会って、思わぬ化学変化が起きる。絶えず変わり続けて、体系化しないこと。この「カオスであり続ける」ことは常に意識したいなと思いました。

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稲見氏:やはり「場の持つ力」は大きいと思います。この場の持つ力というのは、空間をどう設計するかという話になりがちなのですが、最大の場の持つ力は、面白い人、変な人が集まっている場という点だと思います。ただ、全員が完全に違う方向を向いているのではなく、お互いが思い描いているものを見せ合いながらつながることができる。全体として見たときに、最初は共通言語がまったくないのですが、何かの構造が見えてくる。それがつながったりつながらなかったりする部分を、面白いと思えるか。今回はそれを面白いと思える人が集まっていたということです。

――その「カオス」の中で、クリエイティブが育っていったという実感はお持ちになりましたか。

川村氏:非常に手応えがありました。たとえば、ロボットをとても早いスピードで上手に作れる、世界のロボコンで優勝するような実力を持つ学生がいたのですが、その学生は自分が作っているロボットが最高に美しくてかわいくて、世界中の人がそのロボットを愛していると思い込んでいました。

 一方、ロボットにまったく興味がない、芸大で漫画を描いている学生がいた。奇しくもそのふたり組んで「かわいいロボット」を作ろうという試みが始まりました。そこで彼は、自分の作っているロボットがかわいいとか美しいと褒められるためには、「物語」や「かわいさ」という要素が必要だったのだと、生まれてはじめて気付いたのです。その瞬間は非常に感動しました。そこから彼はみるみる作るロボットのレベルも上がり、ロボットをどう社会に接続するかという視点を手に入れたのです。

 もう一方の芸大の学生も、自分の描いていた絵がロボットに実装されることで、ここまでみんなに喜ばれるのだと気付いた。つまり、自分の才能がこうして世の中に接続されるのかと気付いた瞬間に、技術や表現の幅が飛躍的に伸びた。これは仕事でも同じで、こうしたら客に喜んでもらえる、こうやって社会に広がってヒットする、というのを実感したときに上達する。それを学生の頃に経験できるというのは、非常に重要なのではないかと思いながら見ていました。

稲見氏:その話をロボット研究の立場から広げると、たとえばマラソンでとても速く走るロボットを作る際、どのぐらい速くできるかは勝負しやすいですよね。でもそこで「かわいいロボットコンテスト」を行います、となった場合、速く走るロボットを作っていた人たちは、まず困ると思います。

 「かわいさA」と「かわいさB」を比較するのも難しければ、どう設計したらいいかもわからない。でも、何か「かわいさ」というものはあるらしいと。それをどう実現していくかは、実は新しい技術としてのチャレンジですし、それが実現できるようになると、単なるスピード開発競争とは違う軸を出せるのではないかなと思います。 【次ページ】川村氏が意識する「プロの条件」とは
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