とりわけ、米国の産業界には情報化に対する懐疑の念が強まった。Gleckman, et al(1993)によると、米国の産業界は1980年代に多額の情報化投資を行ったものの、生産性の向上にはみるべきものがなく、当時破竹の勢いにあった日本と比べて、かなり見劣りするマクロ経済のパフォーマンスに失望感が漂っていたとされる(注1)。
裏付けられたパラドックス
こうした現実は、研究者たちの関心もひきつけた。Baily and Gordon(1988)は、1973年以降にみられた生産性上昇率低下の謎に迫るべく、統計上の計測問題などをいくつかの業種にわけて分析しているが、その中でも、特に「コンピュータ投資の効果が公式の生産性統計に現れないのは何故かという問題を重要な鍵(注2)」と位置づけて、詳細な検討を行った。
Baily and Gordon(1988)では、「ソロー・パラドックス」についての明示的な言及はなされていないが(注3)、彼らの研究が生産性上昇率低下の原因を解明しようとした点では、「生産性上昇率が低下したのは何故か」というソローの問題意識に適うものであった。同時に、その原因を特にコンピュータ利用度の高い業種に焦点を当てて統計上の計測問題から分析したものの、結果的にそれが棄却されたという点で「情報化が進んでも生産性向上が確認されない」という「ソロー・パラドックス」を支持する結果にもなったのである。