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- 2011/01/27 掲載
EPUBとは何か?XMDFとは?乱立する電子書籍規格を整理する: 端末・規格・流通で電子書籍を比較する(中編)
各社各様の戦略で進む電子書籍規格
しかし、端末だけが発売されても意味はない。肝心の電子書籍(コンテンツ)の普及こそが、これからの電子書籍の発展の鍵となる。電子書籍の点数はまだまだ少なく、読める本は限定されているが、これからの発展に欠かせない要素の1つとして挙げられるのが、電子書籍の「規格」の標準化と著作権保護の仕組み(DRM)である。今回は、これを切り口に電子書籍市場を読み解いていこう。
まず、主要な電子書籍のフォーマットとして、オープンな規格である「EPUB(イーパブ)」が挙げられる。「EPUB」とは、米国の電子書籍標準化団体であるIDPF (International Digital Publishing Forum) が策定に関わり、特定の企業やサービスに依存しない、オープンな電子書籍規格である。「EPUB」の現行バージョンである2.xは、電子書籍コンテンツの記述方法を定義したファイルや構成要素を定義したファイルがXHTML/HTMLで記述され、CSSや画像データなどでデザインされているZIPパッケージに過ぎない(図1)。かみ砕いて言えば、ファイルをまとめて圧縮したファイルだ。
「EPUB」はアップルが自社の書籍流通プラットフォーム「iBookstore」での標準規格として採用したことで一躍有名となり、電子書籍フォーマットのスタンダードとして語られることが多い。オープンな規格だけあって、このフォーマットを利用するにあたって、ライセンス料は発生しない。アップル製のワープロソフト「Pages '09」では標準でドキュメントを「EPUB」形式に書き出す機能を備えているほか、オンラインウェアでも無料のEPUBオーサリングツールが続々と登場しており(図2)、容易に利用できるのが最大の特徴だ。ほかにも、画面の大きさなどに合わせて文字のサイズが容易に変更できること(これをリフロー機能と呼ぶ)、ファイル内に別のファイル(PDFなど)を埋め込むことが容易なこと、ラスターだけでなくベクター画像にも対応していること、DRM機能(詳細は後述)にも対応していることなどが挙げられる。
しかし、現状の「EPUB 2.x」の仕様には日本語への対応は考慮されていない。このため、縦書き、ルビ、圏点(傍点)、禁則処理など、日本固有の組版データを正しく表示できない。また、EPUB自体の問題もある。雑誌のような複雑なレイアウトを表現するのが難しく、媒体の性格や方針に見合ったWebオーサリングテクニックやノウハウが必要になるからだ。
さらに「EPUB」を基本フォーマットとする「iBookstore」はまだ日本で正式に開始されておらず、主に英文の著作権の切れた無料の洋書のみを扱っているため、日本の出版社などが「iBookstore」へ参入できないという事情もある。このような問題から、日本では「EPUB」による本格的な出版事業の展開の事例はほとんどない。
しかし、IDPFは2011年5月に日本語に正式対応した「EPUB 3.x」の提供を表明しており、日本語特有の多くの問題がクリアされる見通しだ。このタイミングで多くの企業が対応を表明すれば、一気に普及する可能性もあるだろう。
また、米国では大きく普及したアマゾンの「Kindle」が採用するのが、「AZW」形式(Kindle形式)だ。独自のフォーマットであり、他の形式との互換性はなく、Kindle Storeで配信される書籍データ用に使われている。オーサリングについては「KindleGen」というソフトが配布されており、HTML、XHTML、XML、EPUB形式のファイルを「AZW」形式に変換できる。
ただ、アマゾンは仏Mobipocket社を2005年に買収し、同社が提供する.mobi形式もサポートしている。この規格はオープンで歴史も古く、Symbian、Windows Mobile、Palm、BlackBerryなどのモバイル端末でも採用されており、オープンとクローズドの両輪で、端末コンテンツの拡充を図っている。ちなみにアップルのiPad、アマゾンのKindleともにPDFなどのおなじみのファイルも閲覧できるなど、複数のフォーマットに対応している点は改めて注意しておいていただきたい。
【次ページ】主要な電子書籍フォーマット一覧、電子書籍のDRMを巡る状況と課題
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