- 2026/10/14 07:10 掲載
マッキンゼーが名指し、日本が勝てる“5つの領域”…未来は「極めて明るい」ワケ(4/4)
日本が勝てる領域(1)(2):量子センシングと光電融合
前編でも紹介したように、マッキンゼーが「2025年の技術トレンド」で示した方向性の中でも、2026年にはフィジカルAIとエージェンティックAIが中核テーマとしてさらに浮上している。工藤氏は、その中で特に日本企業が強みを発揮できる領域をいくつか挙げる。量子技術もその1つだ。「特に量子力学を利用して極めて微小な物理量を高精度で測定する技術である『量子センシング』に注目しています。ここは日本が得意とする製造業の領域であり、日本が持つ精密工学やレーザー制御、真空技術などが直結すると思います。
こうした強みは量子技術だけにとどまりません。たとえば、レーザーや光学、精密加工、半導体製造といった技術は、電子回路と光回路を融合する『光電融合』やシリコンフォトニクスにもつながります。生成AIやフィジカルAIの普及で計算量やデータ量が急増すると、データセンターでは演算性能だけでなく、半導体間やサーバ間で膨大なデータをいかに高速かつ低消費電力でやり取りするかが大きな課題になります。光を使ったデータ伝送や光電融合は、そのボトルネックを解消する重要な技術になると考えています。
量子センシングと光電融合は異なる技術ですが、レーザー、光学、材料、精密加工、製造・実装技術など、日本企業が長年蓄積してきた技術が生かせるという点では共通しています。今後、量子やフォトニクスを含む新しい産業が本格的な量産フェーズに移っていく際には、ハードウェアを中心に日本企業が世界で大きな役割を担うチャンスがあると考えています」(工藤氏)
日本が勝てる領域(3):ロボット大国が握る“2つの層”
また、フィジカルAI(Physical AI)を中核とするロボティクスも日本企業が強みを発揮できる分野だ。VLAモデルと世界モデル(World Foundation Model)の融合により、ロボットが環境を理解し自律的に行動する「フィジカルAI」の実用化が2026年に本格化している。NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は「ロボットのChatGPT momentが到来した」と述べ、Figure AIのヒューマノイドがBMW工場で67時間連続の自律稼働を達成するなど、商用実証が進んでいる。先進国の中で最も速いペースで少子高齢化が進む日本にとって、早期に導入・活用が求められる領域でもある。
ただし、本格的な導入にはまだ課題も多い。たとえば、シミュレーションから実環境へのギャップ(Sim-to-Real)、安全認証、学習データ不足、バッテリーの問題、ロボットの動きを制御するアクチュエーターや減速機の量産の問題、さらに食品産業で活用する際に不可欠な「HACCP(ハサップ)」(※注1)をはじめとする各種規制への対応も不可欠だ。
ヒューマノイドの本格スケールにはあと5~7年程度の時間軸が必要という見方もある。
※注1:Hazard Analysis and Critical Control Point。食品の安全を守るための国際的な衛生管理手法のこと
「この領域で日本企業は優位性を持っています。特に精密モーターや減速機、センサー、制御ソフトウェアといったメカトロニクス系の領域は世界トップクラスです。
フィジカルAIを実際のロボットとして社会実装するには、VLA(Vision-Language-Action)のようなAI基盤モデルだけでは十分ではありません。大量の動画やロボットの行動データを使ってモデルを学習するクラウドやデータセンターなどの学習基盤、カメラや各種センサーから得られる情報をロボット上で低遅延に処理するエッジAI、AIが生成したAction(行動)をモーターやアクチュエーターの動きへ安全かつ確実に変換するリアルタイム制御や安全技術、そして実際に物理世界へ力を伝えるアクチュエーションまで、複数の技術レイヤーを統合する必要があります。
AIモデルや大規模な学習基盤では海外企業が先行していますが、AIがデジタル空間から実世界へ近づくほど、センサー、半導体、精密モーター、減速機、アクチュエーター、制御機器、機能安全など、日本企業が長年培ってきた技術の重要性が高まります。
つまり、フィジカルAI時代の競争力は、最も賢いAIモデルを誰が作るかだけでは決まりません。AIが世界を『見る・理解する』能力を、実際に『安全に動く』能力へどうつなげるかが重要です。ロボットが周囲の環境を認識し、自ら判断しながら人と協働していく世界では、日本のものづくりやメカトロニクス、制御技術の基盤が、世界に大きく貢献できると考えています」(工藤氏)
2026年現在、フィジカルAIは学習基盤(データセンター)、エッジ推論(Jetson Thor等)、安全制御(Safety MCU)の3層アーキテクチャーで設計される潮流が強まっており、後者2層は日本のメカトロニクスの強みが直結する領域だ。
日本が勝てる領域(4)(5)とアレックス氏「未来は明るい」
マッキンゼーでは、その他にも製造装置に強みを持つ半導体分野、データセンターなども日本が強みを発揮できる領域として注目しているという。そしてアレックス氏は、こうした強みを持つ日本の未来について「極めて明るい」と次のように述べる。
「私が初めて日本に来たのは33年前の1990年代前半でした。当時、私は学生でしたが、日本にすさまじいエネルギーを感じました。そしていま、日本にはそのエネルギーが戻りつつあると感じます。日本には素晴らしいテクノロジーの遺産があります。こうした歴史、土台がなければ新しいものは作れません。私は、日本の未来は極めて明るいと思います。ぜひ、そのことを皆さんにお伝えしたいと思います」(アレックス氏)
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